「殺人を犯した者が警察に逮捕される割合を知ってる?」

「…」

「約9割近くの人は捕まるらしいよ。ただ、これは事件として捜査された場合に限るみたいだけど」

縄で縛られた私の目の前で、人を殺すに足りるかどうかも危ういごく小さいナイフを片手間にいじりながら、男は余裕そうに話し続けた。

「事件として調べられれば見つかる確率は上がるけれど、事件にならない、そう死体さえ出なければ殺された人は永遠に行方不明者ってことで片付けられるわけだよ」

今の君みたいにね

いたずらっこのようなあどけない笑顔を見せてくるが、私は彼が数名の仲間と共に建物に押し入り残虐の限りを尽くす場面をしっかりと見ていた。首に手をかけて軽くひねる、そんな簡単な動作で死んでいった人々は掃除機のようなものに吸い取られて消えてしまっている。もちろん、私の知り合いも例に漏れずだ。

なのに何故私は殺されず縄で縛られたまま、訳の分からない小部屋に閉じ込められているのだろうか。薄暗い中、時折ちかちかと光るライトが異様さをさらに際立たせており、気が狂ってしまいそうになる。じわりと滲む涙に気づかれないように俯けば、目を逸らすのを許さないとでも言いたげに乱暴に顔を引き上げられた。

「俺は、別に君を殺したいわけじゃない。ちょっと試したいことがあるだけだよ」

困り顔をしながら言い聞かせるように言ってくるが、それならば首にあてがわれているナイフを降ろしてほしい。プツリと皮膚が切れる感覚に体が一層震えれば男は笑みを深くした。

「やっぱりフェイタンの趣味は理解できないなあ。こんなに震えてばかりの姿見てもつまらないよ」

肩におかれた手が私を突き飛ばす。どさりと芋虫のように床に倒れる私を見てため息をついた彼は新たにペンチを手に取る。見間違いでなければ、それには赤黒いものが所々に付着している。そんな、もしかして…

これからされることが予想出来てしまい、歯が自身の意思に反してガチガチと音を立て始める。震えよ止まれ、相手を煽ってどうするのだと必死に止めようとするが、生体反応というものは容易くコントロールできるものではない。

「ごめんなさい、ごめんなさい、許して」

何に対する謝罪なのか、請うた赦しなのか、自分が一番理解できていないが口からは同じ言葉ばかりが溢れてくる。涙でぐしょぐしょになる顔は酷く醜いだろう。彼は無表情で私の様子をしばらく見つめるとペンチを放ってしゃがみこんだ。

「君の名前聞いてなかったよね。教えて」

「………名前です。名前…あ、の、許して…許してください…」

「名前ねーうーん」

何か考えるように目線を逸らした彼は「うん、やっぱり今日から君を飼おう。俺が飼い主だからね。たくさん芸を覚えるんだぞ〜」
うりうりと髪をかき混ぜるように撫でられるこの状況が理解できない。言っている意味が分からない、と男の顔を見れば「何その目」と髪を引っ張られた。

「ペットが欲しかったんだけど、頭の悪い動物は面倒だし…人間でいいかな〜って気分だったんだよね。殺されたくなかったら大人しく俺に飼われていてね、名前ちゃん」

人間扱いをしないという宣言に、先に殺されてしまった方がよかったのかもしれないと絶望ばかりが心を占める。「ペットを飼うって何がいるんだろ…」ぼんやりと呟かれた言葉と同時に閉まるドアは私の行く末を暗示していた。






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