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これと同じ世界線


 目が覚めると知らない天井が広がっていた。

 布団に寝かされていることに気づき、身体を起こそうとするとあちこちが痛んだ。そこで昨夜のことを思い出す。昨日もいつものように兄の関係で女子の集団に囲まれて喧嘩が始まった。今回は普段よりもずっと大人数が相手だったのでこちらも相応の怪我を負った。それでも辛うじて喧嘩に勝ち、相手を追い払ったところまでは覚えている。そのうち殴られた頭が痛くなって、そこから先が思い出せない。

「……」

 腕や足など怪我を負った箇所には丁寧に手当てがされている。ここはどこだろう。この家にもまるで見覚えがない。布団からのろのろと這い出し、屋敷の主を探すことにした。


 広大な屋敷内をさ迷い、ようやく玄関らしい場所に辿り着いたところで戸が音を立てて開いた。

「え、」
「お前……」
「な、なんで」

 玄関から入って来たのはあの警官だった。思考が停止して何も言えずにいると彼は私をつま先から頭のてっぺんまで一瞥し「また派手にやったな」と溜息をついた。

「あなたが助けてくれたんですか」
「違う」
「じゃあどうしてここに」
「ここはオレの家だ」

 ますます意味がわからない。困惑する私を引き連れて、彼はとある一室に入った。


「驚かせてしまっただろう。すまなかった」

 そう言いながらお茶を出してくれたのはこの家の主だという柱間さん。どうやら警官のお兄さんらしい。思わず「全然似てない」と呟くと警官に睨まれた。

「いえ、こちらこそすみません。傷の手当てまでしていただいて……」
「頭を上げてくれ。君を見つけて連れて帰ってきたのはオレの孫でな、」

 柱間さんは朗らかな口調で説明を続ける。彼のお孫さんである「綱手」さんという人が帰宅途中に路地で倒れている私を見つけ、ここへ運んでくれたそうだ。

「そういえば家族に連絡はしたか? 年頃の娘が一晩帰ってこないとなると、さぞ心配しているだろう」

 柱間さんに言われてハッとする。制服のポケットに入れたままになっていたスマホを取り出すと、マダラ兄さんとイズナ兄さんから大量の着信やラインが届いていた。

「家まで送ろう」
「……はい」
「そう暗い顔をするな。大丈夫だ」

 にこにこと笑う柱間さん。兄たちとは正反対のような人だと思った。こんなに優しそうな人が兄さんに会ったら怖がらせてしまうかもしれない。そんな私の不安を知ってか知らずか警官は「兄者に任せておけ」と何事もないように言い放った。


 結論から言うと、柱間さんはマダラ兄さんの友人だった。帰宅した直後は私が男性と一緒にいることに気づいた兄たちの雰囲気が恐ろしいことになったけれど、その相手が柱間さんだとわかると態度が一変した。柱間さんは「綱が名前を気に入ってな、つい一晩引き留めてしまったのだ」と笑っていた。

「名前が世話になったな、柱間」
「気にするな。名前さえよければまたいつでも遊びに来てくれ」
「ありがとうございます」

 怪我は外で遊んでいるうちについたものだということにした。二人は私の説明にあからさまに怪訝な顔をしていたけれど、それ以上追及してくることはなかった。

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