「姉ちゃんはなんであんなジジイの傍にいるんだ?」
「随分とストレートに質問をぶつけてきたね」
マダラに拾われた少年、オビトが澄んだ瞳で問いかけてきた。向こうから話しかけてくるなんて珍しいと思ったけど、彼はまだまともに身体を動かせる状態ではないから多分暇なんだろう。マダラは基本的に寝ているし、かといってゼツ達とずっと会話をするのも色んな意味で難しそうだし。
「老人愛好家だからだよ」
「げっ、マジ!?」
「ごめん嘘ついた」
「さらっと嘘つくのやめろよ……」
「でもどうしてそんなこと聞くの?」
「……姉ちゃんはまだ若いし、こんな所に籠もってるのは勿体ねぇと思ってさ。強いし、もっと外で自由に暮らせばいいのに」
「……」
「最初はマダラに脅されてるのかと思ってたけど、そういうわけでもなさそうだしさ。ここを出て行く気はねえの?」
「言われてみれば考えたことなかったかも。ここにいるのがあたりまえになってたから」
ゼツに命を救われて以来、私は恩返しの名目でマダラの傍にいる。時々外出はするけど、それでも必ず帰ってくる場所はここだけだ。生まれ育った里もあるけど、別に帰りたいとは思わなかった。
人生に嫌気が差して自暴自棄になっていた頃、私は任務で瀕死の重傷を負った。そしてそこでゼツに命を救われることになる。ゼツが現れなければその時点で死んでいただろうし、せっかくなので里には戻らず新しい名前と環境で人生を再スタートすることに決めた。だから別に故郷への未練はこれっぽっちもないんだけど、オビトはそういうわけではないらしい。
「俺は身体が治ったら出て行くつもりだけど、姉ちゃんも一緒に行く?」
「あはは、お誘いは嬉しいけど行くあてがないからね」
「里に戻ればいいじゃん。家がないなら俺と木の葉に住めばいいし」
「それ本気で言ってる?」
「嘘ついてどうすんだよ」
「それじゃあオビトが連れ出してくれる日を楽しみにしていようかな」
「! おう!」
会話の流れでなんとなく答えただけなのに、オビトに「任せとけ!」と眩しいくらいの笑顔を向けられて柄にもなく期待してしまった。そんな未来があってもいいのかも、なんて。
「あの日のオビトはどこへ行ってしまったんだろうね」
私をマダラの傍から連れ出してやる。そう言って笑うオビトはもういない。いつだったか、仲間を助けてくると言ってオビトが外へ出たことがあった。しかし外から戻ってきた彼の目に光はなく、あの太陽のような明るさも影を潜めてしまっていた。
やがて月日は流れ、オビトは「マダラ」として動き始めるようになる。悲しいことに私を「姉ちゃん」と呼んでいた少年は、完全にいなくなってしまったのだ。
オビトは変わった。外の世界へ希望を持っていた頃とは全く違う。今はどこかへ出かけようとすれば「どこへ行く」と骨が折れそうなくらいの力で引き止めてくるし、それが面倒だからと黙ってアジトを抜け出せば帰宅後にオビトの時空間に閉じ込められて小言を聞かされることになる。なんというか最近のオビト少年は怖い。あ、もう少年じゃないか。
それでも本気でオビトの傍を離れようと思ったことはない。長い時間を一緒に過ごしているので情も移っているし、なにより今のオビトを一人にすることは出来そうになかったからだ。
「ねえオビト、外出許可ちょうだい」
「どこへ行くつもりだ」
「私好みの老人を探す旅に出たい」
「悪いが似非老人愛好家に外出許可は出せない」
「それは残念」
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