人の姿に化け、すっかり覚えてしまった道を歩く。目的地である無人駅に着けば、俺に気づいた名前が駆け寄ってきた。
「迎えに来たよ、名前」
「ありがとう。あれ、勘ちゃん一人なの珍しいね」
「うん、今日は俺だけ」
本来ならこの役目は兵助のものだ。だけど今日は兵助に頼んで特別にその役目を譲ってもらったってわけ。だって兵助ばかり名前を独占してるんだよ。そんなの狡いじゃん。二人は同じ家に住んでるし、どこに行くのも大抵一緒だ。まあ雷蔵や三郎、八左ヱ門といることもあるけど、やはり圧倒的に傍にいるのは兵助だろう。俺だってもっと名前の傍にいたいし、可愛がりたいのに。だから今日は高級豆腐と引き換えに、なんとか迎えに行く役目を手に入れたわけだ。頑張ったよ、俺!
「二人で帰るの久しぶりだね。せっかくだし、どこか寄り道して帰ろうか?」
「賛成!俺、徳田屋の団子が食べたいな」
「勘ちゃんお団子好きだもんね」
「うん、あの店の団子なら毎日食べたいくらいだ」
ここは本当に小さな田舎町で、コンビニなんて便利なものはない。あるものといえば昔懐かしい雰囲気を残す小さな商店ばかりだ。そしてこの町唯一の和菓子屋が徳田屋だ。今の店主が確か八代目だったかな。俺は開店当時から通っているけど、その味も良い意味でずっと変わっていない。
「そういえば店主が夏限定でソフトクリーム始めるって言ってたなぁ」
「そうなの?夏になったら食べに行かなきゃ」
「行くときは俺も誘ってよ」
「もちろん。一緒に行こうね」
指切りげんまん。差し出された小指に、己の小指を絡ませる。夏なんて今まで何百回と経験しているのに、今はそれが楽しみで仕方がない。早く夏にならないかな。どちらともなく呟いた言葉に俺たちは顔を見合わせて笑った。
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