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「サスケくんにバレンタインのお菓子はあげないの?」

 穏やかな時間が流れていた夕飯時、母が落とした爆弾によって私の平穏は打ち砕かれた。

 うちはサスケ。家が近所だったこともあり、子供の頃は毎日のように遊んでいた幼馴染だ。でもそんな日々は成長と共に変わってしまった。私はサスケと遊ぶよりも少し離れた場所に住む女友達と遊ぶようになったし、サスケもサスケで他の人との付き合いが増えていった。

昔はバレンタインになるとサスケに手作りのお菓子を渡しに行ってたっけ。甘いものが好きじゃないサスケの口に合うものを一生懸命調べて作ったりしたなあ。そんなやりとりも数年前を境に止まったままだけど。
進学するたびに増えるサスケのファンやガチ恋勢。彼女たちの前で迂闊にサスケに近寄ろうものなら鋭い視線や言葉が容赦なく突き刺さった。そんな揉め事を避けているうちに少しずつ疎遠になっていったような気がする。もう前みたいに話すことはできないのかな。そう思うと無性に寂しくなった。



「あ、」
「……名前」

昨日母とあんな話をしたせいだろうか。学校からの帰りにサスケと鉢合わせてしまった。彼の手には中身がぎっしり詰まった大きな紙袋がいくつも握られている。今年も相変わらずのモテ男っぷりだ。

「こんなところで会うの珍しいね」
「ああ」
「……」
「……」

 気まずい。次の言葉が出てこない。適当な理由をつけて逃げるにもタイミングを失ってしまった。かといって共通の話題も思い浮かばない。何かないか、何か……。

「最近忙しいのか?」

 意外にも沈黙を先に破ったのはサスケだった。

「どうして?」
「しばらく家に来てないだろ」
「そ、それは……」
「母さんが名前に会いたがってた」
「本当? それなら今度の休みにでもお邪魔しようかな」

 サスケの家に通っていた頃はミコトさんにもたくさん遊んでもらったなあ。家族以外で一番顔を合わせていた大人といえば間違いなく彼女だし、私にとってはもう一人の母のような存在だった。

「ミコトさんにも会いたいし、……サスケとも、また色々話がしたいな」

 前を向いたまま歩き慣れた道を進む。思い切って正直な気持ちを口にしたものの大丈夫だろうか。

「……」

 返事がない。もしかして迷惑だったかな。言わないほうがよかったかもしれない。恐る恐る、どこか祈るような気持ちでサスケを見上げると、真っ直ぐな視線とぶつかった。

「勝手にしろ。今さら遠慮する仲でもないだろ」

 その言葉に私は「うん」としか言えなかった。それ以上口を開くと泣いてしまいそうだったから。

 サスケは変わってなんかいなかった。あれこれと理由をつけて距離を置いていたのはきっと私の方だったんだ。サスケは昔と変わらず、今もこうして私に歩幅を合わせて歩いてくれている。目を見てちゃんと話を聞いてくれている。どうしてこんな単純なことに気づけなくなっていたのだろう。隣にいるのはあの頃と同じ、私の大好きなサスケだったのに。

「……、ありがと」

 ぐすぐすと鼻をすすりながら呟くと、サスケが小さく笑ったのが聞こえた。

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