ほんの数度仕事を共にしただけの仲だった。

血濡れた部屋の中彼女が使っていたパソコンを修理する。血が液晶に飛び散ったせいで若干薄汚くなっているが、中身のデータに破損はなく団長命令は何の問題もなく遂行できそうであった。USBにデータを移している間にも何か他に有用なものがないか部屋を物色する。
シンプルなマグは床に落ちて真っ二つになっているのを見つけて、ぼんやりとあの時一緒に買ったやつかなんて思い出す。欠片をわざと踏むように足を進めていけば、彼女がよく話していたデータを収集してまとめているファイルと彼女の顧客リストを見つけた。パラパラとめくってからこれも持っていこう、と小脇に抱え直し、次は周囲の棚を漁る。

彼女の几帳面さがよく現れたように収納されたそれらをわざと崩すように物色していけば案外金になりそうな貴金属も見つかり、これも持っていってしまおうと何処か霞がかった頭で考える。

データコピー完了の文字を見てUSBを引き抜くと、思わず手が滑り血だまりの中に落ちた。「あーあ…」
机の下にまで入っていったそれを取り出そうとしゃがむと、目を見開いたままの彼女の首と目が合う。

「…」

彼女の首をどけるようにしてUSBを血だまりから救出するが、内部まで染み込んだ血液により既にそれは使い物にならなさそうである。
「予備持ってきてないんだけど」彼女ならいくつか持ってるだろうな、と辺りを見回せばもう一つのパソコンの傍に最後に会った時に彼女に譲った自分のUSBを発見する。

「お、ラッキー」使い慣れた自身のそれを見つけて内部データを確認してみると、中身は写真ばかりである。ちらりと見えた自分と彼女で撮ったであろうそれを見ないふりをして全て削除すればファイルは元の通りまっさらになった。

再びデータを抜き取り、今度こそは血だまりに落とさないようしっかりとUSBを握りこむ。どんどん霞がかっていく頭をふるようにして「フィンクス!そろそろ行こうよ!」と声をかければ「おーう、もう行くか」と間延びした声が返ってくる。
そう、もうこんな場所に用はないのだ。

必要なデータは抜いたし、目撃者数名と部屋の主1名は確かに”俺”が始末した。だからもうこんな場所にいるべきじゃない。

「まだ盗れるもんあるんじゃねえか?あっちの部屋とかよお」

「いや、ここの女の顧客に割と手練れのハンターがいたからあまり長居して痕跡を残さない方がいいよ。早く出よう」

「まじかよ。って!俺を置いていくなよ!」

ごちゃごちゃと背後で騒ぐフィンクスの声など聞こえないふりをして早々に部屋から出る。そう、ほんの数度通っただけのこの場所に、人に愛着が湧いただなんて、ほんの数秒でも殺すのを躊躇ってしまったという事実などなかったことにしよう。今までに殺してきた奴らの顔なんか覚えていないはずなのに、目を閉じてもまだ思い出す彼女の悲しそうな顔はまだ瞼の裏に焼き付いていた。






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