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「あー…雨降ってきたなー……」



うだうだとした空気に鉛色の空。
真上にあるビニール製の軒からは雨粒の打つ音が、トトトトトとリズミカルになっている。


少し雨足が弱まってきてから帰ろうと思ったのに少し強まったようだ。

走って帰るにも少し距離がある。
しかも今日に限ってちょっと濡れたら困るようなものが入ってるから、あまり雨の中を走るのも気が引ける。


はぁー…どうしようかな。



「あれ?一喜ちゃん傘忘れたんでしょ?」

「よく分かったねぇ〜相馬君〜」



確信犯だな、こいつ。
また面倒なやつに絡まれてしまった。

同じバイト先の―――というかさっきまで一緒に働いていたファミレス、ワグナリアのキッチン担当、相馬博臣。



「今日雨降るの知ってて、傘持ってこなかったんでしょ?しかもその理由が朝寝坊して遅刻しかけたから……」



こんな感じで暇さえあればべらべらと人の秘密だったりとかを喋りまくっている。

……これが無きゃ好きなんだけどなぁ。
……はっ、しまった。


軽くため息をついてがっくりしていると、相馬が顔をのぞき込んできた。



「…なに」

「いや?」

「あー…もう帰るから。じゃね」



ニヤリと笑ってその場から逃げるように走り出す。
もうこの際濡れてもいいや。



「待って待って!一喜ちゃん!」

「?」



ガッと肩を掴まれ、思わず振り向いてしまう。頭の上に傘を向けられ、この数秒のうちに被った水滴がはりついた額から前髪を伝って顔を流れる。



「一喜ちゃん濡れちゃってるじゃん。近いからうち寄っていきなよ」

「こ、これくらい大丈夫だけ…ックシ」

「ほらほら、風邪ひいちゃうから。ね?」


その場の流れのようにすっと手をつながれる。

もしもし相馬君、私死にそうなんですけど。



「あー、そうそう、知ってるよ。一喜ちゃん、俺のこと好きなんだってね」



にこりと笑った相馬に早くも寒気を感じてきた。熱が出てきたのかもしれない…。



「俺も好きなんだけどね、一喜ちゃん」



胸がきゅーっとせまくなるような思いがした後、ぎゅっと手を握り直された。





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翌日

「博臣、これここでいいか?」

「ああ一喜、それお願い」

「…あいつら何があったんだ?」

「それがですね、山田昨日見たんですけど……」





20100524

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