※myさまのリクエストで「ピンポンでルフィ宅に遊びに来たエースがムラムラしちゃってあんなことこんなことの最中にサボがかえってきちゃう」話です。
上京した時以来の新幹線にはしゃいだ興奮が落ち着いてきた頃、おれは時間が経つごとに窓の外の景色を占める白が減って行くことに気がついた。出てきたばかりの故郷は一面の銀世界だったのに、だ。
おれは新幹線の座席に座って窓際に肘をついたまま、どんどん流れていく景色を眺めた。時刻は夕方。遠くに沈んでいく夕日が、空や、山や、稲を刈った空っぽの田んぼを真っ赤に焼いている。
数年前、上京したその年の年末年始に帰省した途端、「本当にここは同じ国か」と呆れるようにして呟いたのは隣で雑誌を読むサボだったが、おれも初めて都会の冬を経験した今では、あの時サボがそう言った気持ちがよくわかった。
だって全然違う。痛いほどに澄んだ空気の冷たさとか、白に埋め尽くされた景色の、目も開けられない眩しさとか、透明なほどに真っ黒な夜空とそこに散らばる星の数とか。
見せたい。話したい。聞いてほしい。一緒に見たい。おれの眼に映るものは次から次へと変わって行ったけど、そう思う相手は、いつだって同じだった。
外の景色は電車の時のそれより余程速いスピードで通りすぎていく。だけど、今のおれにはそのスピードさえどこかもたつくように思えた。
はやく。早く。おれをエースのとこまで。この高速で流れていく景色の向こうにエースが待っててくれると思ったら、もう寝ることもじっとして待つこともできそうになかった。
「……ルーフィ。ちょっと落ち着けお前。」
「ん、やべ、ごめんおれなんかした?」
「いーや。ただそわそわしてんのがバレバレでうつりそう。」
「げ、わかるか?」
「そんだけ携帯パカパカしたり外見たりキョロキョロしたりしてればな」
「……ごめん」
ずっと雑誌に目を落としたままなのに、いつのまにこっち見てたんだろ。サボってこういうとこちょっと怖いよな。少し大人しくしてよう。
おれは神妙に座席に居直って、手の中に携帯を握りしめた。言われて初めて気付いたけど、すこし肩に力が入っていたみたいだ。意識して力を抜いて、倒し気味にした背もたれにもたれかかって、首だけを軽く巡らせてまた外の景色を眺めた。もう白いかけらは所々にしか見当たらない。そのうち全然見えなくなるだろう。ちょっと寂しいような気もするけど、でもそれってイコール、エースへの距離が縮まったということだ。
エースの誕生日に合わせて無理矢理帰った大みそか。実はじいちゃんに黙って出てきて、元日朝っぱらからじいちゃんの馬鹿でかい怒鳴り声で電話を掛けられて、そのままびくびくしながらすっとんで帰った。親戚もたくさん新年のあいさつにくるし、お年玉ももらわなきゃだし、もともと元日中には帰るつもりだったのに。せっかくエースの腕の中でぬくぬくしやわせに寝てたのに。じいちゃんのバーカ!
31日の最終の新幹線に乗る前に、じいちゃんを酔っ払わせてこっそり抜け出させてくれて、そのあともじいちゃんにフォローを入れてくれたのは、ほかでもないサボだった。
ついでに、おれの往復の新幹線代は、サボからエースへの誕生日プレゼントだそうだ。その伝言を布団の中で伝えたら、「おれ一生あいつに頭上がんねえ」ってエースが真面目な顔して言ってた。おれが大袈裟だな、ってゲラゲラ笑うのに、エースの顔は強張ったまんまだったから、あれはいわゆる「コトバのアヤ」ってヤツでは済まない感じで、結構本気で言ってたんだと思う。
夕日はあっという間に山の向こうに沈んでいく。最後の半分が放つ真っ赤な光線が直接目に刺さるみたいだったから、おれはブラインドを半分だけ下ろして眼を閉じた。落ち着いたら、忘れ物してドタバタになった出発とか、じいちゃんとの騒がしい別れとか、新幹線にはしゃいだ時の疲れが思い出したようにわきあがってきた。寝て起きたら、エースにはやく会えるかな。そんな風に思ったのを最後に、おれはいつのまにか眠ってしまったようだった。
あったかくてぬくぬくして気持ち良く眠れたけど、それはサボが自分のコートをおれの身体にかけてくれたからだってことには、起きてから気がついた。
******
(……おとなしくなったと思ったらもう寝てんだから。)
小学生みてえ、とひとり苦笑して、サボは静かに立ち上がった。荷物棚に放り込んでいたPコートを手に取ると、そのまま広げてなるべく風を立てないようにやわらかく弟の身体にかぶせてやる。腹の辺りで組まれた手の中に、しっかりと白い携帯が握られていたのを見て、また苦笑する。その中にインプットされたメールフォルダ。着信履歴。発信履歴。それらの画面があるひとりの名前でほとんど埋め尽くされているのを、サボはよく知っていた。
(――もうすぐだ、ルフィ。寝てろ。そしたらすぐに会えるからな。)
いつものハッキリとした表情が消え、その整った顔立ちがよくわかる幼い寝顔を晒す弟の髪を静かに撫でて、サボは胸の内で語りかけた。
エースの誕生日、どうしても帰りたいんだ。
そう切羽詰まった顔で相談を持ちかけてきた時は、正直言ってやっぱりな、と思ったものだ。わかったとあっさり頷いてやれば、弟はもともと大きい目をさらにまんまるくしてこちらを見上げたが、解りやすい弟の性格なんか、この十数年でとうに知り尽くしている。
昼間から酒を飲まされ泥酔して眠る祖父を起こさないように、ただでさえよく軋む実家の冷たい玄関を忍び足で出て行ったルフィ。サボありがとう、と一瞬この胴体に強く抱きついて、ただただ逸る気持ちと焦りをを抱えて飛び出して行った弟。祖父に付き合って酒を飲んでいたせいで、強くもやのかかる頭でそれを見送ったが、なんとなく、いいなあ、と思ったのは多分気のせいじゃない。
あんな風に誰かを真っ直ぐ想えるって、一体どんな気持ちだろう。
あんな風に誰かに真っ直ぐ愛されるって、一体どれだけ幸せなんだろう。
そう思った。
だが、弟が再び実家に戻ってきた時に、彼らの関係性に何かそれまでと違うものが加わったのに、サボは気付いた。
サボありがと、すげえ楽しかった。エースも喜んでた。そう笑って言った弟の笑顔が、どこか大人びて見えたからだ。一度それに気づけば、携帯を開く回数が減ったことにも、電話する声のトーンが、こころなしか落ち着いて聞こえることにも気がついた。
なんかあったのか。そう聞けば、弟はしばらく何と言おうか考えた後、言葉を選びながらゆっくりと、「エースが昔のこと話してくれた」、とだけ言った。
お互い両親とは幼いころに別れている、ということしか知らなかった弟。実はサボとルフィも中々複雑な家庭環境の中で育ってきたのだが、それ以上に、エースは本人の中に何かしこりのように抱えるものがあるらしく、あまり自分のことを話したがらない。その事情だけは、少し切なそうにほろりと零した弟の話から知っていた。
おそらくその部分を、エースが自分から語ったということなのだろう。
エースはきっと、ルフィなら話しても変わらず愛してくれると確信した。ルフィも、それを話してくれるほどにエースが信頼してくれていると身をもって知った。事実ルフィは変わらずエースを愛し、エースもまたルフィの中にマイナス感情を見出さなかった。二人の中に、今までとは比べ物にならないレベルの信頼と絆が生まれた。そういうことなのだと思った。
今までは、新しくできた恋人とできるだけ繋がっていたい、考えたことを、見たものを、想いを共有したいという、ある意味渇きのような感情を潤すためのもののように見えた、二人のコミュニケーション。それが、どこか満たされてみずみずしく、それでいてあたたかく潤っている様な、そんな穏やかな関係性に変わっているのに、サボは気付いた。
それを思い知るのは、何も特別な瞬間ではなかった。弟がふと会話の節で思い出したように、「エースがな」とくすぐったそうに笑みながら話しだすときだったり、弟が電話の向こうに語りかけるときの穏やかな笑顔を見たときだったり、礼がしたい、という申し出に電話を代わり、ルフィを「あいつ」と呼ぶエースのやわらかく低い声を聞いたときだったり。
そういう仕草や言葉の一つ一つが、どこか感情にゆとりをもって生み出されているような、そんな気がしたのだ。
(……よかったな、ルフィ。)
切ないような、さみしいような、それでもどこかやわらかくてあたたかい、不思議な感情を持てあまして、サボは眠る弟の頬を撫でた。その感触は、サボがいま抱える感情とよく似ていた。
これもまた愛だ、とサボはひとりごちた。エースとは色も形も違うが、サボも確かにルフィを愛していた。切なくいとおしく時に痛い、それでもやわらかくてあたたかい。これもまた、愛なのだ。
「…―――。」
そこまで考えてふと雑誌を再び手元に広げた時、サボは左肩にこと、と寄りかかる重みを感じて顔を上げた。
意識のない弟の小さな頭が、青いセーターに包まれたサボの肩に預けられていた。
サボはひとり、苦笑いまじりに微笑むと、弟が寄りかかりやすいように、左の方に身体を寄せて座り直した。まだまだ頼りない、可愛い弟だ。やはりあの男一人には任せられない。
この兄のポジションだけは、一生譲ってやらないのだと、そう決めた。
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仕事を早めに上がったその足で、都心のターミナル駅に直行。平日の帰宅ラッシュが重なって、こんなに広い駅がどうやったらこんな人で埋まるんだ、というくらいの人波にもまれて辟易する。新幹線から在来線への乗り換え改札の前、適当な柱に寄りかかって腕時計を眺める。19時56分着予定の新幹線。あと5分くらい。今日はバイクじゃなく、電車で来た。正確に言うと会社にそのままバイクを置かせてもらって、会社の最寄駅から電車に乗った。実家から戻ってくるサボとルフィを迎えに出て、そのまま二人の家にお邪魔して夕飯を食わせてもらうことにしていたからだ。
携帯を手にとってパカリと開き、何気なくメールの受信ボックスを開く。画面は、「ルフィ」の字で埋まっていた。最後は3時間ほど前。「今乗った!」という報告と、新幹線の到着予定時刻をしらせるもの。まだ仕事中だったから、わかった、迎えに行く。またあとでな、と手短に送ったのが最後だった気がする。
はやくあいたい。抱き締めたい。この腕にまざまざと残るルフィの感触が、駆り立てるように心を急かす。誕生日に会いにきてくれたルフィは、一晩過ごした後文字通り追われるようにしてふるさとに戻ってしまったが、それだってたった4日前のことだ。何をこんなに急くことがあるのかと自分でも思うけど、会いたいんだから仕方ない。
と、周りを通りすぎてゆく人の波が厚みを増したような気がした。
顔を上げると、乗り換え改札から出てくる人が増えていた。どうやら目的の新幹線が到着したらしい。逸る気持ちを抑えて、人の波間に目を凝らす。不思議と、見落としたらどうしよう、とかは考えなかった。ルフィならどこにいたってわかる。おれにはその確信があった。
階段を降りてくる人波の中に、リュックを片方の肩に引っ掛けて、一際軽快に駆け降りる小さな黒い頭が見えた。大きなボストンを持って人にぶつかりそうになりながら必死でよけて、それに謝りながらルフィを追い掛けるサボの姿も見えた。階段を降りる合間に、ふと顔を上げたルフィがこっちを見た。見る見るうちに笑顔になっていくのが遠目にもわかる。
ああ、ルフィだ。帰ってきた。危ないからゆっくり下りろ、と思うのと同時に、早く出てこい、と全く逆のことを考えている自分がいる。我ながらめんどくさい。けどそんな自分が嫌いじゃない。
と、改札に駆け込もうとしたルフィがはた、と立ち止まって焦ったようにポケットをごそごそやり始めた。なんだ、まさかここにきて切符落としたとか、
「ルフィ!待てって言っただろ!失くすからっておれに切符預けたのもう忘れたのかよ」
「ぎゃー!!サボありがとう!!」
ぺし、と額に押し付けられた切符を受け取って、今度こそルフィが改札を駆け抜けてくる。ぱた、と開いた扉も待てずにおしあけるみたいにして飛び出してきた身体を、おれも数歩前に出て受け止める。
腕の中にすっぽり収まるあったかい身体。全力の体当たり。鎖骨に押し当てられる小さな頭。ルフィだ。ルフィが帰ってきた。
「…――おかえり、ルフィ」
「ただいま、エース。お迎えありがと!」
いい歳した男二人が公衆の面前で思いっきり抱きあってるのは中々目立つが、数年ぶりの再会を果たしたちょっと過剰に仲のいい兄弟にみえなくもないだろうし、ぶっちゃけ周りの目とかど――――でもいい。かわいい。細い。あったかい。かわいい。嬉しい。かわいい。良かった。ルフィ好きだー!!
「ハイハイそろそろうちの子から離れてもらいましょうか」
「わ」
「ッてェ!サボてめェ!!」
べり、と音がしそうな勢いでルフィから引き剥がされた。Tシャツの襟掴むのやめろよ締まってんだよ!
「ルフィ、乗り換え口はもっかい切符出てくるんだからちゃんと取りなさい。お姉さん困ってただろ」
「うぇ!まじかサボありがと!おねーさんごめんな!!」
切符の取り忘れにご注意ください、と一生懸命呼びかけてるのに、言ってる傍から取り忘れてそのまま野郎の腕に飛び込んだ少年の背中を呆然と見送っていたのであろう駅員のお姉さん。きっとその手からどうもすみません、と苦笑して切符を受け取ったのはサボで、そのままじゃれる大の男×3をぽかん、として見ていたのだろうお姉さんに、おれからもひとつ頭を下げる。気分は「ウチの子がどうもすみません」、だ。
「エースもごめんな、今日仕事あがりだろ?」
「ん?いーよ別に。会いたかったもん」
「しし!おれも!」
その笑顔に感動してルフィ、と手を伸ばしかけたところへ、容赦ない蹴りが入れられた。
「…ッてェな!!サボお前いい加減に、」
「ハイハイそこまでだ。行くぞ。ルフィ何食いたい?」
「肉!」
「サボてめぇ…覚えてろよ」
「ん?腹減ってないのかエース?」
すみません、と神妙に居直る。胃袋を握られては手も足も出ない。くそ。
さっさと歩きだしたサボの背中を恨みを込めて睨むと、そんなおれを見たルフィがけたけたと声を上げて笑った。その顔を見てたらなんかどうでも良くなって、おれはすべてのわだかまりを忘れてルフィと並び、サボの後を歩き出した。
「ルフィ、荷物。」
「え、いーよ自分で持つ!重くねえし」
「ならなおさらいいじゃん。ホレリュック寄越せ」
「うえー、ごめんありがとー」
「ほう、さすが本業。じゃあカレシ、これも頼むわ」
「は?…重!!ちっくしょサボ、何入ってんだコレ!!」
「実験結果のデータとか論文とか本?あとパソコン」
「いい加減カビ生えるぞお前!!」
おれたちの背中を見送ってくれた駅員のお姉さんが、ひとつ吹き出して笑顔で業務に戻ったことは、おれもサボもルフィも知らないままだった。
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「……げ、オイ誰か早く餅食っちまえ!溶けてる溶けてる!!」
「ほんとだ、どろどろだ」
「ぎゃー!おれいま皿いっぱい!!」
「ルフィお前な、肉ばっかじゃなくてちゃんと、オイサボ勝手に入れんな!うお溢れる!!あっつ!!」
「もー誰だよ餅キムチ鍋に入れるとうまいって言ったのー」
「おめーだよ!!うまいけど!!」
「肉うめー!!」
「あーもーなんなんだよこの兄弟自由か!!野菜食えルフィ!!」
「ぎゃーどろどろ野菜入れんなエース!!やめろー!!」
「つーかコレ火止めたらいいんじゃねえ?」
「「そ れ だ」」
酒も入ってぎゃいぎゃい騒ぎながら囲む鍋は、久しぶりだということもあって無性に楽しかった。
帰りに3人で寄ったスーパーで買い物をしている間も、手伝いたいというルフィにいかに簡単で安全な仕事を回すかと頭を巡らせて準備をしている間も、こうして一つの鍋をつついてゲラゲラ笑っている間も、楽しくて仕方なかった。
ルフィの隣にいられることも、サボと直接どうよ最近、と話せることも。
「はー食ったー!おれもうはいんねー!」
「だいぶ食ったな」
「だな…おれ久しぶりにちゃんと飯食った気がする…」
「だめだぞエース、身体壊すぞちゃんと野菜食え!」
「お前が言うか」
しし、と隣で笑ったルフィが、そのままごろ、と寝転んだかと思うと、おれの膝に頭を乗せてすり寄ってきた。ネコみたいに自由なその振る舞いにおれも思わず笑いながら、さらさらの髪の毛を指にくぐらせて梳く。
眠いのか。ちょっとだけ。酔ってんだろ。酔ってない。
そんな会話を少しだけ小声で交わしていたら、サボが苦笑しながら立ち上がって空になった鍋を台所に運んで行った。見てみないふりをしてくれているのがわかった。久しぶりだから、ちょっと大目に見てくれているのだろう。
「…て、あれ?なんだサボ、どこ行くんだ」
「なに?サボどっか行くのか?」
「酒切れたからコンビニ行ってくるわ。明日休みなんだから、お前もまだ飲むだろ?」
貴公子系男前に良く似合うPコートを羽織りながらさらっとそんなことをいうサボに、おれは慌てて身を乗り出した。
「いやいや飲むけど、いーよおれも行くし」
「いーから。可愛い弟ひとりで留守番させられません。…ルフィ酔ってるし、頼むわ」
そう言われちまったらもうお言葉に甘えるしかない。いくら頭の悪いおれでも、サボが気遣ってふたりの時間を作ってくれてることくらいわかる。ルフィもさすがに何か感づいたのか、おれの膝から顔を上げてもの言いたげにサボを見上げた。
じゃあなルフィ、兄ちゃんちょっと行ってくる。そう言っていい兄貴の顔でルフィの頭をやさしく撫でたサボに、ルフィも気持ちよさそうに目を閉じて応えた。おれアイス食いたい、と素直に甘えるのは、弟の特権だ。少しだけそれが羨ましい時もある。
「わり、サンキュ。」
「おう。酒はおれチョイスだぞ」
「任せた。」
「気つけてなサボ」
「おう、行ってきます」
いってらっしゃい、と久しぶりに聞いたフレーズのルフィの声を聞きながら、おれはサボの背中を見送った。パタン、と玄関のドアが閉まる音がして、一瞬だけ静寂がおれとルフィの上に覆いかぶさった。
「…サボ、気遣わせちゃったな」
「な。わりーことしたな」
「でもちょっと嬉しいな?」
「…な。感謝。」
少しだけこっちに身を乗り出して悪戯っぽく笑うルフィに、会話の続きのようにそのままキスをした。
4日ぶりのキス。たった4日。されど4日。深くはしないまま、膝の上でルフィの手をゆるく繋ぎとめながら、やわらかい唇の感触を味わうように角度を変えて口づける。ルフィからも、戯れるようにじゃれるように軽く吸い付かれて、キスしたまま思わず笑う。笑い混じりでくすぐったい啄ばむようなキスは、そのまましばらく続いた。
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心行くまでキスをして、キス直前の距離で眼を開けて、言葉もなくくすくす笑い合いながらルフィを抱きよせる。すべすべの頬にわざと音を立てて吸い付いつくと、ルフィもくすぐったそうに肩を竦ませながらも逃げずにおれに凭れかかってくれる。ルフィのからだのやわらかい重みのまま、フローリングに敷かれたカーペットの上にゆっくり倒れ込む。腹の上に抱えたルフィが、何もかもを預けるようにおれの胸に横顔を押し当てたのが分かる。抱き締めて、サラサラの黒髪やすべすべの頬やちいさなやわらかい耳たぶをくすぐる。心臓の上に直接響く、ルフィの小さな笑い声がどうしようもなく愛しかった。
「……今日の仕事は?どうだった?」
「今日なあ、寒かった。そーゆーときに限って台車使って外回る仕事多くてなあ」
「うわー、そりゃたいへんだ」
「なー。ルフィにネックウォーマーもらっといて良かったわー」
何に引っかかったのか、そこでルフィががば、と身体を起こしておれを見下ろした。ただでさえ大きい眼がまんまるで落っこちてきそうだ。
「使ってくれてんの?」
「へ?なんだよさっきも着けてたじゃん」
「ほんとに仕事中につけてくれてるとは思わなかったもん」
「なんだそれ。使うよ。当たり前じゃん」
「やった」
首の後ろの隙間に細い腕を潜り込ませて、ルフィがおれの首っ玉に抱きついてきた。よくわかんねえけど、おれもルフィのほっそい身体を抱き締めて、ついでにそのまま横向きに転がった。重力のままルフィの重みを感じるのも好きだけど、なにせそれじゃ自分からルフィにキスできない。
ころころと鈴の転がるような笑い声を上げるルフィの顔を覗きこんで、今度は深くキスをした。ルフィの小さい口を覆うように口を開けて口づけると、ルフィも自分から自然に唇を開いてくれる。そこにするりと舌を滑り込ませれば、ルフィの薄いそれもおれを待っていたかのように絡みついて応えてくれる。
あっというまに火がつく。ルフィを下にして覆い被さる。もっと深く。もっと強く。
舌を吸い出して、絡ませて、口腔内を探りまくる。気持ちよくて思わず、といった感じで、ルフィが鼻にかかった声を漏らす。言ってしまえば粘膜同士を擦り合わせてるだけなのに、なんでこんなに気持ちいいんだろう。ずっとこうしたかった。ルフィもきっと同じだ。もっと、と言うように大きく開かれた口とか、強くおれを引き寄せる腕の力とか、髪に絡んだ指の感触とか、そういう全てがおれを求めてくれている、その証明だった。
「…ん、エース、」
「……ルフィ、…おかえり。」
「…ただいま…。…はあ、やっとキスできた…。」
「もう満足してんの?おれ全然なんだけど」
「え?エー、…ん」
もう一度犯すように唇を割った。今度は明確にそれ以上を求めて身体を煽る。片手は細い身体に巻き付けたまま抵抗を抑え込んで、空いた右腕で肌をまさぐって這い回る。これはそういうモードだ、と気付いたのだろう、ルフィが焦ったように抵抗するがもう遅い。
「ちょ、エース、…だめ、だって、…んぅ、」
「安心しろ最後まではしないから。触らせろ。…それとも、お前の方が我慢できなくなっちまうか?」
「ちょ、本気…!?サボすぐ帰ってくるぞ!」
「最短記録計ってみるか。結構イけると思うぞ」
「ちょ、うそだろ、…や、エース!!」
そうこうしてるうちにおれはさっさとルフィの膝を割ってその間に滑り込み、手のひらは素肌をまさぐって胸の突起を探り当て、くにくにと押し潰している。そうときまればさっさと一発済ませてしまおう。おれは本番さながらに腰を押し付けてルフィの身体を揺さぶった。突っ込むのはさすがに無理だとしても、お互い一回気持ちよくなるくらいならいけるだろ。
「や、あ、あ、あ、…エー、やめ、ちょ、ほんとに、無理…!」
「ん…?気持ち良くなってきた?おれも」
「きーてねー…!バカ、うぁ、」
「ハイハイ、邪魔が入らないうちに気持ち良くなろーなー」
「邪魔って誰のこと?」
「あ?そりゃあ決まっ、て…、…?」
「……………さいあくだ…」
最悪だ。
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「頼む!!サボ!!何もしねえから!!お願いします!!お義兄さん!!」
「貴方にお義兄さんと呼ばれる筋合いはございませんから」
「サボ…こないだ火サスに出てたシュートメみたい…」
「何てこと言うんだこの子は。それ序盤で殺されてたやつじゃん。」
ソファの上に正座したおれは、眼の前に仁王立ちしたサボにぺし、と額をはたかれて口にチャック。エースはサボを隔てた向こうで土下座してる。完全にやっちまった感じです。おれも悪いんだけど基本的にサボはエースに容赦ない。
「とにかくルフィとは別々に寝てもらいます。泊めてもらえるだけありがたいと思え」
「サボ―――」
「名を呼ぶな」
「お義兄さん」
「どちら様ですか」
「鬼!!」
「帰れ!!」
息ぴったりでまるでコントだ。あーもうせっかく買ってきてもらったアイス溶けちゃうじゃん。
おれはごく、と生唾を飲み込むと、意を決してサボに向かって口を開いた。
「なーサボ、エース許してやってくれよ、おれも悪いんだし」
「お前は黙ってなさい」
「な―サボおねがい!もう何もしないから!」
「だめです。お前がそのつもりでもオオカミさんがそうはいきません。」
「誓います。何もしません。一緒に寝させてください。」
「ダメ。おれはルフィに関してお前に対する信頼を一切失った。」
「おれ床でいいから!頼む!」
「ダメだ。そんなに一人寝が嫌ならおれが一緒に寝てやるよ」
「アホか!!想像するだけでむさ苦しいわ!!」
「お前がそれ言えた立場か!」
そのまま口げんかみたいにぽんぽん言いあう二人を見ながら、おれはなんだかずっと昔からこうやって3人一緒に暮らしてきたみたいだな、と思った。それくらい、サボもエースも自然で、等身大で、遠慮がなかった。そこまでぼーっと考えた時に、おれはいいことを思い付いて飛びあがった。なんで今まで思い付かなかったんだろう!
「サボ!」
「大体お前はここがおれんちだってわかって」
「サーボー!!」
「お前は黙ってなさい!!」
「サボ!!3人で寝よう!!ここで!!」
「…は?」
最高のアイディアだ!それって超たのしい!
「2人で寝なきゃいいんだろ?カーペットあるし掛け布団あればいいじゃん!な!お願い!」
「…えー?」
揺れてる!微妙な顔でおれを見るサボの後ろで、エースがおれを拝むフリしながら口パクでルフィがんばれ、と言っているのが見えた。
「な、お願い!……おれ、おれも、エースと一緒に寝たいし、ガキの頃からしばらくサボと一緒に寝てないし、」
「……おねがいだ、サボ。一緒に寝よう?」
ソファに正座したままサボを見上げてそう言えば、サボはあ〜〜〜〜〜もう、と呻くともう何もかもをあきらめたかのように片手で顔を覆って天井を見上げた。
その向こうでエースが高々とガッツポーズを掲げていたけど、そんなに3人で寝たかったんかな?
「――――エースあんまりルフィにくっつくなよ」
「何もしねえって言ってんじゃんしつけーな!」
「しし!おれ真ん中!あったけー!」
「あ―ルフィあったけー」
「くっつくなっつってんのに」
「さみしいのかサボ?じゃあおれがサボにくっつけばいいんだ」
「…」
「なんだそれ超羨ましいんですけど」
男3人でくっついて寝るって全然普通じゃないのかもしれないけど、おれはしあわせならなんでもいい。後ろからエースに抱き締めてもらって、おれはサボの片腕にしがみついて、安心感でいっぱいだ。
いつもとちがう天井と、ちょっと固いカーペットの感触。ありったけをかき集めたぬっくぬくの掛け布団。
ずっと恋しかったエースのにおいと、安心するサボのにおい。今日は、最高に気持ち良く眠れそうだ。しあわせだ。おれは、今世界で一番幸せな自信があった。
こいびとのエース。兄ちゃんのサボ。ふたりを大好きな気持ちは色も形も違うけど、でもきっとこれが、愛ってやつだ。
「エース…」
「ん」
「サボ…?」
「ん…?」
「…たのしかったなあ…。」
「…だな」
「…うん、楽しかったね」
もぞもぞ動いて、おれはベストポジションに落ち着くと眼を閉じた。もう眠い。あったかい。
「また、あしたなー…」
「…うん、おやすみルフィ」
「…おやすみ。また明日な。」
ぽんぽん、とサボの方からしがみ付いた二の腕のあたりをやさしく宥めるような感触を感じた。
背中の方でエースが少しだけ起き上がって、頬っぺたにキスしてくれたのがわかった。
ふたりにこの大好きの気持ちを伝えるにはどうしたらいいのかな、と思ったけど、眠りに誘うように腕をさするサボの手のひらが気持ち良くて、背中から抱き締めるエースの腕があったかくて、それがふたりともだいじょうぶ、わかってる、と言ってくれてるみたいだったから、おれは安心して眠気の波に身をゆだねた。
明日の朝は、きっともっと幸せだ。おやすみみんな。またあしたな。
(―――おやすみルフィ。いい夢みなよ。)
(―――おやすみルフィ。愛してる。)
ナイティナイトピンポン
というわけで、myさんのリクで「ピンポンでルフィ宅に遊びに来たエースがムラムラしちゃってあんなことこんなことの最中にサボがかえってきちゃう」でした!
お待たせしましたmyさん、ご賞味ください;;
なんか素敵設定活かしきれてない感しかない…ぐえ
素敵なリクを本当にありがとうございました;;;
2011.1.27. Joe H.
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