気付いたときにはもう遅くて。




「傷付けさせて」



また・・・だ



もうこれで何度目かわからない



慎吾さんが狂い始めたのはいつからだっただろうか・・・





もともと束縛心の強かった慎吾さん


あの日俺が他の人と居たから


何度言われても聞かなかったから



だからだろうか



「・・・聞いてる?」


ハッと我に帰る


慎吾さんの方を恐る恐る向く

怒っていると思ったが普通の顔をしていてほっとする

「傷付けていい?」


本日二度目の質問

それに「どうぞ」と答えていつも刃物によって傷付けられてきた腕を出した


すんなりと腕を出せるのはもう恐くないから


慣れてしまったから




だけど今回は違ったようだ



頬に冷たい何かが当たった




刃物



「俺、腕に付けさせてって言ったっけ?」




ーーゾクッ



黒い笑み


頬に刃物がくい込む


「っ・・・」


痛みで顔が歪む



「いいね、その顔・・久しぶりに見た」



そのときの慎吾さんの顔は始めてみるくらい恐かった


「腕じぁー隠せちゃうから見えないでしょ?顔なら隠せないから俺のだって証明できるね」


笑顔で言っていたが全然笑顔じゃなかった


まさかここまで狂っていたなんて・・・




気付くのが遅かった






もっと早く気付いて対処していたら・・・










彼を助けられたかもしれない











「もっと付けさせて、もっともっと、その綺麗な顔に傷が付くのも歪むのもみたいなぁ」




もう遅い




逃れられない現実



変わったかもしれない未来



悔やんでも悔やみきれない




一生束縛されて生きていくことに覚悟を決め目を閉じた



*end*



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