「あのさ、藤・・・藤原くん知らない?」
「あー藤原ならさっき屋上行くのみたよ」
「そっか、ありがとう」
今は昼休み
俺はどうしても話したい事があったのだが先生に呼ばれているうちに藤は教室から居なくなっていた
屋上に着き辺りを見渡すと物陰に人が見えた
「藤・・・?寝てる?」
「・・・いや」
「良かった」
隣に腰を下ろすと寝転がっていた藤は上半身を起こしてくれた
「お昼食べた?」
「食べてない」
「食べないの?」
「食べる気がしない」
「えー絶対お腹空くよ」
「空いてないから大丈夫」
「そんなんじゃどんどん痩せちゃうよ」
藤は俺の言葉に耳を向けず空を見つめていた
「ほんと・・・昔から変わらないね、藤は」
空を見ていた藤は不思議そうに振り返った
自分でも言った言葉の意味を不思議に思った
だけど
「不思議だよ・・藤といるとどんどん思い出すよ」
目を閉じると幼い頃の記憶が頭の中で再生される
-----・・・
「こら、あきと!ちゃんと食べるまで遊びに行かせないよ?」
「食べたもん」
「少ししか食べてないじゃないの!全部食べなさい!」
「頑張れあきと、早く食べないと遊ぶ時間減っちゃうよ?せっかくの休みなのに」
「もう食べられないよ・・」
「あきと」
「ゆうちゃん食べて」
「もう・・」
-----・・・
「ゆうちゃん、って呼んでたよね・・俺の事」
「ど・・・して・・?」
「俺さ・・・1度記憶喪失になってるんだって、昨日初めて知った」
「記憶喪失・・?」
「ほんとに軽いものだけど小2以前の記憶無くて」
「そ・・・なんだ・・」
「だけど藤と遊んだ事は覚えてた、引っ越しの前日のことも覚えてた・・俺にとっては大切な思い出なんだと思う」
そう言うと俺とずっと目を合わせてくれていた藤はそっと目を反らし俯いた
「だったら・・・どうして大事な部分覚えて無いんだよ」
「ごめん、ちゃんと思い出す・・・今日みたいに少しずつ、」
「・・いいよ、無理に思い出さないで」
「そんな、」
「覚えててくれなきゃ意味無かった・・・っ、」
そう言うと藤は立ち上がり屋上から出ていってしまった
俺はひとり残された屋上で頭を抱えた
「俺のばか・・・っ」
落ちそうになる涙を堪えるのに必死になった
「何で覚えて無いんだよ・・・」
覚えていなければいけないことを覚えていない自分にすごく腹が立った
頑張って思い出そうとしても答えは出ず
ただ涙ばっかりが溢れるだけだった。
09 完
(120106)
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