※映画「火の意志を継ぐ者」ネタバレ含みます
「カカシ先生!」
卑留呼を倒した帰り道、私はカカシ先生に駆け寄った。本当は里まで我慢していようと思ったけど、カカシ先生本人を目の前にしたら我慢なんて出来なかった。
「あらら、凄い顔になってるぞ」
「凄い顔にもなりますよ!突然里を抜けたと思ったら誰かに操られてるし!いくら話しかけても気づいてくれないし!しかも自分を犠牲にするつもりだったなんて本当何考えてるんですかもっと自分を大切にしてくださいよ!」
色々な感情が混ざり合って涙と鼻水が止まらない。鏡を見なくても自分が酷い顔をしていることはわかっているが、状況が状況なので見逃してほしい。
助かった今だからこそ言えることだけど、カカシ先生を助けるまでの道のりは、精神的にも肉体的にも本当に辛かった。ヴィジュアル系バンドマンみたいな敵に襲われて怪我はするし、恋人のカカシ先生に声は届かないし。特に後者は私に物凄くダメージを与えた。おとぎ話のように「恋人の呼びかけで目を覚ます」なんて展開には勿論ならなくて、普通にスルーされて終わった。あのときのやるせなさと言ったらもう言葉にできない。
「とりあえず涙と鼻水拭こうか」
「昨日の夜中からおかしいとは思ってたんですよ!突然笑顔で『幸せになれよ』なんて言ってくるから何か変な物でも食べたのかと思ってたら……こんな……こんな大事件に巻き込まれてるなんて……ううっ。恋人なんだから一言くらい相談してくれたって……いや、忍者だから仕方ないのは分かってるんですけど」
泣きながら喚いているせいで、途中から自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。涙で滲む視界に苦笑いを浮かべたカカシ先生だけが映る。
「心配かけて悪かったね」
「そうですよ!本当に心配したんですからね!しかも一件落着したと思ったら皆が『ナルトとカカシ先生がそういう関係らしい』って話を始めるし!あれ?私ってカカシ先生の恋人じゃなかったっけ?って頭真っ白になりましたよ!」
「だからあれは誤解だって。そんなわけないでしょ」
「……」
「信じて、名前」
カカシ先生の指が私の頬を優しく撫でる。ナルト達が居てくれなければ、こうしてカカシ先生に触れられることももう二度となかったのだろう。助かったからこそ、彼が生きているからこそのぬくもり。そう考えるとまたどうしようもなく胸が苦しくなって涙が出た。
「……仕方ないから、信じてあげます」
真っ直ぐこちらを見つめるカカシ先生と視線を交わし、声を絞り出して呟く。
「ありがとう、名前」
そう言って私を抱き寄せる先生があまりにも優しく笑うから、私はまた声を上げて泣いてしまった。
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