ただでさえ人の交錯が激しいこのターミナル駅なのに、帰宅ラッシュが重なってともすれば前から来る人とぶつかりそうになる。
だからといって足を緩めれば、後ろから来た人に煩わしそうな仕種で足早に追い抜かれ、もっとひどいことには一歩先を歩く兄からはぐれてしまいそうになる。
こういうとき、堂々と腕を組んで歩ける恋人達がうらやましい。
ルフィが横を通り過ぎるカップルに目を遣ったその時だった。少し兄から目を離したその隙に、横から来た団体が目の前を通り過ぎて行った。
(……あ、やべ、)
ルフィが行く手を遮られた一瞬で、兄の姿が消えた。
どっちだろう。乗り換えもなにもかも兄に任せっきりだったから、何番ホームに向かえばいいかもわからない。
じわりと不安感が胸に染みをつくった。
人並みより背の高い兄だから、もしかしたら少し捜せば見つかるかもしれない。
不安に駆られたままルフィが足を踏み出した、そのとき。
慣れ親しんだ体温が、後ろからふわりとルフィの肩を包み込んだ。
「……焦った。おれから離れるなって、いつも言ってんのに」
行くぞ。電車逃しちまう。片腕でルフィを抱え込んだまま、エースはルフィが進もうとした方向とは逆に、確かな足取りで歩き出した。
ここで初めてルフィは顔を上げて兄を見上げた。何か特別な感情がそこにあるわけではない。にこやかな笑みを浮かべるでもない。前を見据えて、大股で、あくまで自分のペースで歩く。
当たり前のように、ルフィの肩を抱いて。自分に合わせるように、その肩を引き寄せて。
そうあることが当たり前だと、エースがそう思ってくれている。それが、うれしかった。
再び人波が二人を揉んだ。ルフィがさらわれないように、ぶつからないように、エースは腕の内側にルフィを抱き込んで引き寄せた。
ルフィも、どさくさに紛れて一瞬だけエースの胸に顔を寄せた。兄の腰に控えめに腕を回して、そのジャケットの裾を握り締める。
それに応えるかのように、肩を掴むエースの大きな手に、力が込められた。
もう、見失うことはない。
jam jam lover
金曜夜の東京駅の人ごみですら萌えの糧にする腐女子スキルよ
20111217 Joe H.
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