場違いだ。あまりにも場違いだ。
千手とうちはの重要な会合が開かれている屋敷の一室、その片隅で私はうちは煎餅の入ったお菓子箱を抱えて座っていた。時折通りかかる人から投げられる視線が痛い。でもどうか誤解しないでほしい。私だって好き好んでこの場にいるわけではないのだから。
事の発端は数十分前、夏季限定のうちは煎餅を食べようと箱に手をかけたところで家に後輩が飛び込んできた。彼女は私を担ぎ上げ、物凄い速さでこの屋敷へやって来た。そこでようやく私を連れてきた理由を告げられる。端的に言うと「マダラの機嫌が悪くて会合が進まない。とても話し合いをするような空気ではないので助けてほしい」というものだった。私にマダラの機嫌を直すことなどできないと伝えたものの「先輩は居てくれるだけで大丈夫です。そうすれば頭領の機嫌も勝手に直ります!」と胸を張って答えられた。普段なら柱間がマダラを宥めてくれているが、今日に限って彼は任務で里にいないらしい。なんてこった。
「何故ここにいる」
畳の目を数えることにも飽きた頃、ふっと頭上に影が差した。マダラだ。後輩の話通り、いつも以上に難しい顔をしている。不機嫌全開だ。しかしここで正直に「マダラの機嫌が悪くて空気が最悪だからどうにかしてくれと頼まれた」なんて言ったら色々終わってしまうのだろう。私はまだ終わりたくない。
「これ」
「何だ」
「うちは煎餅の新作が出てたから買ったの。おいしそうだったからマダラにも早く食べてほしくて、持ってきちゃった」
自分でもかなり無理があるのはわかっている。けれど、もうこれくらいしか理由が思い浮かばなかった。助けてうちは煎餅。
「オレが帰るまで待てなかったのか」
「ごめんなさい」
終わった。駄目だもう絶対怒られる。
「……本当に仕方のないヤツだ」
思わず顔を上げた。マダラの声が想定していたよりずっと優しかったからだ。相変わらず気難しそうな表情はしているものの、心なしか雰囲気も和らいでいる。
「怒らないの?」
「怒られたいのか?」
「ううん、違うけど……」
「すぐに終わらせる。もう少しだけ待っていろ」
そう言うや否や奥の部屋に戻っていくマダラ。それから驚くほどの早さで会合が終わり、私はようやく帰宅することができたのだった。後日、例の後輩に「柱間さんがいないときはまたお願いしますね!」と眩しい笑顔を向けられてしまうわけだけど、それはまた別のお話。
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