君に届け | ナノ


愛と勇気と下心




男だって、漫画みたいな恋に憧れる。



「なあ、君に届けって漫画知ってる?」
「あー?…聞いたことはある。昔映画やってたっけ」
「そうそう。クラスの女子にコレ借してもらったんだけど、ホントきゅんってすんだよ。十四郎も読んでみて!」
「…お前意外と少女趣味だな」
「関係ないって!男子でも楽しめるから!ウブな感じのふたりが超いいんだって」
「へー…」

必死で俺が薦めても、土方はさして興味がなさそうだった。 それでも仕方ないと呟きながら漫画を手に取ってくれるあたり、優しいなあと思う。



土方の方も意外とハマったようで、俺の借りていた10巻全てを一気に読んでしまった。まあ当然、その間は俺が話しかけてもガン無視だった訳ですけど。自分で薦めといて後悔した。


「な、どうだった?良かったろ?」
「何だよこれ…むずがゆい」
「なんかこういうのもいいよなー」
「何が?」
「こうやって目が合っただけで照れちゃうみたいな。そんな関係」
俺達そんなん有り得ないじゃん?付き合う前から普通に仲良かったし、と笑えば土方は何とも面白くなさそうな顏をした。

「…まあお前が風早くんみたいな男だったら俺だって目合うだけで恥ずかしくなっちゃうかもしれないけどな」
「…え、何どーいう意味」
皮肉るような物言いが癪に障り、俺の方まで自然ときつい言い方になってしまう。

「こんな爽やかな関係に憧れるんだったらなー、まずお前が更生したらどうなんだよ?風早くんはお前みたいに会う度エッチ迫ってきたりしないしましてや付き合う前からキスしてきたりいきなり服脱がせて襲いかかってきたりしないんだよばぁか」

勝ち誇ったような顏で笑う土方。事実だから言い返せないのが悔しい。でも、俺という恋人がいながら二次元の男をそんなに擁護するなんて。俺だって黙っていられない。

「っんだよ、風早のがいいって訳?」
「まあお前よりは理想の彼氏に近いよな」
「あのな、風早だって男なんだから爽やかな面してほんとはやらしいこといっぱい考えてんだぞ絶対。実は爽子オカズにして抜いてんじゃねーの」
「は?バカ言ってんなよ、お前基準にして物事考えんな」

子どもみたいな言い争いだってことはわかってる、いつも通りのくだらない口喧嘩だけど、だけど。

「じゃあ言わせてもらうけどなあ、俺だって爽子みたいに純粋な子相手だったらこんなことしねーよ。触るだけで顔真っ赤にするんだから当然お前みたいに男にモノ突っ込まれてあんあん喘いだりしないしな?」
「っ…!」

言葉を失う土方。その顔は真っ赤で、今にも泣きそうに歪んでいた。さすがに今のは失言だったとハッとするものの、既に遅く。

「、とうしろ…」
「おま、…っ最低、風早だったらそんなこと絶対言わない」
「っそれは、…お前が風早風早ばっかり言うから…!」
「なんだよ、お前だって、俺が汚れてるみたいな言い方して…」
「違う、そんな意味じゃ…」
「俺をこんなにしたのは、お前だろっ…!」

潤んだ瞳の土方にキッ、と睨まれ跳ね上がる鼓動。

「え、」
「俺がこんな、やらしい、身体にな、たの…坂田のせい…なんだからな…っ」

服の裾ぎゅ、って握りながら俯いて恥ずかしそうに呟いた土方に、憤死寸前。なにこれ、恥ずかしい。なにこれ、あの二人に負けないくらい青いんですけど。ときめきメモリあっちゃってるんですけど。

「ごめん、十四郎」
「…責任、とれ…ばか」
「うん、うん。幸せにする」

抱き締めながら優しく囁く。

「俺、風早になれなくていい。お前のこと迷いもなく抱き締めてやれなくなるくらいなら、風早になんてならなくたっていい」
「…なんだよ、それ」

くす、と笑う土方に、どうしようもない愛しさが込み上げてくる。

「あーもう、お前こんなに可愛いのに。ばか。全部欲しくなるに決まってんだろ」
「だからなんだよ」
「風早でも襲ってるっつーの、こんなに可愛かったら」

ましてや俺が我慢できる訳ないじゃん、こんなに好きなのに。
拗ねたように言うと、恥ずかしいこと言うなって叩かれた。もう、土方ったら照れ屋なんだから。

「…つーかなあ、俺だって結構恥ずかしいんだからな」
「え?」
「目とか、合わせると」
「…うっそ」
「ほんとだよ」
「え、じゃあ試していい?」
「っ…!」

ぐい、と引き寄せて顏を覗き込むと、思いっきり目を逸らされた。

「あ、れれ?とうしろー?」
「は、恥ずかしいって言っただろ…!」
「うそ、ほんとに?」
「…意識すると恥ずかしいもんなんだよ、ばか」
「えー、今更?」

あははと笑うと、バカにすんなと怒る土方。なんかもうだめだ。怒ってても可愛い。やばい、俺今すごい浮かれてる。
土方は意を決したように俺に視線を合わせて上目遣いで睨んできた。俺だってできるんだと言わんばかりに、真っ直ぐこっちを見つめてくるその瞳は、今度は決して逸らされることがなく。
その眼差しの強さに今度は俺の方がどきっとしてしまい、思わず息を呑む。

「…ほんとだ十四郎、俺めっちゃどきどきしてる」
「…うそだ」
「ほんと」

その手を掴んで胸まで持っていく。激しく鼓動する心臓が、音でわかるくらいだ。触れれば嫌でもわかるだろう。

「…あ、」
「…な?」

驚いた土方と目が合って。だけど今度はお互い恥ずかしくて、すぐに目を逸らしてしまった。顏から火が出そう。
目も合わせられないなんて、まるでほら、あの彼と彼女のような。

あれ?あの二人はどうやってちゃんと話せるようになったんだっけ?どんな風に笑っていたっけ?思ったよりも青かった俺たちは、どうやらまたあの恋する乙女達のバイブルにお世話にならなければならないらしい。
土方、今度はあの漫画を一緒に読もうよ。ぎこちない二人の様子を見て一緒になって恥ずかしくなったりして、二人以上に未熟で、だけど二人以上に愛し合ってるんだって、無意味に張り合ったりしてみようよ。そして、漫画以上に、恥ずかしくてロマンティックな恋をしよう。

…なんて言ったら、また少女趣味だなんて笑われるんだろうけど。当然俺も男だから、手繋ぐだけじゃ足りないし、キスだけじゃ満たされない。いやらしいことだっていっぱいしたい。でも頼むから怒んないで。ほら、下心だって心なんだってあの名言、お前も読んだでしょ?

しばらくこの言い訳が使えそうだとほくそ笑む、やっぱり風早くんにはなれそうにない俺は、明日からの土方とのめくるめくピンク色の日々に思いを馳せるのだった。




おれたちの、君に届け
(ヨコシマな愛でもって君に一途)







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