迷い子の愛し方 | ナノ
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 俺は雷蔵や三郎、兵助みたいに名前と昔から縁があったわけじゃない。兵助たちから話を聞かされていたおかげで存在は知ってはいたが、実際に会ったのは結構時間が経ってからだった。

「八左ヱ門、紹介するよ。この子がいつも話してる名前」
「おお、本当に俺たちが見えてるんだな」
「ほら、挨拶して」
「は、はじめまして。……名前、です」

 兵助の背中に隠れるようにして、名前は僅かに顔を覗かせる。人間の子供と会話するなんていつ以来だろう。すげぇ新鮮な気分。

「兵助から話は聞いてるぜ。俺は八左ヱ門だ。よろしくな」

 手を差し出せば、戸惑いながらも名前は手を握ってくれた。俺とは違う、小さくてあたたかい手だった。

「えっと、八左ヱ門……さん」
「八左ヱ門でいいよ。俺も名前って呼んでもいいか?」
「うん!……えへへ、八左ヱ門」

 名前が笑った。太陽みたいだと思った。ただ可愛らしいというのは違って、まるでそこだけ光に包まれているような、俺にはないあたたかさを彼女は持っていた。兵助の話を聞いているときは「人間にそこまで肩入れするなんて」と思ったが、なんとなく理由がわかったような気がした。こうして名前が隣で笑っていてくれたら、それはとても幸せなことなのだろう。

 それからは俺も兵助たちと同じように時間を作って名前に会いに行くようになった。またあの笑顔が見たくて、触れたくて。

「……はち」
「ん、起きたか?」
「……」
「なんだ、寝言か」

 山犬の姿に戻った俺にもたれ掛かりながら名前はすやすやと眠っている。もふもふして気持ちいいと騒いでいたかと思えば、少し目を離した隙にこれだ。あまりにも気持ちよさそうに寝ているので起こすのも気が引けてしまい、俺は何をするわけでもなく空を眺めている。まあ、これはこれで嬉しいけどな。少なくとも無防備に眠れるくらいには俺も信頼されてるってことだろうし。今はとりあえず、この貴重な時間を楽しむとするか。

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