基本的に夜は兵助と一緒に眠っている。兵助と寝るようになってから金縛りにあうこともなくなったし、部屋の中の妙な気配も消えていた。だから彼には本当に感謝している。している、けど。
「……?」
眠ったときは猫の姿だったはずが、目が覚めた私の隣には人の姿をした兵助がいる。しかも向き合う体勢でがっちり抱きしめられているおかげで動けない。なんとか抜け出そうと身体を動かすものの、そのたびに腕の力が強まって益々身動きがとれなくなっていく。
「兵助、起きるから離して」
「……」
「兵助」
「……名前?」
「おはよう。起きたついでに離して」
「……ん」
「待って寝ないで、寝るなら私を離してから寝て」
「……」
「寝ちゃった?」
「……」
「……」
「……」
「……ねえ、兵助は私のことすき?」
「だいすき」
「やっぱり起きてるじゃん!」
「今日は休みだからもうちょっとだけこのままでいさせて」
「えー……」
「お願い、名前」
「……仕方ないなぁ」
珍しく起きる気配がない兵助に抱きしめられたまま、私も目を閉じる。今日は大学も休みだから午前中に買い物を済ませておきたかったんだけど……また後でいいか。兵助の胸元にすり寄ると優しく頭を撫でられて、また眠たくなってくる。甘やかされているのはどっちなのだろう。
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