恋はいつでもハリケーン | ナノ


惚れた晴れた ぼくのこころ






恋をしている、と思う瞬間
今までの自分ではないと 感じるとき
嬉しかったはずのことが 嬉しくないと思うとき。





「よく聞けガキ共ー。暴風警報が出たから、午後からは授業なーし。早く帰って勉強しろよー。って、する訳ねえか…」

朝から学校中の生徒が待ち望んでいた台詞を担任の銀八が口にした瞬間、教室は歓声で湧き上がった。
各々が意気揚々と鞄に教科書を詰め込み帰り支度を始める中、よっしゃ、やら、ゲームするぞ、なんて声があちらこちらから聞こえてくる。
そんな浮かれるクラスメイト達の中、俺はひとり浮いている。
どうしてか、騒ぐ気になんてなれないのだ。


「トシ、帰るぞー…って、どうした?そんな顔して」

呼ばれた声に振り向くと、近藤さんは目を丸くして早く帰れるのに嬉しくないのかと問うてきた。
確かに台風で授業が中止になろうものならほぼ確実に喜ぶのが学生という生き物だ。俺だって以前までであれば、他の皆みたく家で何をしようかと胸を躍らせていた筈なのに。

「おーいお前ら、駄弁るのは学校出てからにしろー」

声を掛けられた瞬間跳ねる鼓動。
―ああ、本当は原因なんてわかりきっている。

「銀八良かったなー、6限の国語潰れて!」
「何もわかってねえなーお前らは。その分試験までの授業スピードアップするからな?テスト直前に泣き見たくなけりゃ今から帰って勉強しなさい」

わかっているけれど、認めたくない。好きな人と少しでも長く一緒にいたいだなんて、まるで生娘みたいな理由でこんな憂鬱な気分になっていること。目の前で交わされる会話が、いつまでも終わらなければいいと願ってしまっていることを。
己の女々しさに呆れ思わず苦笑した。

「わかったよー帰りますうー。トシ、行こうぜ」
「…近藤さん、俺ちょっと進路のことで話があるから、先帰っててくれよ」
「え、そう?…わかった、気を付けてな」

ありきたりな嘘をついて友人達を先に帰せば、残るのは俺と先生の二人だけになった。
途端にしん、と静まり返る教室。先刻まで近藤さんや総悟と楽しそうに話していたその顔に既に笑顔はなく、面倒くさそうに頭を掻きながら口を開く。

「…進路って、台風の進路の相談か?接近中だってニュースで言ってたぞ。お前も早く帰れ」
「…先生、」
「ちゃんとした進路相談なら、また別の日に聞くから」
「…先生!」

適当にはぐらかす、この人のこういうところが俺は嫌いだ。否、苦手だ。
何のために学校に来てると思ってるんだ。先生に会うために決まってる。
朝から心待ちにしていたのに、授業を受けずこのまま帰れというのか。馬鹿だと思われてもいい。呆れて笑われたって構わない。だけどどうか怒らないで。
そんな顔をして、突き放さないで。


「…先生、まだ帰りたく、ないです…」
「…あのなあ」
「仕事が終わるまで待ってます、だから」

それくらい、許してほしい。
迷惑なんてかけないから。顔を見れるだけでいいから。
限られた残りの時間を、少しでも長く同じ場所で過ごしたいだけなのに。

先生は困ったように溜息を吐くと、いつもは見せない真剣な表情で言う。

「…だめだ。危ないから早く帰りなさい」
「…っ、」

この人は狡い。
危ないからと尤もらしい理由をつけて、本当は俺の心配なんてしていないのはわかっている。どうせ自分が怖いだけなのだ。
こんなときばかり大人ぶって、正しい言葉で突き放して。

結局俺に、何も言えなくさせる。






土砂降りの雨の中、傘も差さずひとりで歩く。雨に濡れたい気分だなんてそこまで女々しいことを言うつもりはなく、実際は校門を出て数メートルの所で折れてしまったのだけど。それはもう驚くほどあっさりと。数分前の自分の姿を見せられた様で、自嘲の笑みが零れた。
けれどぐしゃぐしゃになった情けない顔を誤魔化すのには丁度良い。

「…先生の、ばーか」

恨みがましく呟いてみても、風の音が全てを掻き消す。
この耳にすら聞こえない想いなど、届く筈がない。






家に着いてからも落ち着いていられず、ニュースの台風情報を見ては虚しい空き時間を埋める。
先生はまだ学校だろうか。
唸る風がガタガタと窓を揺らした。数時間も経てばこの地域に最も台風が接近するようで、テレビの中のリポーター達はしきりに注意を呼び掛けている。気になるのは当然先生のことだ。
その頃は丁度、いつも仕事が終わって帰る時間帯じゃないのか、こんな天候の中帰れるのかとどうしても心配になり、気付けば携帯でメールを打っていた。




Sub お疲れ様です
 お仕事お疲れ様です。
 風も強くなってきて、交通機関も止まってるみたいですけど、大丈夫ですか?帰れますか?

 もし帰れなかったら、うちに来てください



勇気を振り絞って送ったメールに、返ってきたのはたった一行。


Sub Re:お疲れ様です
 ありがとうな。ちゃんと帰れるから、心配するな



当然と言えば当然のような返事だけど、どうしてもへこんでしまう。
わかっている。帰れなかったとしても、先生がそれを俺なんかに言う筈ないのだ。お前なんて必要ないと、暗に言われた気がして。
やっぱり 遠い、と思った。

それでも何でもない振りを装って、俺もたった一行の返事を返す。



Sub Re:
 良かったです。気を付けて帰ってください



何が良かったです、だ。送りつけた文章を見ながらひとりごちる。
けれどあんな風に突き返されたら、縋るのも無様に感じてしまう。面倒くさい子どもだと思われたくない。

「…十分ガキか」
考えるのも億劫になり、今日はもう寝ようかと横になったところで携帯のディスプレイが光る。慌てて確認をすれば送り主は勿論、今しがたメールのやり取りをしていた相手で。



Sub ちなみに
 明日は台風一過で晴れだってよ サボらないように



「っ…!」

ああ、自分は本当にどうかしてる。
こんな些細な一言が嬉しいなんて。

教師として当たり前のことを言っただけなのかもしれない。
それでも、どうしようもなく嬉しかった。
先生に会える 明日をくれるなら。

天気よりも変わりやすいこの心は、我ながら単純に出来ている。





次の日の朝、いつもより早く目が覚めた。
晴天、台風一過、照りつける太陽。雲一つない空が、眩しい。

昨日の時間を埋める様に身体を突き動かす衝動。
重い足取りで帰った前日とは打って変わって、駆け出してしまうほど軽い両の足。同じ景色も驚くほど違って見える。
こんなにも容易く、世界は色を変えるのだ。



30分以上早く着いた学校。職員室まで直行し扉を勢いよく開けると、一際目立つ天然パーマの頭を探して後ろから声を掛けた。


「…先生、おはよう」


始まるんだ、今日も、ここから、あなたで。
例えいつもと同じ、何気ない朝の挨拶だったとしても。

もしかしたらそれは、あいしてる よりもよっぽど意味のあることば。





いい天気ですね
(今日もあなたに会えて うれしい)






***


ついったで滾った台風ぱっつち

月が綺麗ですねに負けない口説き文句。
うちの土方くんは乙女です
にしても誰だこれ…

くっついてない…かな…?どっちでもいける!
頭パーンな先生は土方くん俺の心をかき乱しやがってエエお仕置きでその可愛い台風の目に××を○○してやるウウウとか思ってます 





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