鈴が知らせる幸せの音 | ナノ





※この話は、ムシロさん家の素敵と丑ろう漫画に感動して書いたものです
まだ読んでらっしゃらない方は是非…!この感動を…!→と丑ろう

イメージを壊してしまったらすみません…
















同じドアをくぐれたら






去年のクリスマス、君の願いをひとつだけ叶えた。
来年もその先もずっと同じように叶えていこうと、疑うこともなく未来を信じていた。


とうしろうが新しい飼い主に引き取られてから数か月。
月に何度か、とうしろうの写真と一緒に手紙が送られてくる。
綺麗な衣服に身を包み、少しだけ緊張したように笑う表情がとても愛らしい。新たな家族の下で、美味しい物を食べたり遠くまで旅行に連れて行ってもらったりと恵まれた生活を送っているようだ。
近くで見守ってやるのはもうかなわないにしても、こうして写真であの子の様子や成長を知ることが出来るだけでも感謝しなければならない。
新しい場所で幸せになって欲しい。俺に出来るのは、そう願うことだけ。









それから更に数か月が経った。12月、もうひとりで寝るには寒い季節だ。
テレビを点けると至る局でこの時期お決まりのCMが流れている。馴染み深い音楽に、赤い服を着たサンタクロースの姿。

「…一年か」

地味に値が張るあのくまのぬいぐるみを買ってから、しばらくは好物の甘味も碌に買うことが出来なかったなと思い返しては苦笑い。それでも嬉しそうに笑うとうしろうを見ていると他には何もいらないとさえ思えてしまったのだから、我ながら親ばかだったと呆れるばかりだ。
あのぬいぐるみを、今でもとうしろうは大切にしてくれているだろうか。新しい主人に綺麗で高価な玩具を余りある程与えられて、古いぬいぐるみなど捨ててしまっているだろうか。それもいいだろう。新しい家で幸せになるようにと願ったのは、他でもない自分だ。

けれど、クリスマスだけでも俺に何か出来ないかと考えてしまうのは何故だろう。俺自身が未だとうしろうのことを忘れられないからなのか。新しい主人に対抗心でも燃やしているのか。
どちらにせよ馬鹿げているとわかっていたが、これだけはという妙な意地から俺はとうしろうの引き取り先に手紙を書いた。クリスマスは僕に何かをさせてくださいと。



快く承諾してくれた飼い主と、とうしろうからの手紙が送られてきたのは数日後。

拙い字で書かれた手紙は、サンタさんへというたったの6文字で既に便箋の半分を使ってしまいそうなくらい大きな字で始まっていて、思わず顔が綻ぶ。
けれどその続きを目にした瞬間緩んでいた頬は強張り、そのまま息が止まりそうな気さえした。


そこには、ぎんときにあいたいです、と書かれていたのだ。


「…、え…」


とうしろうは元気にやっている、と、送られてくる手紙には記されていた。同封される写真で笑う顔を見ても特におかしいと感じたりしなかった。
けれど、本当は寂しかったに違いない。思い返せば昔からそうだった。あいつは辛いときに辛いと言えないのだ。転んで怪我をしてきたときも、小さなズボンの下に傷を隠したままひとりで耐えて。翌日洗濯物の中から血の付いたそれを見つけ驚かされたことが何度あっただろうか。
主人やカメラの前では笑って見せても、きっと辛かったのだ。
便箋が所々ふにゃふにゃに弱っているのはあの子の涙が染み込んだせいだろうか。

今になって、自分の浅はかさ、愚かさが重く圧し掛かる。それでも会う訳にはいかない。今更契約をなかったことになんて出来やしないし、下手に対面してしまったら余計に辛くなるだけだ。

せめてもの言い訳のつもりで、サンタクロースを装いとうしろう宛に手紙を書いた。






とうしろうくんへ

 おてがみありがとう。
 じつは、ほかにもぎんときにあいたがっているこがいて、
 ことしはそのこにあわせてあげるやくそくをしてしまったんだ。
 ほんとうにごめんね。 
 これから1ねんかん、そのこよりもとうしろうくんがいいこにしてたら、
 らいねんはあわせてあげるね。

 




そう、いい子にしていたら。
俺との過去なんて忘れるくらい楽しんで、笑って、笑って、笑って。そんな日々を過ごしたら。


朝目が覚めてこの手紙を見たとき、とうしろうはひどく落胆するだろう。サンタに対し懐疑心を持つようになるかもしれない。
そうしていつか、本当はサンタクロースなどいないと君は知るだろう。そんな風にして、大人になって。人生は上手くはいかないものだと、何かを手にするには他方で何かを犠牲にしなければならないということも、君は知るのだろう。

だけどそれが、少しでも遠い日であったらいいと。この期に及んでまだそんなことを願うのは愚かだろうか。
あの子を泣かせているのは他でもない自分だというのに。

自分でも非情なことをしている自覚はある。
いい子にしていたら来年は会えるなんて嘘だ。会わないで済むことが、いい子になるということなのだから。
叶わないとわかっているくせに、誤魔化して。あんな手紙を読んだらとうしろうは今よりもっともっと自分を抑えるようになるのだろう。辛くても悲しくても寂しくても、誰にも言わずひとりで泣いて、皆の前で笑って。
そんなことを強いて、何になるというのだ。

きたない、きたない。最低だ。
こんな俺をどうか嫌いになって、憎んで、忘れてくれ。
そして俺にも 全てを忘れさせて。




けれど臆病者の願いなど当然叶わない。クリスマスから3日後、手紙が届いた。

相変わらず大きく拙い字だった。ひとつだけ違うのは、その便箋の枚数だ。5、6枚はあるのではないだろうか。
書かれていたのは恨みがましいあれこれでなく、日記、のような内容で。
今日は何をした、何処にいった、誰と遊んだ、とそんなことが長々と綴られており、そして最後はこう締めくくられていた。





 ぎんときにあいたいから、いいこにするね!
 さいきんあったこと、いっぱいかいたよ。
 ちゃんといいこかな?わるいことしてないかな?
 あと、サンタさんのこともしりたいです。
 おへんじください

とうしろう






何処までも純粋でひたむきなとうしろうに、自分がいかに卑怯で卑小な人間だったかを思い知らされる。反面、その変わらない真っ直ぐさに何処かで救われたのも事実で。眩しくて眩しくて、 涙が出た。

―その日から、俺ととうしろうの奇妙な文通は始まった。

とうしろうからの手紙の量はどんどん増え、時には10数枚の便箋で封筒がパンパンになっていたこともあった。文字だけでなく、絵も描いて送ってくれるようになった。
俺はというと、牧場で牛たちの世話をしていますなんて正直にはとても言えないから(というか、今の俺は仮にもサンタだった。)トナカイの世話が大変だのサンタの国は寒いだのと適当に書き連ね返事を送る。決まって最後には、毎日楽しそうで嬉しい、その調子で、なんて書いて。

春、夏、秋、変わっていく季節の中で、俺達は変わらずにずっと手紙のやりとりを続けた。そして、冬。今年も近付いてきたクリスマス。
とうしろうの手紙にはこの一年間俺の話題は一度も出てこなかった。友達も沢山作って主人達との関係も良好らしく、最近は安心しながら手紙を読んでいられる。

そしてクリスマスの一週間前、とうしろうから送られてきた手紙にはこう書かれていた。


サンタさんにあいたいです。


「……マジでか」

思わず零れた情けない声。
でもとうしろうは『サンタクロース』に会いたがっているのだから、『ぎんとき』ではないのだから、(いや、まあどっちも俺なんだけど)未練はないということなのだろう。最近は習い事が忙しいらしいし、俺のことを思い出す暇も無いはずだ。
しかしこれはこれで厄介だな。夢を与えられそうにない変な知り合いのサンタはいるが、そいつに任せるのは怖すぎる。

「…変装、していきゃいいか」

去年約束した通り、一年間頑張ってたしな。
長い間滞在などしなければ余程バレたりしないだろう。

あの日の別れから写真でしか見ていなかったとうしろうに、会える日が遂に来た。そう思うと急に緊張してきて、不安にさえなってくる。上手くサンタを演じられるだろうか。連れ帰りたくなったりなどしないだろうか。
とうしろうが新しい生活に慣れるようにと今まで願ってきたし、それは報われたように感じられるが、俺自身はどうなのだろう。時計の針が止まったまま歩き出せていないのは、自分の方だったのかもしれない。

しかし覚悟は出来ていた筈だ。何かを手にするには、他方で何かを犠牲にしなければならないと。
金を得るために、とうしろうを。
そして、とうしろうの幸せのために、    。

机の上に飾ってある写真を見て何度もリハーサルを繰り返した。
大丈夫、上手くやれる。








クリスマス当日。
市販の安っぽいサンタ服に着替え、付け髭とカツラを着けてとうしろうの家に向かい、玄関の前で深呼吸をしていると突然扉が開いて小さな子どもが飛び出してきた。

「サンタさん、いらっしゃい!」
「…お、おお…」

驚きやら感動やら混乱やらで何とも情けない声が出てしまった。まあサンタクロースというのはある程度歳を取ったじいさんという設定なのだろうから、この頼りない返答も大方間違ってはいないか。
というか、サンタさんいらっしゃいって。こんな普通に対面していいのか。本来子どもが寝ている間にこっそり、というスタンスではないのか。
変に冷静に考えている俺の腕をとうしろうの小さな手が引き、家に招き入れた。


とうしろうの部屋はとても広く、可愛らしいぬいぐるみやおもちゃで溢れていた。友達との写真も壁に何枚か貼ってあり、あれはいつの写真かと聞くと嬉しそうに教えてくれる。
そうこうしている間に時間は過ぎていき、そろそろ他の子にもプレゼントを配りにいかないとと立ち上がると、とうしろうは少し寂しそうな表情をした。それからすぐ、俺の手を握って微笑む。


「…サンタさん、今日はほんとにありがとう」
「いや、とうしろうくんがいい子にしてたご褒美だよ」
「…ふたつもおねがいかなえてくれて」
「うん?」

その発言に、何かがおかしいと引っかかる。
この遠慮がちで強がりな子どもは、手紙でも俺に何かを頼むことなんて殆どなかった筈だ。
ふたつといったら。
サンタさんにあいたい。

それから、…それから。


「…ありがとう、ぎんとき」
「…っ、!」

優しく微笑んだとうしろうは、一年と少し会わない間に随分大人びていた。
動けなくなってしまった俺を余所に、ベッドの方へゆっくり歩み寄ると枕元に置いてある何かを手にする。
俺があげた、くまのぬいぐるみだ。
棚の上、タンスの上、至る所に高価そうなぬいぐるみが並べられているのに、何故かベッドには汚いぬいぐるみ以外何もなくて。

「…とうしろ、…」
「…まちがえた。ふたつじゃなくて、みっつだったね」
「…!」


気付いていたのか、いつから。どこまで。どうして。

ああ、俺なんかが、この子の幸せを奪える筈がなかったのに。こんなに強くて、優しくて、真っ直ぐなこの子の幸せを。
与えられていたのは、いつだって俺の方だったじゃないか。


「くまさん見て、ぎんときのこと毎日思い出してたよ」

使い古してぼろぼろになったぬいぐるみからは、白い綿が出てしまっていて。
首元から出たそれがまるでサンタクロースの髭のようになっているものだから可笑しくて、なのに何故か視界が涙で滲む。

「…ぎんとき、なかないで」
「…とうしろう、っありがとう…ごめん…、ごめんな…っ」
「…ううん、ぎんときに会えて嬉しかった」
「とうしろう…」


小さなサンタクロースと、可愛いかわいい大切なプレゼントと。
そして泣きすぎて鼻が赤く染まってしまったトナカイと。

三人で抱き合いながら、聖なる夜に涙で乾杯を。





抱き寄せた小さな身体の、首元からチリンと鳴る鈴の音。
思わず顔を合わせて笑うと、合言葉のように声を揃えて呟く。

「「…メリークリスマス。」」



 ふたりで幸せになる方法が、少しだけわかった気がした。







テディ レディ キディ
(夢からさめたら 愛をおしえて。)














じんぐるべる!
と丑ろうはなんとなく鈴つけてるイメージがあって、書いた後でもしかしてついてない…?と焦りましたが拍手イラスト見て一安心です あの寝顔にちゅーしたい

毎度のことながら超展開
ちょっとわかりにくいですがハピエンです。
すぐには一緒に暮らせないけど、今度はちゃんと坂田として文通続けたり電話したり、たまにお互いの家に遊びに行ったり。
そしてもうちょっと大きくなったら家を出て、坂田牧場に嫁げばいいです。
どうか二人で幸せに。

冒頭の同じドアを〜…っていうのはBUMPの曲名です
この曲大好き(;_;)BUMPは銀土変換すると泣けますな〜

タイトルもいまいちわからないですが、テディベアもった子どもだった君が立派なレディに〜的な感じです。わかりづらい
あと最後の場面でテディ(ぬいぐるみ)レディ(とうしろう)キディ(坂田)とかでも。こじつけですが!
サンタがいないってわかるくらい、人生は難しいって知るくらい大人になったら一緒になろーねっていう。でも久しぶりにあったら十分大人だったーみたいな。なんのこっちゃ。


ムシロさんのイラストや漫画には色んなものを掻き立てられ、駆り立てられますな…!
見てるだけでこっちまで嬉しくなったりムラムラしたり切なくなったりして、幸せになって欲しいって強く思います。

精一杯のありがとうと大好きを込めて。






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