「名前は俺とセックスできる?」

廃墟に申し訳程度の光がそそぐ昼下がり。団員のほとんどが出かけており、シャルナークが携帯をぽちぽちといじる音だけが聞こえる静かな部屋の中、突然飛び出した言葉に私は思わず手にしていたグラスを落とした。

こんな真昼間に何という話を始めるのだと、彼の顔を見るが、いつも通りの退屈そうな顔をしながら携帯をいじっているだけであり全く真意がつかめない。
どぎまぎしているのは自分だけか、と何とも言えない気持ちになりながら落ちたグラスの破片を片付ける。冗談のつもりならこちらも軽口で答えるべきか、と返答に困っていると「ねー、どうなのさー」と間延びした声が頭上を飛んだ。

「いや、シャルとはちょっと…」

自分だけが意識しているのが悔しくて、むっとしながら返してやれば、彼はようやく携帯から顔をあげた。

「は。なんで?」

明らかに不服と言わんばかりの声色と表情に思わず笑いそうになるが、これだからモテることを自覚している男は嫌なのだ。カワイイ顔でちょっと引っ掛ければ女の子がほいほいついてくるからと言って過信している証拠である。
いや…彼ぐらいになると過信どころか、モテると自覚していないとおかしいレベルのスペックではあるのだが、身近な人間であるが故に腹立たしい。

「童顔マッチョは勘弁してよ」

「ムカつく…」

彼が自分の自慢であり、かつコンプレックスにも思っているベビーフェイスに言及してやれば、思い切り眉をしかめながら睨み付けられた。少しだけ優位に立てたような気分になり、ふふんと鼻をならすと目の前数ミリの所をアンテナが飛んだ。

「うわあぶな!」

「避けられたんだ。名前のくせに」

ひょいひょいと投げつけられるアンテナを必死によけながらテーブルの影に隠れる。どうせ私は団員の誰にも戦闘はおろか腕相撲でも勝てないですよ、心の中だけで文句を言いながら盾にできる物を探していると、童顔マッチョは一瞬にして私の背後に立った。

「ぐえ」

「色気ないなあ」

背後に立たれたと理解した瞬間にはまわされていた腕が、ギリギリと私の首を絞める。本気で絞められていないことは分かるが、苦しいものは苦しいし何より距離が近すぎる。
どこか楽しそうに笑いながら耳を食んでくるのだから完全におちょくられていることが分かり、非常に腹立たしい。加えて、こちらが経験のないことをいいことに何やら下半身のいたるところを触ってくるのだ。これだからケイケン豊富な男は勘弁してほしい。

「ちょ、あ、やめてよ!」

「やだよ、俺の誘い断わった仕返し」

いつの間にか首の拘束は緩んでおり、苦しさはもうないはずなのに心臓がバクバクと音をたてているせいで別の意味で死んでしまいそうである。
慣れたような手つきで背後から回された手が上着の裾から侵入しようとした時である。


「わ、わたし!クロロ以外に抱かれる気ないから!!!」


何を言っているのか自分でも良く分からないが、いつの間にか飛び出していた言葉は彼の腕をとめていた。するりと離れた温度に酷く安心したが、無言のまま背後で何も言わないでいるのが無性に怖い。
いつものように『団長が名前なんか相手にするわけないじゃん』と軽口を叩くとばかり思っていたのに、何なのだろうこの沈黙は。

恐る恐る後ろを振り向けば、俯いて表情の見えない彼がいるし、先ほどの大声で集まってきたフィンクスとフェイタンが「修羅場だな」「修羅場ね」と訳の分からない事をにやにやしながら言い合っている。

「シャル、なんかごめん…」

何がごめんなのか、先ほどの発言といいよく分かっていないがとりあえず謝っておく。そう、彼のような理屈屋には謝罪の言葉を投げかけておくに限る。
しかし、誤ったことが余計に悪かったのだろう。嫌な感じのオーラがびしびしと肌を刺し、彼の手に握られたアンテナがギリギリと嫌な音を立てている。

バキン、とアンテナが折れる音と同時にフィンクスとフェイタンが爆笑し、
シャルはようやく上げた顔を真っ赤にしながら「処女の癖に!!!」と叫びながら部屋を飛び出していってしまった。

ぽかんとする私をよそに、背後では爆笑する声がまだ響いている。
分からないことだらけの彼の反応に、何も言い返すことができなかったがさっき見た彼の顔が頭から離れない。

ふ、とようやく理解が追い付いた頭でとりあえず私も叫ぶ。

「処女で悪いか!!!」






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