迷い子の愛し方 | ナノ
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 昔から変なものが見えた。あまりにも普通に見えていたので他の人にも同じように見えているのだと思っていた。だけどそれらは私にしか見えていなかったらしく、昔から友達もできず避けられてばかりで、両親も私を気味悪がった。優しく接してくれた人といえば父方の祖母くらいだろう。その祖母も、もういなくなってしまったけど。


「名前、おはよう」
「おはよ、今朝も早いな」
「雷蔵、三郎、おはよう」
「名前、寝癖ついてるぞ」
「えっ、どこ?」
「こら三郎、からかわないの。寝癖なんてどこにもついてないだろう」
「はは、悪い悪い。名前を見てるとついからかいたくなってしまってね」

 大学に行く前に、私は神社に立ち寄ることが多い。二人は普通の若い青年に見えるけど、この神社の神様だ。彼らは昔からよく話し相手になってくれていて、その関係は今も変わらず続いている。

「そろそろ行かなきゃ」
「名前、車や妖怪に気をつけてね」
「道草食って遅刻するんじゃないぞ」
「はーい。それじゃあいってきます」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」

 二人に見送られながら大学へ向かう。私の朝はこうして始まるのが習慣だ。そして、

「兵助、お待たせ」
「ん、行こうか」

 鳥居にもたれかかっていた兵助に声をかける。彼は日常的に妖怪に追われる私を心配して、こうして傍についてくれている。今日のように人間の姿をしていることもあれば、黒猫の姿の時もあるし、ストラップやキーホルダーなんかに化けている日もある。

「あ。待って」
「何? まさか兵助まで寝癖がついてる、なんて言い出さないよね」
「違う違う。忘れる所だった」
「なにを……!」

 兵助の綺麗な顔が近づいて、避ける間もなく頬に唇を寄せられた。

「朝の挨拶、まだしてなかったから」
「ど、どこでそんなこと覚えてきたの……」
「テレビで言ってた。挨拶の時にはハグとキスをするのが普通だって」
「それ、多分外国の話だよ」
「そうなのか?」
「とにかく外でキスやハグは駄目だからね。今はたまたま人目がなかったから誰にも見られなかったけど」
「わかった。家の中ならいいんだな」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「もうこんな時間だ。少し急ごう、名前」
「え、うん」

 兵助のおかしな知識を訂正できないまま、足早に大学へ向かう。兵助は長生きしているから色んなことを知っているけど、現代の知識に関しては少々疎い所がある。とにかく家に帰ったら誤解を解かなければ。そんなことを考えながら兵助の横顔を見ていたら、こちらの視線に気づいたのか目が合ってしまった。視線を逸らすことなく、ふわりと兵助が微笑む。それがあまりにも綺麗で、頭が真っ白になってしまった。美形って狡いなぁ。


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