「えっ名前って彼氏いるの?」

「えっう、うん…」

久々にご飯に誘われたと思えば、目の前の男は意外の意外という顔をしてこんな発言をするのだから失礼極まりない。だいたい彼、イルミと私は仕事柄、情報提供する形でたまに会うことがあるだけの関係であり、今回の食事もその一環だと考えていたのだが目の前の男は恋人いたの発言のあと、どこを見ているのか分からないような瞳で空中を見つめ、ひたすらズルズルとストローをすすっている。

「そんなことより、仕事の話でしょ?今回のは―」

「彼氏のどこがよくて付き合ってるの?」

「…いや、私の話はいいからさ」

「よくないから」

間髪入れずに返してくる男の表情は相変わらずの無であり、何を考えているのか全く分からない。仕事の話を進めるためにも「強くてかっこいいところ」と無難に答えれば「普通だね」とあっさりとした返事が返ってきた。

「普通で十分でしょ…」

なんとなく恋人を悪く言われたような気分になり、むっとしていれば「強くてかっこいいなら誰でもいいの?」とさらにイライラさせるような返答が返ってきた。

「私が誰でもいいような人間に見えるってこと!?彼がいいから付き合ってるに決まってるでしょ!」

思わず怒鳴ってしまったあとに、いつも無表情な彼にこんなに熱くなってしまってどうするのだと自分を諌める。彼はやはり私の言葉なんて気にしていないというかのように空中を見つめながら何かを考えている様子であった。
ムキになった私がばかだった。これ以上一緒にいてもイライラするだけであると伝票を持って立ち上がろうとするとイルミは何か思いついたかのように「よし、じゃあ名前の彼氏を殺そう」とワントーン明るい声で独り言のように呟いた。

「は、はあ!?ちょっと待ってよ!」

すたすたと黒髪をなびかせながら、あっという間に人ごみに紛れる彼を追うことは適わなかったし、まさか冗談だろうと軽く構えていたが、翌日あられもない表情の彼の生首と共に送られてきた薔薇の花束に、自分は大きな間違いをしてしまったのだとようやく気づくのだった。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -