「オビトー。朝だよ」
「……」
「布団干すから起きて」
今日の天気は気持ちの良い秋晴れだ。青く澄み渡る空には雲一つない。こんなに晴れたのは久しぶりで、布団を干すには絶好の天気だ。そういうわけで未だ布団から離れようとしないオビトを起こしに来ているのだけれど。
「……あと二時間だけ寝かせろ」
「長いよ。そこは普通あと五分とかじゃないの」
「五分じゃ足りない」
「気持ちはわかるけど」
オビトは朝に弱く、休日になるとなかなか起きてこない。声をかけても目覚ましが鳴ってもそんなものはどこ吹く風だ。
「コーヒー冷めちゃうよ」
「……」
「マダラさんも待ってるし」
「……」
「起きる気になった?」
寝返りを打ったオビトが怠そうに目蓋を開けて、こちらへ手を伸ばした。このまま布団から引きずり出してしまおう。腕を引っ張ってみたものの、オビトはびくともしない。これは先の長い闘いになりそうだった。よし、まずは掛け布団から剥ぎ取ってやろう。
「えっ、」
伸ばした手は掛け布団ではなくオビトに捕まえられてしまっていた。抵抗する間もなくベッドに引きずりこまれていく。うーん、あったかいお布団……じゃなくて。
「起きて!オビト!」
「……耳元で騒ぐな。お前も二度寝に付き合え」
「駄目」
居間ではマダラさんが朝ご飯を待ってるし、私は早く布団を干したい。でも布団のぬくもりに誘惑されているのも事実だった。
「あと五分でいい」
「……わかった」
結局、誘惑に負けた私はオビトと共に布団の中へ収まることを選んでしまった。でも五分だけだから。
「……」
じっとしたまま時間を待っているのも退屈で、私は再び眠りにつこうとするオビトの胸元にぐりぐりと頭を押しつける。言葉にはしないけれど、この行為には起きてほしい気持ちが半分、構ってほしい気持ちを半分込めている。すると察しのいい彼はそんな私を抱きしめて「もう少しだけ良い子にしてろ」と囁いた。こうされると私が大人しくなることを知っているからだ。
それにしても、どうしてオビトの腕の中はこんなに安心するのだろう。身動きを封じられながらぼんやりと思案する。香水とは違う彼の匂い、心臓の音、呼吸をするたびに微かに上下する身体、オビトを構成するひとつひとつが私を落ち着かせてくれる。やっぱりこの腕の中が一番好きかも。そんなことを考えていたらなんだか私も眠くなってきて目を閉じた。今ならとても幸せな夢を見られそうな気がした。
数十分後、しびれを切らしたマダラさんに二人揃って布団から引きずり出されてしまったのは言うまでもない。
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