幼い頃、私が可愛がっていた子猫をクロロが殺した。

ゴミと人間の醜い思惑の見え隠れするこの流星街で、なんとか生き延びていた可愛らしい小さな命だった。腹はやせこけ足に怪我をしていたけれども、私がパン屑をあげれば精いっぱいにゃあにゃあと鳴いてすり寄ってきたし、何より黒く大きな瞳は荒んだ毎日を送る私の心をわずかであっても癒してくれていた。

怪我もしていたし私があげる少しの食料以外に何か食べている様子もなかったから、きっと長生きはしないと分かってはいた。しかし、それでも…

「なんで、なんで殺したの!!!」

小さな亡骸になお手を加えて汚していく彼が信じられなかった。ボロボロの医学書を片手に猫の内臓を引きずり出す彼は、子猫をただの観察物としか扱っていない。もうやめてほしいと彼の手を掴むと「なんだ、名前も気になるのか?ここに動物は少ないからいい機会だぞ」と柔らかな笑みを浮かべる。

私はその顔を見て、こちらの言葉など無意味なのだと気付いた。そろりと手を離せば彼はまた本を見ながら解体を始める。若干10歳、私は同い年であるはずの彼が人間には見えなかった。私は幼心に、クロロは悪魔そのものだと恐怖し、ただただ淡い命が散らされていくのを見ていることしかできなかった。

*

あれから10数年、彼はやはり悪魔なのだと私は思う。

彼が1つ仕事をこなすたびに奪われていく命はもう数えきれないし、彼も何人殺したかなんて全く気に留めていない。幼い頃、自分の好奇心のみを満たすことを目的に猫を解剖した時から彼は全く変わっていない。少年のような心とはよく言ったものだと思うが、純粋に、狡猾に、残酷なことを行う少年ほど恐ろしいものはないだろう。

「クロロはどうして人を殺すの?」

当然のように腰に回された手から逃れるように少し体を捩れば、その分だけ彼は距離を縮めて私に優しく口づけた。

「愚問だな。それなら何故、今更お前はそんなことを聞くんだ?名前?」

もう戻れないところまでお前も来ているくせに。
そう言って、深くなる口づけは悪臭ただようこの状況に全く似合わない。

惨殺死体が散らばる真ん中で、悪魔のような男と口づけを続ける私もとっくに悪魔の一員なのかもしれない。激しい銃声と悲鳴の立体音響を背後に聞いてなお、異常だと感じなくなってしまった自分を悲しく思う。もう少しだけ人間でいさせて欲しいと彼に請いながら静かに目を閉じた。






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