迷い子SSS | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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 外からけたたましい蝉の合唱が聞こえる。いよいよ夏本番を迎えたこの田舎では、毎日のように蝉が大合唱していて、それが暑さに拍車をかけていた。

「あつい…」

 窓を開けて扇風機を回しても熱風が回るだけで少しも涼しくない。むしろ部屋の温度はどんどん上がり続けている。それでも太陽はまだ空の真上だし、エアコンのスイッチを入れるには少々気が引ける。だけどこのままでは部屋で私が茹で上がってしまいかねない。どうしよう、スイッチ入れようか。いや、でも、まだ我慢できるかも。どっちつかずの問答を脳内で繰り返しながら畳をゴロゴロと転がる。そのまま蝉の声を聞いていれば、猫の姿の兵助がするりと横を通り過ぎた。何の気なしに見ていると、彼は器用に机の上にあったエアコンのリモコンをとり、小さな足で電源ボタンを押した。ピッという音がして、心地よい冷風が部屋を冷やしていく。

「名前、熱中症になったらどうするんだ。今日みたいな日はエアコンつけないと」

 すっかり見慣れているとはいえ、猫が人間の言葉を話す姿というのはなかなかレアな光景である。

「うーん、まだ昼間だからつけようか迷ってて」
「昼間だからって我慢は良くないよ。特に昔と比べて最近の暑さは異常だからね」
「はーい」

 涼しくなった室内で、兵助がぴたりとくっついてくる。艶のある毛並みを撫でてやれば、ごろごろと喉を鳴らし、にゃあと鳴いた。


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