「は―……、疲れ、た!?」
「遅かったですね。夜の一人歩きは危ないですよ」
部屋に戻るとメフィストさんが私のベッドを占領していた。何かの間違いだと思い、開けた扉を閉め、恐る恐るドアを開ける。駄目だ、やっぱり見間違いじゃない。
「また勝手に部屋に入って来てる……」
寮に戻って一番に見るものがメフィストさんだなんて、余計に疲れが押し寄せてくる。それにしても"理事長"なんて立派な立場の人が、ほいほい女生徒の部屋に入ってくるのは如何なものか。この悪魔に常識を説いても意味がないから言わないけど。
「お土産を持ってきましたよ」
前言撤回。理事長様にはゆっくり寛いでもらうことにしよう。手渡されたのは先日テレビで取り上げられていた最高級の焼きプリンだ。たしか一個で一万円を超える代物だったと記憶している。普段はちょっとどうかと思う部分も多いけど、メフィストさんのこうした"食"への飽くなき探究心だけは素直に尊敬する。
「どうぞゆっくりしていってください理事長様」
「もちろんそのつもりです」
「そういえば、どうして私が一人部屋を与えてもらえたのか、ずっと気になっていたのですが」
ベッドは占領されてしまっているので椅子に腰かけた。プリンはお風呂上りに食べることにして、買ってきたばかりの缶コーヒーを口にする。
「メフィストさんがこうしてサボる場所が欲しかっただけ……ってさすがにそんなわけないですよね。あはは」
「当たらずとも遠からず、ですね」
「……今からでも同じクラスの子と相部屋になれます?」
大抵は誰かと相部屋になるらしいが、私は入寮したときからずっと一人で部屋を使わせてもらっている。誰にも気を遣わなくていいから楽だと思っていたけれど、いつからか頻繁にメフィストさんが出入りするようになっていた。お土産を持ってきてくれるのは嬉しいけれど、なるべくこの人と関わらないように生活をするという私の目標をこうも簡単に砕かれてしまっては困る。近頃は多少の気を遣ってでも同級生と相部屋の方が良いのではないか、と考えるようになっていた。
「もう既に相部屋のようなものでしょう」
「誰とですか?」
「この私とですよ☆」
「ええ……嬉しくない……」
「なるほど、よほどこのプリンがいらないと見える」
「あっ嘘です理事長との相部屋嬉しいです」
prev next