「私が死んだらお前はどんな反応をするだろうな」
鬼の目にも涙、なんて言葉があるが名前にもそれは当てはまるのだろうか。隣で寝転がる三郎が放った若干失礼な言葉に、私は手に持っていた本を落とした。ちなみに今はお昼休みで、私と三郎は学園内の木陰でのんびりしている最中だ。
「さあ、とりあえず泣くことはないと思うけど」
落としてしまった本を手に取り、眼前に広がる青空を見上げる。今日は本当にいい天気だ。
「……名前」
私の返事が気に入らなかったのか、三郎は面白くなさそうな顔でこちらを睨む。そんなあからさまにつまらなそうな顔をされても困るんだけど。まあ、さっきのだとちょっと言葉足らずかも。
「三郎がいなくなったら、私は泣くことも笑うこともできなくなるよ。だから泣かないわけじゃなくて、泣けない」
三郎のいない世界を生きる自分を、私は想像することができない。なぜなら私の日常は彼が隣にいて始めて成り立つものだからだ。だからもしも三郎を失ってしまったら、きっとまともには生きられなくなるだろう。忍者としてどうなんだ、とは思うけどそうなってしまっているのだから仕方がない。それほど三郎の存在は大きいのだ。
「すぐに追いつくから、三途の川で待っててね」
「……ばか。私はお前と違って気が長いんだ。すぐに来なくていい」
ふい、と三郎が顔を逸らす。来なくていいなんて言うくせに、その声音はひどく優しくて。嬉しいなら嬉しいって言えばいいのに。素直じゃないなあ。
「じゃあ私が先に死んだ場合も、すぐに来なくていいよ。気長に待ってる」
「約束はできない」
ゆるりと起き上がった三郎に後ろから抱きしめられる。少し痛いくらいに抱きしめてくる腕は、まるで彼の心の声を代弁しているようで。こんな調子じゃあ三郎もすぐに後を追ってきてしまいそうだ。まったく、いつからこんなに互いに依存するようになってしまったんだか。これでは忍のいろはを叩き込んでくれた先生たちに顔向けできないじゃないか。
「私より先に逝くな」
肩口に顔を埋める三郎の髪が身体にあたってくすぐったい。でも、それすらもどうしようもないくらいに愛おしくて。
「三郎こそ、勝手にいなくなったりしないでよね」
どうせなら同時に息絶えてしまいたい。そう呟けば、肯定するように抱きしめてくる力が強まった。このまま溶けてひとつになれたらいいのに、なんて。
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