理事長室での再会から一週間、私は再びエンジェルと顔を合わせていた。また会いに来るというのは社交辞令だとばかり思っていたけれど、エンジェルは律儀にも約束通り会いに来た。今日は私も学校が休みだったので、せっかくだからと一緒に街に出ることになったのだ。
とりあえず目についた喫茶店に入り、まずはお互いの近況を報告し合う。ここならメフィストさんの邪魔が入る心配もないので、安心して話ができるだろう。私は主に学校のことを、エンジェルは仕事の話や昔話をいくつか聞かせてくれた。そして会話がきりのいい所で途切れた頃、見計らったように彼が口を開いた。
「ヴァチカンへ来ないか、名前」
ここまでの会話の中で私は既に"今の自分には祓魔師になる気がないこと"、そして"できる限りそうしたものと関わらずに生きたい"と考えている旨を伝えていた。始めこそ反対した彼だったけれど、最終的には「わかった」と理解を示してくれたので打ち明けてよかったとほっとした。しかしそう思った矢先に、先程のお誘いだ。どういうことだろうと首を傾げる。
「率直に言おう。俺はメフィストの傍にお前を置いておきたくない」
「就職したらメフィストさんから離れられると思うよ。……多分」
「いや、名前はわかってない。あの悪魔がそう簡単に手放すとは思えない」
テーブルに置いていた手を強く握られた。
「できることなら今すぐヴァチカンに連れて帰りたいくらいだ」
確かに私もそう簡単にいくとは思わない。過去の人生を振り返っても、私の行きつく先は必ず祓魔師だった。今は普通に学生生活を送れているけれど、あと二年の間に何が起こるかなんてわからない。それならいっそ今のうちにヴァチカンに引っ越してメフィストさんとの関わりを減らすのも一つの手だろう。それを彼が許可してくれる可能性は限りなくゼロに近いけど。
「返事は今すぐじゃなくていい。ゆっくり考えて結論を出してくれ」
険しい表情から一変、エンジェルが微笑んだ。祓魔師の本部にはあまり近寄りたくないけれど、一般人として近づくだけならぎりぎり許容範囲内だ。メフィストさんからも少なからず離れられるし、エンジェルが傍にいてくれるのは心強い。
「ありがとう。エンジェルは優しいね」
「当然だ。今度こそ、お前の望む幸せを掴めよ」
真っ直ぐな彼の言葉に不覚にも泣きそうになる。せめて前世よりは長生きしたいと言えば、俺より先には死ぬなと頭を撫でられた。
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