「由宇話があるんだけど」
夜寝ようと思った頃に親が帰ってきた
茶の間へ来るように言われ眠い所為かダルい身体を起こしてその場へ向かう
椅子に座ると暫しの沈黙の後、親は深呼吸をして口を開いた
「・・・明兎くんと・・その、付き合ってるの?」
「・・だったらどうするの?」
親は俯いて俺から視線を外すが俺は視線を外さないで真っ直ぐに見た
「やめてちょうだい、明兎くんは男でしょう?」
「・・どうしてそんなこと言われなきゃならないの?」
「どうしてって・・」
「母さんに決める権利なんてあるの?好きな人と付き合って何が悪いの?自分の事は自分で決める」
席を立つと早足に自分の部屋へ戻り、乱暴にドアを閉めた
--------・・・
「タラシ君おっはよー」
朝学校に来るなり飛んできた言葉
「・・・タラシじゃない」
「人の彼女取っちゃったんでしょー?」
ただでさえイラついてるのにこれ以上イラつかせないでくれ
手を上げそうになるのを必死で押さえて教室に入った
手を上げたら確実にこちらが悪くなるから
「東」
気が付けば昼で休み時間になっても動かないのを心配したのか藤が話掛けてきた
「ぼーっとしてるけど何かあった?」
「・・・何でもない」
俯くと藤は目線を合わせる様に顔を覗き込んできた
「東、昨日の事なんだけど・・」
「・・・屋上行こっか」
屋上に来て誰も居ない事を確認して奥の方へ入っていった
「・・昨日何か言われた?」
「男と付き合うのはやめてって言われた・・・」
「・・・だよね・・」
藤は体育座りをしながら下を向く
その表情を伺うととても複雑そうで口が「別れよう」と言おうとしている様に見えた
「別れないから」
「でも、」
「確かに世間的に反対されるかもしれない、だからって別れるのはやだよ」
「じゃあ・・どうするのさ・・・!」
声を荒げた藤の手をそっと握り落ち着かせる様に頭に手を添えて抱き寄せる
「俺さ、知られても良いって言ったよね・・どういう意味か解る?」
「・・・解んないよ」
藤は静かに俺の背中に腕を回すと弱々しく抱きついてきた
心なしか肩が震えている様に見えてこれからの事に不安を抱いている様だった
「俺はコソコソと人の目から隠れて付き合う何て事したくない・・・だけど世間は認めてくれない・・ならせめて親には認めてほしい」
「無理だよ・・っそんなの」
「何でも無理だって思うから無理なんだよ!・・・思い出してよ・・威瑠は認めてくれたよね?」
気持ち悪がる事も無く何を言うでも無く見守ってくれた威瑠
威瑠みたいに思ってくれる人は他にもきっと居るはず
「お願い藤・・うちに来て一緒に話そう?そして次は藤の親を説得しに行こうよ」
握る手に力が籠ったのを感じで抱き締める力を強める
「大丈夫だよ・・・何があっても俺が守るから・・必ず認めさせる」
顔を上げさせてそっと口付ける
藤は一瞬泣きそうに顔を歪めるとそれを押さえる様に優しく微笑んだ
「怖いけど行く・・東の事信じる」
その顔を見て、言葉を聞いて俺も微笑んだ。
34 完
(120414)
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