※Caution!!R18
犯罪を描写した部分があります。すべては架空ですのでご了承ください。



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「………エース……」
「……。」
「エース、なんか言えよ……」


無理だ。溢れる感情で息もできないくらいなのに、言葉なんて無理だ。

玄関の中にルフィを引きずり込んで、力一杯抱きしめてへたり込んだまま、おれは声も出せずに全身でルフィを感じていた。必死だった。夢のようで、こうでもしないと途端にルフィが消えてしまいそうで、怖いくらいだった。

おれの脚の間、腕の中にすっぽりおさまってしまう細い身体。手の平で掴んだ肩が、顔を埋めた首筋から頬のあたりが、澄んだ冬のにおいを纏ってひたりと冷えている。

顔が見たい。ルフィの澄んだ瞳が見たい。だけどするりと逃げて行ってしまうのが怖くて抱きしめた腕も緩められない。そんなおれの心の中を読んだように、ルフィがゆっくりおれの背中に腕を回し、手の平でさすりながら、エース、いてえよ、とささやいた。

恐る恐る腕の力を緩めて、ルフィの顔を覗き込む。
目が合って、ルフィが笑う。
少し冷たい薄い手でおれの頬を包んで、顔を寄せる。ゆっくりゆっくり近づいて、ルフィの唇が、おれのそれに重なった。


「……誕生日、おめでとう。エース。どうしても、会って言いたかった。エースに会いたくて、会いたくて会いたくてたまんなかった。」


吐息の触れる距離で、たどたどしい手つきで髪を撫でて、ルフィが言う。打算もなにもない、ルフィのこころから真っすぐに、するりと零れて落ちることば。

「エース。おめでとう。エースがいてくれてよかった。エースに会えてよかった。エースが好きだ。大好きだ。」
「…ルフィ、」

はあ、とひとつ息をついて、ルフィが首に抱き着いて来る。ぎゅう、と頭を抱えて抱きしめられた。

「――やべえ、どうしよう。手帳に書けなくて、絶対伝え切れねえから、どうしても会って伝えたくて帰ってきたのに」

目を閉じて、ルフィの胸に顔を埋める。少し速いルフィの心音。あたたかい、いのちの音。安らぎと激情と、相克する二つの感情は共存できるということを、おれは初めて知った。

「……どうしようエース、伝わんねえ。おれ、おれこんなにエースが好きなのに、大好きなのに、どうしたら伝わるのかわかんねえ…!」
「ルフィ、」
「ほんとは、ほんとはな、エースの父ちゃんと母ちゃんの誕生日も書きたかったんだ。だけど、エースあんまり話したがらねえから」

す、と心臓が冷えた。ルフィに話せていない、おれの過去。これを知ったらルフィは、

「おれ、エースの父ちゃんと母ちゃんに、ありがとうって言いたかったんだ。エースを生んでくれてありがとうって、エースと会わせてくれてありがとうって、そう書きたかったんだ」

そう言ってルフィはもう一度身体を起こした。まっすぐにおれを見て口を開く。

「だけどやっぱ一番はエースに言いたい。ありがとうエース。エースがエースでいてくれてありがとう。」
「エースが好きだ。大好きだ。エースが宅配便やってなくても、おれきっとエースのこと好きになってた。絶対絶対好きだった。」


どうせお前が惚れてるのは制服着てるおれで、おれ個人には大して何も思ってないんだろ。


数日前にこの子に向かって投げつけた、自分の言葉が頭をよぎる。何であの時、ルフィがあんなに傷付いた顔をしたのか、おれは今初めて思い知った。

こんなにまっすぐに愛してくれてるこの子に、おれはなんて事を言っちまったんだろう。
ルフィ、――ルフィ。

「……エース、大好きだ。世界中の誰よりも、おれがエースのこと愛してる。ありがとう。生まれてくれてありがとう。…ありがとう……!!」

世界で一番やさしい言葉をくれたその唇を、噛み付くように塞ぐ。
廊下に押し倒して舌を押し込む。薄い舌を吸い出して、口全体でキスをする。小さな頭を抱え込んで、何度も何度も食らいついた。
舌から心臓まで抉るような深い深いキスに、ルフィは息ができないようだった。激しく喘いで酸素をとりこむその合間も、おれは待ってあげられなかった。
それでも、ルフィは待って、とか、いやだ、とか、一言も言わずにおれを受け容れた。あたたかいからだをおれが求めるままにひらいて、泣きたくなるほどにやさしく包んでくれた。

いや、白状しよう。
暗い廊下でルフィを抱きながら、おれは少し泣いた。
ルフィはそれを見ないふりで、目を閉じてキスしてくれた。



「――ん、は、…ぁぅ、…っ、っ、エース…、ぁん…!もう、むり、…!」
「…いっぱい気持ちよくしろって言ったのはお前だろ。遠慮すんな」

キレーな背中、と独り言を言って後ろから貫いたルフィの背中に口づけた。そのまま舌を這わせると、すでに廊下で一度犯されて、布団に移った後も2ラウンド目のルフィには刺激が強すぎたようで、背筋を舌で辿ると同時に切なく色っぽく鳴いた。
その間にも、両手全体を使って胸を揉む。女性のように柔らかいわけではないが、おれはその明らかにやらしい愛撫が好きだし、ルフィはこれをキモチよがってくれる。前にはもうしばらく触っていない。ルフィのかわいいトコを慰めてあげるのも好きだが、一度も触られずにイケるようになったルフィが、後ろで感じて戸惑う姿がもうかわいくて仕方ないからだ。

「エンリョとかいう話じゃ…、――あっ、ン、…や!」

ずるりと一度引き抜くと、ルフィの体液やらおれの何やらにまみれたそれがぬらりと照った。もう力が抜けてくったくたになったルフィのからだを、いとも簡単にころりと転がす。「や」、だって。抜けるの嫌なんじゃん。どんだけ可愛いんだコイツ。
仰向けになって喘ぐルフィの、ついさっきまでおれを受け容れていた部分に指を入れてくちゅくちゅ言わす。もどかしいのかキモチイイのか、それともおれに対する抗議か、ルフィは弱弱しく声を上げて抵抗した。

「…すげえ…。とろっとろだなルフィ。気持ちい?力入んない?」
「…っ…っ、エース、の、どエロ!!今日、なんかい、ナカにだされたと、ッア!ゆび、やめろよぉ…!!」
「今日誕生日だもんおれ。いいだろ?誕生日プレゼント。」
「―――ッバカ、ァ、…うあぅ!!」
「あー…、溶けそ…」

ずぶぶ、とものすごい音を立てておれの肉棒が再びルフィの中に沈み込んでいった。バックも嫌いじゃないけど、ルフィはこのほうが安心して感じてくれるから、やっぱりこのほうがいい。ルフィの唾液や涙に濡れたかわいい顔も見えるしな。
そのままルフィの細い腰を鷲掴みにして揺さぶりながら腰を打ちつける。
んー、んー、とルフィの声がくぐもっているのは、こぶしを口に押し当てて声を殺しているからだ。ピンポイントでいいトコに当たってるのはわかってる。こんなにボロボロ感じて泣いてるのに、声を出せないのがかわいそうだ。いいから声出せって言ってんのに、こいつはそういう変なとこだけ頑固だ。思いっきり喘ぐルフィの声聞きてえな。引っ越そうかな(それだけのために)。

「……ッ、…、ごめん、ルフィ、イく。中いいか、」
「ん、も、なんでもい、…ッン、…エース、きす、キスして、」

ゆっくりと体を倒してルフィに覆いかぶさると、待ちきれないルフィが自分からおれの首に腕を巻きつけて引き寄せる。ルフィが望んだ深いキスをしながら、おれの手はルフィの腰を掴んだまま。ぐっと一際強く腰を引き寄せると同時に、ぐり、と抉るように腰を入れる。電流が背筋を走って、おれは自分の顔が快感に歪むのを自覚しながら、性懲りもなく噴きつける熱い精液をとろけるルフィの奥に注ぎこんだ。

「ルフィ、…は、イった…?」
「ん、ん、…はぁ、…ん…。もう、出ねえ…エースのバカ…」
「でも気持ちよかっただろ?」
「超気持ちよかった死ぬかと思った…!!」
「光栄です」

ずるりと芯を失った分身を引き抜くと、少し顔を背けてルフィがん、と眉根を寄せた。そんな表情にもまだムラっと来てしまうあたりおれも相当イカれてる。
汗やら精液やらでグチャグチャのシーツで、お互いの体を適当にぬぐう。ルフィの中もあとできれいにしてやらなきゃならんけど、ちょっと休憩。おれも今日は頑張った。シーツはそこらへんにほうりだして、ちょっと薄めの毛布に二人ミノムシみたいに包まって、むきだしの布団の上にくっついて寝る。
胸のあたりにちょうど良く収まるルフィ。そのなめらかな頬のあたりを指でくすぐりながら、汗でしっとり濡れた艶やかな黒髪に口づける。

幸せだ。生まれてきて良かった。

「―――ルフィ…?」
「……ん…。」
「悪い、寝てた?」
「…んや、眠いけど、まだ、しゃべる…」
「……ん、そか。」

なあルフィ、と腕にルフィを抱えたまま呼びかける。んー、と返事をする声は、さっき見せたたおやかさを微塵も感じさせない幼さだったが、それでもおれには確信があった。
ルフィは全部受け止めてくれる。ルフィなら大丈夫。根拠はと聞かれれば、おれは今日感じた全力の愛と答えるだろう。

「ルフィ、そのままでいいから聞いてくれ。」
「…なんだ…?」
「――おれな、お前にまだ言ってないことがある。」
「…?」

もぞりとルフィが動いて、腕の中からおれを見上げたのがわかったが、おれはそのままもう少し強くルフィを抱き込んで、話し続けた。

「おれな、ルフィ、…おれ、施設育ちなんだ。」

ルフィはなんの反応も見せず、しばらくおれを見上げていたようだったが、その言葉を反芻すると、おれの鎖骨の辺りにひたりと頬を寄せて寄り添って、うん、と相槌を打って先を促した。

「……7歳のときに、親父が出て行ったんだ。何の仕事してたかもわかんねえ。もしかしたらヤバい仕事だったのかもしれねえけど、とにかくお袋を置いて、荷物とか何もかも持って、ある日突然親父が消えたんだ。」
「うん」
「お袋、おれの前では平気そうにニコニコ笑ってたけど、多分おれの見てないとこで泣いてたんだと思う。そのまんま、女手一つでおれを育てようとして、…もともと、おれを産んだ時から体壊してたのに、無理して働いて、…おれが、10歳のときに、死んじまって。」
「……うん…。」

ぎゅ、とルフィの腕の力が強くなった。ルフィをお守りみたいに抱き締めて、おれは続けた。

「――わけわかんねえまま、施設に入れられて。なんか、クソ親父ふざけんな、って思ったり、おれのせいでお袋死んだんだって、思ったりして、もう、なんつーか、最悪で。」
「…うん。」
「かろうじて、高校は行ってたけど、ほんと、色々どうでもよくて」
「うん。」
「超、バカやってたんだ、おれ。今みたいな、爽やかとか、よく言われるけど、全然そんなんありえないくらい、最低で、ルフィに、言ったら、嫌われそうなくらい、」
「うん」

手が、声が震えるのを、ルフィの体温でほぐす。
だいじょうぶ。ルフィがささやいた。
うん、そうだな。ルフィが言うなら、きっとそうなんだろう。

「―――運び屋、やってたんだ。何の因果かと思うけど、今みたいな、いい仕事じゃなくて。中身もわかんねえ荷物を、誰かも知らねえ奴らに頼まれて、誰かも知らねえ奴らに渡すんだ。」
「なんだったんかな、アレ。多分、拳銃とか、クスリ、とか、…もっとえげつねえもんも、入ってたんじゃねえかな。」

うん、とルフィが答えてくれた。それに励まされて、ゆっくり、重い泥みたいな過去を吐き出す。

「いろんな人傷つけて、ひでえ事言って、―――ひと、殺しかけたことも、あんだ。」
「――うん…。」
「そうやって、バカやってるうちに、警察の御厄介になったりもしてな。…おれ、指紋とられてんだよ、警察に。知らなかったろ。」
「うん。しらなかった。」

ゆっくりゆっくり、ルフィの手が背中をさする。この子、こんな風に、まるで母親みたいに触れることもできるんだな。知らねえこと、まだまだあるな。なあ、ルフィ。

「そんでまた色んな施設放り込まれて、そこで世話になったスモーカーって警察のおっさんがいてな。……もう何年も会ってねえや。会いたくもねえけど。そいつに放り込まれたんだ。『白ひげ』の面接に。」
「うん。」

白ひげ宅配便の採用理念は独特だ。社長自らの信念で、過去に、心にキズをもつ奴らを積極的に受け入れる。徹底的に立ち直らせて、一から礼儀を叩き込んで、そして、家族と、息子と呼ぶ。

「……嬉しかった。本気で怒られたのも、『どうせクズだから』って諦められなかったのも、初めてだったから。…すげえ、嬉しかったんだ。」
「うん。」

「でもな、…でもおれ、どうしても、『お袋死なせちまった』って頭が抜けなくて、」
「……うん…。」
「この仕事やってて良かった、って思えても、生きてて良かった、とか、生まれてきて良かった、って、どうしても、思えなくて…!」
「………ッ、うん…!」

熱くこみ上げるものを、無理やり飲み下す。ルフィを抱きしめて、深く息をした。おれは泣かない。泣かなくていい。ルフィが、泣いてくれるから。胸のあたりをじわりと濡らす熱が、どうしようもなく愛しい。

「……ルフィの前に、付き合った女も、何人か、いたけど、……どうしても、愛せなくて」
「…うん…。」
「多分、人って、自分のこと好きになれねえと、誰も好きになれねえんだな」
「…うん」
「ルフィに会えて、おれ、ルフィとしゃべったり、ルフィのために仕事してる自分、割と気に入ってたんだと思う。」
「…、うん…。」
「ルフィの事好きな自分、情けねえけど、カッコわりいとこもたくさんあるけど、それでも、悪くねえと、思ってるよ。」
「うん…。」

縋るように、ルフィを抱えなおす。救いも、赦しも、何もかもがここにあった。

「ありがとう、ルフィ。おれ、すげえ幸せだ。ルフィと会えてよかった。生きてて良かった。―――生まれてきて、良かった……!!」

ありがとう、ルフィ。おれが生まれたことを、祝ってくれてありがとう。――ありがとう。

穏やかな気持ちで言ったこの言葉を、ルフィは一体どんな気持ちで聞いてくれただろう。堪え切れない嗚咽を漏らして震えるルフィを胸に抱きながら、大事に大事に抱きながら、おれは多分生まれて初めて、腹の底から親に感謝した。
命がけでおれを産んでくれたお袋。クソだけど、クソなりにお袋を愛したクソ親父。
――――それから、ルフィを産んでくれた、ルフィの両親に。

朝起きたら、ルフィがくれたスケジュール帳に自分で書き足さなければならない。世界で一番大事な日が、あのスケジュール帳には抜けていたからだ。
5月5日。ルフィが生まれた日。おれの、宇宙で一番大事な子が生まれた日。
ルフィ。おめでとう。会えてよかった。生まれて来てくれてありがとう。

そう、書こう。










生まれてきてもよかったのかな
愛してくれて、ありがとう

そう言った彼に、幸せだと言ってほしかった。
生まれてきて良かったと、言ってほしかった。

生まれてきてくれてありがとう。
たくさん愛されて、おめでとう。
誕生日、おめでとう。

おめでとう。


20120101 Joe H.