重い。苦しい。動けない。
腹部に謎の重みを感じ、眠りについていた意識が強制的に呼び起される。頭だけを起こして腹部を見ると、そこには白いもふもふの塊が乗っかっていた。
「……犬?」
私の声に反応したのか、犬が耳を揺らして起き上がる。どうしてこの部屋にいるのか、ドアも閉めていたのにどこから入ってきたのか。次々に疑問が浮かび上がる私を余所に、犬は素知らぬ顔で再び丸くなった。お腹から下りるつもりはないらしい。
「君、どこから来たの? 部屋間違えてない?」
一応聞いてはみるものの、返事などあるはずもなく。かといって無理やり下ろすのも気が引けて、とりあえず様子を見ることにした。それにしても綺麗な毛並だなぁ。誰かのペットかな。いや、そもそもこの寮ってペット可だったっけ。
「……」
犬の首元に巻かれているスカーフの色合いが、どことなく例の悪魔を思い起こさせる。もしかしてメフィストさんのペット……なんてさすがにないか。聖十字学園に入学してから常に振り回されているせいで、何でもまずメフィストさんを疑ってしまうのが日常になってしまっている。きっと色が似ているだけだろうと自分に言い聞かせ、枕元のスマホに手を伸ばす。犬が起きるまでもう少し待ってみよう。
ふわあ。もう何度目になるかわからないあくびをする。元々昼寝の途中で起こされたようなものだし、眠りが足りないのかもしれない。それに加え、お腹の上で眠っている犬のあたたかさも丁度いい具合に眠気を呼び込んでいた。私ももう少し眠ろうかな。
「目が覚めたら飼い主さんを探しに行こうね」
未だ眠り続ける犬に声をかけて目を閉じる。
眠りに落ちる直前、メフィストさんの声が聞こえたような気がした。
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