私たち家族には前世の記憶がある。忍として戦争を繰り返す日々。そして自分の死の間際までの記憶がはっきりと脳裏に焼き付いていた。
前世の私は六歳で死んだ。頻繁にどこかへ出かけるようになったマダラ兄さんの後を追っていた途中、敵の大人たちに見つかって殺された。どこの一族に殺されたのかを確認する余裕もなく、大好きな兄達に会えないまま呆気なく人生を終えたのだ。
生まれ変わった今、私はまたうちはの家に生まれ、マダラ兄さんとイズナ兄さんと共に暮らしている。以前と変わったことと言えば、兄達の過保護過干渉に拍車がかかっていることだろうか。どうやら二人は私が自分たちの目の届かないところで殺されたことを引きずっているらしい。あの頃よりずっと平和な時代になっているし、そこまで心配しなくても大丈夫だと伝えてはみたけど彼らにはまるで意味がないようだった。
「もう、いい加減にして! 兄さんは過保護すぎるよ!」
今日も今日とてマダラ兄さんの過保護が発動していた。外出しようとすれば必ずついて来るし、なんとか一人で出かけられたとしても頻繁に連絡が入って安否や状況を確認される。私の予定や友人もいつの間にか把握されているし、兄さんは束縛の酷い彼氏か何かか。例を挙げるときりがないけど、そういうことが積み重なってついに兄に怒りをぶつけてしまった。落ち着け、と私を宥めようとする兄の手を振り払い、無言で睨みつける。
「えっ」
そのまま睨み合っていると兄の頬を何かが流れ落ちていった。汗じゃない。な、泣いてる。
「ごごごごめんなさい泣かないで。私は兄さんを傷つけたかったわけじゃなくて、」
生まれて初めて見たそれに私の怒りは瞬時に消え去った。
「……いや、オレが悪い」
バツが悪そうに顔を逸らした兄さんに勢いよく抱きついた。このまま放っておいたらどこかに消えてしまいそうなくらい弱々しく見えたからだ。どうすればいいかわからず、幼い子供を慰めるように「ごめんなさい、言い過ぎた」と背中を優しく擦る。兄さんが心配してくれてるのはわかるし嬉しいけど、あまりにもそれが行き過ぎてる気がして……と矢継ぎ早に言葉を続けた。「わかってる」と返事はするけど、こんな状態の兄さんを放っておけるはずもなく、この日はいつもとは逆で私が兄さんにぴったり寄り添って過ごすことになった。
その出来事以降、本当に少しだけ過保護がましになったような気がする。他人から見ればまだまだ酷いみたいだけど、それについて指摘するとまた兄さんが物凄く悲しそうな顔をするので何も言えなくなっているのが現状だ。でも一応伝えたら話は聞いてくれてるし進歩はしている……はず。きっと。
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