押しは強いが押しに弱い 
「どうして佐藤さんはああヘタレなんでしょうね?」

「そうだね、かたなし君」

「なになに?佐藤君がいかにヘタレか?」

「わっ、相馬さん!どっから出てきたんですか…!?」



客も少ないとある日。
暇なホール担当(2名)と暇なキッチン担当(1名)。そして噂の対象になっているキッチン担当(2名)。



「なんかね、なんだろうねこのもどかしさ」

「そうですよね。しかもあんなにアレなのに相手も一切気付いてないっていう……」

「そうだよね、佐藤ってとんでもないヘタレだよね!」

「千葉さん!!」



なんだよー小鳥遊、そんなにびっくりすんなよー、さすがにちょっと心折れるわー、とかぶつぶつ言いながら、こちらもどこからともなくにょきっと出てきたのはキッチン担当の千葉。



「なんというかなんだろうね、あの押しの弱さ」

「………」

「でもさー八千代も八千代だよねぇ、佐藤があんなにアレなのに。あれだけ気付いてないと逆にもうこれはわざと?みたいな感じだし。あーっ!もどかしいったらありゃしない!」



べらべらと一人持論を流す一喜。周りの人たちは半ば呆れたような顔で、瞳を輝かせながら話す一喜にため息をつく。


……佐藤さんが好きなのは紛れもなくあなたなんですけどね、千葉さん。



「だからもうちょっと佐藤は押しを強くして、八千代は周りを見なければならんね!そんでもっ…………」

「…………」



千葉さんんん!!
う、後ろ後ろ!



「………あー、タカナシクン?これはひょっとするとアレかい?」

「そうですね、千葉さん……」



急に背後から感じた気配(もはや殺気)に一喜は嫌な予感がし、冷や汗を流す。
周りにいた小鳥遊やぽぱらは佐藤のあまりの黒いオーラに後退りしている。



「一喜ー………」



明らかな怨みのこもった声にビクッと反応し、一喜がゆっくりと振り返る。

そこには中華鍋を片手で持ち、もう片方の手は拳がつくった佐藤が仁王立ちで立っていた。



「あー…佐藤?中華鍋だけはやめて?ね?ここで人生終わらせるわけにいかないんだけど?」

「俺は………」

「…………さ…佐藤…?」



佐藤は一瞬うっとつまり、目をそらす。
そして一度ごくりと喉をならすと、目の前で固まっている一喜の方をゆっくりと見た。そして静かに口を開き





「俺は一喜が好きだ」

「!!……あ…あ…………!!」



突然の告白に呆然として頼りなさげな声を漏らす一喜。壁を伝って思わずへたりと座り込んでしまった。



「あ…ほ、ほんとうに………私な…のか…?」

「…そうだ、俺は千葉一喜が好きだ」



お互い顔を真っ赤にして、佐藤は目を覆い、一喜は額に手を当ててわなわなと震えている。

そして一連の反応を見た佐藤は半ば確信し、ゆっくりと一喜に近寄り膝をつくと、両肩にそれぞれ手をおく。
少し一喜を見つめると、一喜はよりいっそう真っ赤な顔になる。







そして一喜がきゅっと目をつむったのを合図に佐藤は一喜の前髪をさらりと上げ、額にキスを落とした。





押しは強いが押しに弱い





「佐藤……」

「…ん?」

「なんで唇にしてくれなかったんだ」

「!?」

「せっかくするなら唇だろ!」

「そ、それはだな……と、届かなかったからだ……一喜の方が低かったから……」

「あごでもつかんでくれれば……」

「分かった。バイト終わったら俺ん家来い」





20100525

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