「やっぱり嫉妬はよくないよね、人を鬼にするからねえ」

間延びした言葉と、綺麗な三日月型に細められた瞳は酷く優しいものだった。
彼とこのまま会話を続けたかったのだが、帯に伸ばされた手と首筋に寄せられた吐息から、このままではまずいとけたたましい音で脳内で危険信号が鳴っている。

「あの、離してください…髭切さん」

「んー?どうして?…弟とはいつもこうしているじゃない」

ぺろりと舐められた首がどうしてかヒリヒリと痛い。もう一度やめてください、と胸を強く押すが彼は上から引く気は全くないようである。
どうして恋人…膝丸の兄である彼にこんな仕打ちをうけないといけないのだろうか。膝丸と恋仲になる前からも特に仲が良かったわけではなく、むしろそっけなくされていたので嫌われているのだろうかと思っていたが、こんな形で辱められることになるとは思ってもみなかった。

「わ、私が嫌いなのは分かりますけど、こんなのはやめてください!膝丸さんにだってどう顔向けしていいか…」

もう一度顔を近づけようとする彼の肩を強く押すと、眼前数センチの所で彼の琥珀色の瞳が私を見つめて止まった。じい、と見つめて来る彼の顔は膝丸と似ているが、発する雰囲気が違うからだろうかどこか寒々しい気を感じる。
顔を背ける私を見て、彼は形の良い眉を八の字に下げてから私の体を抱き込んだ。私を抱き潰すのではないかというぐらい強い力に思わずむせそうになるが、彼はそんなことなどおかまいなしに細々と言葉を呟き始めた。

「最初はね、君のことが嫌いなんだと思ったんだよ。胸が痛くて、内臓が熱くて、イライラしてしまうんだ。君と離れていれば、それが収まると思ったのに、弟と君が恋仲になったら一層体の中が気持ち悪くて堪らない。……ねえ、君は僕を鬼にするの?」

背骨を確認するような手つきにいやらしさは感じない。しかし、次第に体に広がっていく痺れが良いものではないことは分かる。頭の中が霞んでいくような感覚は私の思考まで奪っていくようであり、彼の言葉に返答しようとするのに頭の中には何の言葉も浮かんでこない。

「鬼を切った刀を鬼にしてしまうなんて怖い人の子…もしかして君はあやかしなのかな?危なくて、危なくて弟の傍にはおいておけないね。僕が責任をとって君を退治してあげる……。さあ、体を委ねて」

自分が今あられもない姿を彼にさらけ出していることだけは分かる。
霞んだ頭では彼の言うとおりに体を動かすことしかできないとは言え、自ら着物を脱いで生まれたままの姿で彼にしなだれかかっているのだから、誰かに見られれば誤解を受けることは避けられない。

「いいこだね、…可愛い人。君がずっと僕の傍にいてくれれば、僕は鬼にならずに済むのにね」

囁かれる声は優しくなり、時折落とされる口づけも恐ろしいものではない。欠片だけ残った理性が恋人の兄とこのような関係になってはいけないと何度も訴えるが、下腹部に伸ばされた手を止める術は私になかった。
与えられる快感をただ受けるだけの人形のような私を見て髭切は酷く満足そうに微笑み、更なる享楽を与えてくる。神格がいくら違うとは言え、刀剣達の主人を務める身である。1人の付喪神も使役できずに、体を良いように弄ばれている事実は自分がいかにふがいないかを実感させられ、悲しくなった。

やめてと一言発することもできずに、嬌声ばかり漏れ出る口が恨めしい。固く目を瞑り心の中で早く終われと念じ続ける。
彼はそんな私を面白くなさそうに見やるが、行為を止める気は一切ないらしい。言葉にしなくとも、一層激しさを増す動きがそれを物語っていた。

粘着質な水音と浅く吐かれた息だけが響くこの部屋に、聞き覚えのある、兄を呼びながら近づいてくる声に私はまだ気づかない。






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