無色透明。 涙



あの日から新崎は店に来なくなった

結局は新崎も他の人と同じなんだ

元から期待なんかしちゃいけなかったのに

期待していつも痛い目を見るんだ



それから1ヶ月経っても新崎の言葉が忘れられなかった

それを知っているかの様に土曜日、いきなり店に現れた


「360円になります」

「バイト終わったら少しいいかな?」

「200円とレシートのお返しです」

何も言わなかったけど新崎はお釣りを受け取ると外に出て待っていた

バイトが終わるまで2時間、ずっと


「何考えてるの?バカじゃないの」

座って姿勢が低くなった新崎の頭上から声を掛けると寒さからか鼻や頬が赤くなった顔をあげられた

「中で待ってればよかったのに・・・」

「迷惑かなって」

新崎は立ち上がると何も言わずに歩き出した

何処に行くか何て解らなかったけど付いていった


どれくらい歩いたか解らなくなってきた頃

そろそろ限界になった


「新崎は何がしたいの?」

そう言えば新崎は足を止めた

俺と新崎の間は数メートル離れていた


「何とも思って無いなら元から期待なんかさせないで欲しかった」

不意に視界が歪んで流れそうになる涙を必死で堪えた


「新崎の言葉ひとつひとつが嬉しかった・・毎日来てくれるのが嬉しかった・・・っ」

―名前を呼ばれて嬉しかった


好きと言われて嬉しかった

自分では気がついていなかったけど俺はきっと新崎の事が好きなんだ・・・


「それなのにお前は俺の気持ちを裏切った」

涙が頬を伝って流れ落ちたのと略同時に新崎がこちらを振り向いた

近づいてくる

逃げたかったけど足が動かなかった


そして不意に手を握られた

「ごめん」

新崎の手は冷たかった

俺の手も冷たいのにそれ以上にもっともっと、冷たくなっていた


「言い訳になっちゃうけど先生に部活ちゃんとやれって怒られちゃった」

苦笑いしている新崎の顔は何処か辛そうだった

「俺、神谷に会いたくて毎日部活を早めに終わらせてた」

そう言われて気が付いた

今まで気にして居なかったけど部活が終わっていない時間でも新崎は店に来ていた


「俺気が付いて無かったけど神谷の事好きになってた・・大好きなバスケサボるほど夢中になってた・・・それなのに無意味だなんて言われてどうしたらいいのか解らなくなった」

その言葉に胸が痛くなった

それと同時に俺の好きと新崎の好きが同じ事が嬉しかった


だけど、だからってどうすれば良いのか解らなかった


「ごめん新崎・・・無意味だなんて思ってないよ・・ほんとは期待してた」

「神谷・・・」

「だけど、俺はまだ新崎を信じる事ができない」

新崎の顔が見れなくて俯いた

すると頭に重みを感じた

それは直ぐに新崎の手だと解った


「わかった、神谷に信じてもらえるまで待つから・・その時に返事貰える?」

「・・・うん」


その優しい声が今は辛かった。



涙 完


(120923)



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