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「……――あ、なあ、エース」
「…ん?」
横を歩いていたと思ったルフィがふと立ち止まる。くいくい、とおれの裾を引いて、商店街の置き看板に貼られたポスターを指差した。
「なにこれ?なんて読むんだ?」
「ん、…ああ、宵宮か。今日の夜だな。」
「なに?」
「よみや。お祭りみたいなもん、かな。暗くなってから、屋台とか出始めて」
「屋台!?」
途端にキラキラと瞳を輝かせて、ルフィはしゃがみこんでまじまじとポスターを眺めた。いいなあ、と小さく小さく呟いたその声を、おれは聞き逃さなかった。
少しかがみこんでルフィに近づいて、その華奢な背中に話しかけた。
「……行ったことねえの、こういうの…」
「ん?ああ、うん。変だろ?子役の時からこの業界入ったから、普通の遊びとか、普通の生活とか、お祭りとかも一回も行ったことないんだ。」
「…。」
「ほんとは、『食べ歩きデートプラン』の収録だって、決められた店を決められた通りに歩いて、決められたもんしか食えねえんだ。だから、おれが連れて歩けるとこなんか、ほんとはどこにもない。」
「…。」
「…ごめんな、エース。おれはいろいろゆっくり見れて楽しいけど、エースは当たり前のことばっかりで楽しくないよな。」
そう言っておれを見上げて笑ったルフィの顔は、テレビの中の2次元の笑顔そのものだった。
いつもは、天使の笑顔、なんていって画面を静止させてまで眺めていたその笑顔が、今はなんだか、ひどくやるせなかった。
「……行こうか、ルフィ。」
「…え?」
気づいたら、口を開いた後だった。
「…行こう。おれが、連れてくから。宵宮、行こう。」
「……、」
「…あ、もし、よければ、だけど…。」
語尾がしぼんでいく。しゃがみこんだまま、ルフィが目をまん丸くしておれを見つめていた。そのまっすぐな瞳が直視できなくて、おれはまたおろおろして視線を泳がせる。
「…でも、いいのか…?おれ、プロデューサーから、ホテルとかのいいレストランで食えるくらいの金、」
「いい。そんなの。ルフィの行きたいとこ、行こう。食いたいもの、全部食おう。」
なぜだかはわからない。いままでずっとルフィを見つめ続けてきた賜物だったのかもしれない。おれには、どうすればルフィが本物の笑顔で笑ってくれるか、わかっていた。
そう、おれにはわかっていた。あの二次元の笑顔が、ルフィ本来の笑顔じゃないってこと。
彼はもっと、もっともっとキラキラした笑顔で笑えるんだってこと。
「…教えて、ルフィ。何が見たい?何食いたい?何、したい?」
おれはルフィのそばに、同じようにしゃがみこんだ。同じ目線で、努めて目を逸らさないように頑張って、問いかけた。
遠慮がちに、戸惑いながら唇を開きかけたルフィ。それを促すように、ちょっとだけ笑いかけて頷いた。
「あ、の…あのな、」
「…うん。」
「…あのな、わたあめって、あるかな…?」
「あるよ。きっと。」
「……あとな、りんご飴、ってやつとな。たこ焼きとな、焼きそばとな、焼きもろこし、ってあるかなあ?」
「うん。多分。探そう。」
「あとな、あと、射的とな、金魚すくいも、…あ、でもおれ金魚飼えないかも、」
「おれが飼うよ。好きなだけやればいい。あとは?」
「…あとな、…あと、あとはな、」
「うん。あとは?」
「線香花火、したい。」
ささやかな願いを、ほんのささやかなわがままを、焦ったように言い募るルフィの瞳が、なんだかやたら濡れているように見えるのは、気のせいだろうか。
「線香花火、競争したい。どっちが長くできるかって、あれ、やってみたい。」
「…。」
「……あ、でもまだ早い、よな。まだ売ってないかも、」
「大丈夫。」
大丈夫。できるよ。全部やろうな。
どうしても笑ってほしくて、おれは精一杯の勇気を振り絞って、ルフィの眼をまっすぐ見てそう言った。
黙っておれの眼の奥の奥のほうをじっと見つめていたルフィは、ふ、と顔をゆるめると、一瞬だけまるで泣き出しそうな顔をした。
「…エース。」
「……ん?」
「ありがと。エースでよかった。今日会えたのが、エースでよかった。」
しし、とちょっと照れくさそうに笑ったルフィのその言葉が、その言葉の最後の響きがどこか切なくて、それでもおれは、喉の奥をぎゅう、と焼けつくように熱くした、その感情の名前を知らなかった。
でもきっとこの答えは、ネットで検索しても見つからないのだろうと、それだけは、なぜかわかっていた。
「……しし!やべやべ、うれしくてちょっとカンゲキしちった!エース、次どこ、」
誤魔化すように勢いよく立ったルフィ。その言葉が、不自然に途切れた。
細い体が、ぐらりと傾ぐ。
「――――ルフィ!!」
どっと胸に衝撃が走る。崩れるようにバランスを失ったルフィの体を、とっさに抱きとめた。
「…っ、…!」
「…!? ルフィ、どうした、」
「…待って、…っ、だいじょぶ、タチクラミ?ってやつ、」
ぎゅ、と腕に縋る細い指先が、倒れこみそうなのを必死に耐えているのを声高に伝えてきた。
「……ごめ、ちょっと、最近あんま寝る暇なくて、…今日も、夜通し撮影してから、来たから、」
「…! そんなの…!!」
「…はは、だめだ、ぐらぐらする…。ごめん、ちょっと腕、貸してな…」
当たり前だ。あんなに毎日毎日バラエティやら歌番組やらに出て、ライブも雑誌の取材もこなして、体に支障が出ないわけがない。少し考えればわかりそうなことなのに、なんだっておれは今までそれに気が付かなかったんだろう。
今の今まで、目の前にいるこの子を、ただの頼りない一人の少年を、おれはバーチャルか何かだと思っていたとでもいうのだろうか。
「……無理して来なくて良かったのに…!こんなんだめだルフィ、マネージャーさんに連絡して、」
「…大丈夫…!!…、ごめんエース、びっくりさせちった。でもありがとな、助かった」
ときめいちゃうだろ、と冗談を言って笑ったルフィは、そのままするりとおれの腕の中から抜け出して歩き出した。それでもその足元は明らかに不安定で、数歩歩いただけでまたぐらりと揺れた。
たまらずもう一度肩を抱いて支える。おれの腕の中で、ルフィはぎゅ、と目を瞑って襲い来る波に懸命に耐えていた。その辛そうな表情に、何より、抱きとめた身体のあんまりにも頼りない華奢さに、胃がねじ切れそうだった。
こんな肩で、こんな細い手で、一体どれだけ頑張ってるんだろう。おれたちを楽しませるために、おれたちに笑いかけるために、この子は一体どれだけのものを犠牲にしてきたんだろう。
抱きしめたい。おれは確かにそう思った。支える振りをして、その体をほんの少しだけ引き寄せた、その時だった。
「…――ちょっと、ねえあれルフィじゃない?」
「え?うそ?こんなとこに?」
「撮影?」
「絶対そうだって!写真撮ろうよ!」
びくりと腕の中のルフィが身体を強張らせる。そのまままるで逃げるように、おれの胸に額を寄せたような気がした。
思いがけない、あまりにルフィらしからぬ、怯えた仕草。それに頭を殴られるような衝撃を受けた。
体調が悪かろうが、苦しんでいようが、ルフィを目ざとく見つけ出して絡みつく、好奇の眼。
その気持ちがわからないとは到底言えない。おれだって、本当に本当に恥ずかしいけれど、今まで「アイドル」としてのルフィしか、想像することができなかった。遠い遠い世界の存在のような、自分たちとは違う生き物であるかのような。
だけど、おれはもう知ってしまった。
血の通う、指先の体温を。細い細い手の縋りつく力の強さを。
作り上げられた偶像とそれに伴う義務に、必死で耐えようとする華奢な肩を。
無遠慮に向けられたむき出しのレンズに、怯えて揺れる瞳を。
太陽のような笑顔の裏で、誰にも見えない画面の外で、細かく細かく震える指先を。
「……ルフィ、ごめん。少しだけ我慢して」
え、とルフィが呟いて顔を上げたところへ、ぼす、と自分の頭から外したハットを被せる。
肩を抱いたまま少し強引に歩き出し、わざと人混みの中へ飛び込んだ。慌てたような声が後ろで聞こえ、それを振り切るようにずんずん進む。
この子を今守れるのは、おれだけだ。その思いだけが、おれの背筋を伸ばし背中を押した。
少し大きめのおれのハットを頭に載せたまま、突然のおれの行動に戸惑っていたルフィが、ぎゅ、と眉根を寄せて真っ赤な顔で俯いた。それを眼の端で捉えたおれは、とにかくルフィが静かに休めるところを探して足を速めた。
その指先がおれのシャツの布地を控えめに捉えて握っていたのは、きっと具合が悪いのを必死で耐えているんだろうと、そう自分で結論をつけて。
「…――あはは、危なかったー!おれあの状況で笑って写真撮られる自信なかったわ!」
どこかこころなしすっきりした声で笑ったルフィが、芝生の上に思いっきり寝転がって伸びをした。
ころ、とその頭のあたりでハットが転がる。顔色は少し良くなっているようで安心したおれは、そのそばにゆっくり腰を降ろした。
広い芝生の公園。周りはちらほらと親子連れや犬の散歩中の老人、キャッチボールをする数人の子供がいるだけで、だれもおれたちに気を留めてはいないようだった。空の青さが高く清々しく、風が久しぶりにまっすぐ吹き抜けていく。
ルフィは静かに目を閉じたまま、子供の笑い声や、野球ボールがミットに収まる音や、風の音を聞いていた。
広い空の下。雑草交じりの芝生が揺れる。ここならだれもちっぽけなおれたちに気が付きはしないだろう。
どこにでもある、ありふれた昼下がりだった。
「……エース?」
「…ん…?」
寝ころんだまま、ルフィがこちらを見上げていた。
こころなしか、浮かべた笑みがやさしくどこか甘い。そのまなざしに少しどきっとしたのがなんだか恐れ多くて、おれはルフィの言葉にすぐに反応できなかった。
「――ありがとう、な。」
「……、え?あ、いや、…ていうか、ごめん。具合悪いのに、歩かせたりして、」
「いいよそんなの、ほんとに大丈夫だって。…さっきのあれ、すげえ助かった。ありがと、連れ出してくれて。」
「……。」
気持ちいいな。こんな風に外で寝っころがるのも、いつぶりだろ。
そうだれにともなくつぶやくと、ルフィはまた静かに目を閉じた。
「――気、悪くしたらゴメン。いつもならな、守られるのなんて大っ嫌いなんだ、おれ。」
「……。」
ぴし、とおれのガラスのハートにひびが入った。
余計なことをした後悔が今更のように後頭部にのしかかる。バカバカおれのバカ出しゃばりめ、黙っていつもみたいにキノコみたいに静かにじっとしてればよかったものを、
「―――でも、エースにさっき助けてもらって、…おれ、おれすげえうれしかった。すげえ、安心した。」
「え、」
言ってることの内容はちぐはぐで、それでもルフィの声はどこまでも真摯。真意をはかり損ねたおれは、そのまま言葉を続けられずに目を閉じたままのルフィを見た。
「多分、…多分な。あいつらが守ってるのも、あいつらが見てるのも、全部、商品としてのおれなんだよな。」
「…、」
「わかってる。…わかってんだ。そういう世界で生きてるのはおれだ。おれがこの生き方を選んだんだ。いまさら逃げ出そうとは思わねえ。」
けどな、とつないだルフィの声が、少しだけ小さくしぼんだ。
「……けどな、ときどき、つかれちまうことも、あんだ。」
さっきのあれは、ちょうどそういうタイミングだったから。
そう静かにこぼしたルフィは、やっぱり薄く小さく笑っていた。
「…さっきは、エースが、いっしょーけんめーおれを守ろうとしてくれてるのがわかったから。げーのーじんだから、とかじゃなくて、ただおれを、守ってくれたから。」
「…だから、うれしかった。」
ルフィはそういって、閉じていた眼を開いた。つぶらな黒い瞳で、おれの眼をまっすぐに見た。
やわらかそうな瞼が、どこか甘いように、けぶるように、すこしだけとろんとゆるんでいた。
「だから、ありがとう、エース。」
「……―――ルフィ」
「…んー?」
「眠い?」
「んー、うん、ねみー」
「…うん、わかった。ねてていーよ。」
「…いいのか?せっかく、」
「いいよ」
「でもそれじゃエースが、…っわ」
そばに転がっていたハットを、ルフィの言葉を塞ぐように置いた。突然暗くなった視界にルフィが驚いたように声を上げて身じろいだのがわかって、少し安心する。
そうでもしなければ、耳まで赤くなったこの顔に気づかれてしまっただろうから。
「エース、」
「…いいよ。休んで、元気になったらお祭り行こう。」
メッシュ素材の帽子ごしでは、きっとかろうじてこの背中の輪郭が見えるだけだろう。おれはそう高をくくって、ルフィに背を向けて片膝を抱え込んだ。
たとえば、また万が一不躾な視線がルフィを捉えてしまったとき。あの子供たちのボールが、ルフィに向かって飛んできたとき。そうなったときにいつでも、守る、なんてのがおこがましくてもせめて身代わりくらいにはなれるように。
しばらくじっとおれの背中を見つめていたようだったルフィが、もう一度ぽつりと礼を言った。
そのまま聞こえないふりで空を見上げていると、そのうち後ろから小さな小さな寝息が聞こえた。
おれのハットを目元に載せて日除けにして、ゆっくり胸を上下させるルフィ。安心しきったようにすとんと眠りに落ちたその姿に、おれのほうがよほど安心した。
これも餞別よ、と容赦なく捨てられたリュックのかわりに押し付けられたボディバッグの中から、さっきまで着ていたシャツを取り出して広げ、ルフィの上に静かに掛ける。
それでも、ルフィが身じろぎもせず眠り込んだままなのを見届けて、おれも人ひとり分の距離を空けたまま腰を据えた。
夢じゃないよな、ともう一度横の寝息を確かめようと、こっそり顔を傾けてルフィのほうを盗み見る。
寝息を零す小さなくちびるが、うっすら隙間を空けているのが見えた。やわらかそうだな、と思ったとたん、まるで熱湯を被ったみたいに心臓が甘く縮みあがる。
触りたい、などと不届き極まりないことを考えた、その時だった。
「……、――っでェ!!」
「あー!!すんませーん」
おれの煩悩を戒めるように、後頭部に勢いよくぶつかってきたゴム製の野球ボール。あまりに華麗なクリーンヒットだったことで、謝る前にガキどもが笑い転げているのに殺意を覚えたが、まあルフィの盾になるという本来の目的は果たせたから良しとしよう。
クソガキどもおめーらには一生彼女できねーよ、と怨念を込め、おれは野球ボールをぶん投げた。
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「……―――――ッ」
「…!?おいおい泣くほどかよ!?」
ずらりと立ち並んだ屋台に、ルフィが声もなく震えているのを見て、おれはぎょっと目をひん剥いた。
夕暮れの中にそこだけ異世界のような空気を醸す、神社の境内。いくつも灯された提灯や裸電球、それから屋台の明かりで、あの独特の光が賑わう祭りの会場を浮かび上がらせている。
おそらくCDか時代物のカセットか、いずれにせよ録音したのであろう、だがしかしそれはそれで風情のある祭囃子の笛の音。屋台から流れてくるソースの香り。ビニールプールに浮かぶ色とりどりの水風船。
いくつになってもこの空気に胸が躍るのは誰しも同じなのだろうが、ルフィの喜びようは半端ではなかった。
「すげ、エース、おれ、おれこういうのほんと初めてで!」
「うん、聞いた」
「ど、どうしようエース!何から見よう、何から行くもんなんだこういう時って!?」
「え!?えーと、…いいんじゃねえか、食いたいもんからで、」
「じゃあたこ焼き!!エース、全部!屋台全部制覇しよう!!」
「…ぶっは!」
頬を染めてまるで子供の様に、いや、年相応にはしゃぐルフィを見て、おれは思わず吹き出した。
待ちきれない、と構わず腕を引っ張るルフィにされるがまま、人の波を抜けて屋台の列に向かって走り出す。
「屋台につき1品な」
「えー!?もちとチーズとふつーの選べねえよお!!」
「制覇すんだろ?半分こで食べたってギリギリだぞ」
「おれ食うもん!」
「…じゃあ2品な」
「よっしゃ!!」
おっちゃんふつーのともちのやつ!マヨネーズいっぱい!
満面の笑みで注文したルフィに、はいよ、と威勢のいい答えを返して、タコにそっくりの屋台の親父は額の汗をぬぐった。おまちどうさま、と横のおねえちゃんが差し出した粒のでかいたこ焼きの上で、やわらかそうな鰹節が踊っている。
負けじと小躍りするルフィに苦笑して、料金を払う。
「うっひょーうまほー!つぎは焼きそばと、お好み焼きだろ、あーとうもろこしあった!!うおお串焼き肉!!あっエース金、」
「いーよ、別に」
「そんなんやだよ、半分こだろ!」
「…じゃああとでもらうな」
「おう!…んあー!!金魚すくい!!」
「待て待てとりあえず手の中のもん全部食ってからな」
ぴょんぴょん飛び回るルフィの襟首を掴んで、ひとまず焼きそばを手に入れるべく方向転換。夢のようにふわふわしていた感触はいつの間にか消え失せて、そのかわりに、ルフィが隣にいることがまるで当たり前のような、ずっとこうして生きてきたかのような既視感を覚えた。そうまるで、ずっと兄弟だったかのように。
「…うまい?」
「す……っげえうめえ!おれこんなうめえたこ焼き初めて食った!」
「んな大げさな。…つっても確かにこれはレベルたけーな」
「エース、もち入りちょーだい!」
「ん?おお、ちょっと待ってな、」
縁石にルフィと並んで腰掛けていたおれは、そう言われて手首にかけていた焼きそばと串焼き肉入りのビニール袋を下に置こうと身じろいだ。
パックごとルフィにたこ焼きを渡すには、左手にかかったそれが邪魔に思えたからだ。だが、
「……そのままでいい、食わして」
「…え?」
思わず聞き返したおれに向かって、ルフィは「あ」、と口を開いた。そのまま早く、とおれを急かす。まともに考えられない頭のまま、戸惑いながらはじっこの食べやすい温度に冷めているであろう一つを爪楊枝に刺し、持ち上げる。
短い爪楊枝ではルフィの唇に指先が触れてしまいそうで、手が震えた。
「んー、もち入りうめーな!」
「…、それは、よかった」
「エースもふつーの食うか?うめーぞ!」
「え、おれは」
「ほい!あーん」
神様仏様ルフィ様、当たり前みたいとか思ってすみません。例えばこれに毒が入っていようが例えばこのあとうっかりルフィが喉に爪楊枝を突き刺そうが、おれにはくいはありません。
南無三!!
「…、んまい?」
「……んまい。死ぬほど」
「オーゲサだなー」
けらけらそう言って笑ったルフィ。それはさっきおれがこの子に向かっていった言葉の意趣返しだったのかもしれないし、正直感動で味なんかほとんどわからなかったけど、それでもルフィが楽しそうに笑うから、おれは幸せだった。
急いで次のひとつを頬張るルフィ。息を吹きかけて冷ますのを忘れて涙目になったその頬が、火照ったように染まっていたのは、きっと屋台の黄色い電燈で照らされていただけだろう。
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