※ジングルピンポンを先にお読みください。


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年中無休、全国どこへでも笑顔を届けます。

これが我が白ひげ宅配便の経営方針だ。というか、こうでもしない限りこのご時世経営が成り立たないというのが本音なのだが、そんな世知辛い話はこれくらいにして、何が言いたいかというとつまりは年末年始もおれは順調に仕事ということだ。

もちろん四六時中働いている訳ではないが、集荷配達の他にも仕分けや積み込みがあるので、コンスタントに誰かは営業所や事務所、会社に詰めていなきゃならない。
そうなるとシフトを組んで交代で出勤することになるが、家族持ちの奴らには極力家族で年を越してもらったほうがいいだろうと、親なし妻子なし恋人は帰省中のおれはなけなしの気を遣って31日-1日の夜勤でシフト希望を出したわけだ。

日付変わるくらいに電話する、と言ってくれていたルフィには、「えー、一番最初におめでとうって言いたかったのに!!」と少しだけ怒られた。
だけど、おれの誕生日なんかほとんど誰も知らないこと(そんなのわかんねえじゃん、とルフィは言った)、日付変わる位には電話できるように休憩時間を調整すること(ここでちょっと黙った)、そして家族がいる奴らには家族を大事にしてほしいことを話すと、根が素直で竹を割ったように気持ちのいい性格をしたこの子は、そっか、わかった。エース優しいな、と言って納得してくれた。

エースのそーゆーとこすきだ。仕事頑張ってな。でも一番はおれにくれな。

あくまで自然にそう言ってくれたルフィが愛しくて愛しくて堪らなかった。じいさんの目を盗んで電話に出てくれたルフィ。寒い暗い2階の部屋にいると言っていた。電気消して空を見上げると星が綺麗なんだ。降ってきそうだぞ。エースにも見せてえな。電話の向こうで、布団にくるまって膝を抱えて星を見上げるルフィが手に取るように見えた。寒いだろうな。一緒に見たい。寒くないように抱きしめて、細い指先を温めながら夜空を見上げたい。抱きしめたい。ルフィ。会いたい。

言葉も配慮も何もかも足りないおれは、ルフィを傷つけて泣かせてばかりいる。クリスマス前に喧嘩したあの時だって、はじめからこうやってちゃんとひとつひとつ言えば良かったのだ。ルフィは絶対受け止めておれを受け入れてくれる。そうすれば、あんな風にルフィを泣かせることはなかったのに。

ごめん、ありがとな。
本当は抱きしめて伝えたいいろんな想いを、その二言だけにぎゅうぎゅう詰めに込めた。
ルフィはそれをまっすぐに受け止めて、うん、とだけ応えてくれた。

ところが、だ。


「エース、シフト変更になったから確認しとけよい」
「……?変更?」

そういってマルコはデスクに座ったまま、手に持ったペンで背後を指した。首を傾げながらシフト表が張り出されたホワイトボードを覗き込むと、

「……は?何これ、なんでおれ日勤!?」

なんとわざわざ気を遣って出したはずの夜勤シフトが、いつもとそう変わらない、むしろ良心的なシフトに変わっていた。これならもちろん日付が変わる時間は帰宅できているはずだし、何よりルフィが喜ぶけど、でもなんで!?

「お・れ・が代わってやったんだよ感謝しろ〜」

いかにも恩着せがましい台詞と共に肩にのしかかってきた奴の顔は見なくてもわかる。こんなチャラい喋り方するやつなんかコイツしかいない。

「マルコ、シフト戻せ。コイツなんかに借り作ってたまるか」
「んだとコラ!」

のしかかるサッチには目もくれずそのままマルコに向き直ると、日頃鍛えた腕で喉元を締め上げられた。
ぐ、ちくしょうチャラ男のくせに腕力だけはちゃっかり身につけやがって!!

ハイハイじゃれるなよい、と肩凝り持ちのマルコ愛用の手持ちマッサージ器具で容赦無く頭を殴られて、ようやくサッチが離れた。つーか普通にいてえよ、なんでおれまで!!

「まあ素直に代わってやれよいエース。お前が代わらなかったらコイツ、初詣デートとか言ってまた合コンセッティングするつもりだったんだよい」
「………最ッ低だな………。そういうことなら喜んで」
「ちょ、待て待て待てえい聞き捨てならん!!おれはお前が元旦誕生日だっていうからささやかな誕生日プレゼントのつもりで」
「え?なんでお前がおれの誕生日知ってんの?」

その瞬間、マルコ愛用のマッサージ器具(¥4,980)がうなりをあげて空気を裂き、サッチの尻を蹴り上げた。

「…――――!!!」
「余計なことをベラベラと…。口は災いの元って知ってるかよいサッチ」
「………ケツバット……。」

昔バカやってた頃でも見なかったホームラン級の見事なケツバットを、よもや職場の事務所で、しかもマッサージ器具で見ようとは。床に崩れ落ちたサッチの本気で痛がる哀れな姿と、マルコが見せた素晴らしいフォームに気圧されて、おれは呆然としたままサッチがここまでの目に遭わなければならなかった理由を聞くのをすっかり忘れていた。


「………というわけで、よくわかんねえけど夜電話大丈夫っぽい。」
『―――ッよかったあああ!!』
「うお、ビビった!なんだよそんな喜ぶことかあ?」
『喜ぶっつか安心したのもあるけど』
「?どゆこと」
『しし、わかんなくていーよ!』
「なんなんだもー訳わかんねえ」

まあルフィが「一番」のおめでとうを言ってくれること、それを言えることを喜んでくれてることはおれも嬉しい。ご機嫌なルフィの声を聴きながら、自然に笑顔になっている自分がいる。

「……今日は?何してた?」
『んーとな、朝からサボと屋根の雪下ろししてな、ついでに近所のじーちゃんばーちゃん家までやってたら昼になってた』
「うわまじか。大変だったろ、そっちめちゃくちゃ積もってるだろうし」
『んーまーなー、でもまだ少ない方だぞ。』
「げ。すげえなー、見てみたいないつか」
『そーだ、サボがな、雪かきしながらエースがいりゃあ力仕事は全部あいつにやらせんのに、ってブツブツ言ってたぞ』
「……行くときゃ覚悟して行かなきゃなんねーな…。つかあいつは明らか運動不足なんだよ」
『研究室ばっか篭ってるからなー。時々ジムとか行ってるみたいだけど』
「おれの方がいい身体してんだろ?」
『エースのエロ』
「なんでだよ」

けらけら笑うルフィの声。この鈴が弾んで転がるような声が、おれはどうしようもなく好きだ。好きだけど、好きゆえに今は触れられないことがもどかしい。笑う顔を見られないことが、抱きしめてあげられないことが、もどかしい。

腰から下をこたつに入れたまま、おれは仰向けにゆっくり寝転んだ。からっぽの手の平を上にかざしてみる。
この腕で、手の平で、身体全体で覚えているルフィの感触。体温。思い出す努力をしなくても、それらはもうこの身体に染み付いている。だからこそ、会えない時間がどうしようもなく辛い。

「……ルフィ」
『…なんだ、エース』
「…………会いてえ。今すぐ」
『――ん、おれも。……ごめんな。』
「謝ってほしい訳じゃねえよ」
『ん、わかってる。』

でもやっぱ、ごめんな。
そんなふうに心底申し訳なさそうに言われたら、おれももう我が儘言えなくなる。

大概大人げねえよな、おれ。

『帰ったら一番先に会いに行く。家にも帰らないでエースん家行く。約束。』
「……おれ仕事放り出して迎えに行きそう」
『それはダメだ』

だよな。
でもなんでコイツこんなにあっさりしてるんだろ。もともとさっぱりした性格だけど、にしたっておればっか余裕がないみたいで少し面白くない。そんな心の狭さ丸出しのおれの頭の中を読んだわけではないだろうが、ルフィがそんなおれに向かってなあエース、と呼びかけた。

「んー?」
『帰ったら、いっぱいちゅーしような』
「………え?」

耳を疑った。

『いっぱいちゅーして、くっついて、そんで、…いっぱいえっちしような。』
「ル、フィ」

うそおおおお。

さてここで少々下世話な話をすると、クリスマスのあの仲直りセックス以来、おれはほぼ全く抜いていない。ほぼ、というからには当然一度は右手にご活躍頂いたわけですが、全然気持ち良くなかったし空しかっただけだった。当たり前だ。ルフィとあんな最高に満たされたセックスをしておいて、もうそんなんで満足できるわけがない。

そんなおれにだ。そんな欲求不満真っ盛りのおれに、さっきのような弾丸ストレートの誘い文句を投げつけたら一体どうなるか。

答えは簡単。即死だ。こたつの中で屍と化したおれに更なる追い打ちがかけられる。

『夜寝る時な、いっつも思うんだ。ここがエースん家だったらなって。そしたら、好きなだけちゅーして抱きしめてもらっていっぱいくっついてられんのにって。だから、』
「ルフィ」
『…ん?』
「……お前、帰ってきたら覚悟しろよ」

低く唸るように電話の向こうのルフィに告げた。冗談じゃねえ、足腰立たなくなるまで抱いてやる。この身体の疼きの責任を取ってもらわなければ割に合わない。
それでも、おれの地を這うような声にもルフィは怯まなかった。少しだけ黙った後、ルフィが続けた言葉で、おれはどうやったってこいつには敵わねえんだと、そう思い知った。

『……ん、いっぱい気持ち良くしてな。』

即死だ。



最後の配達を終え、事務所に入って諸々の引き継ぎを終えると、今年の仕事も終わりか、と更衣室で制服を脱ぐのも感慨深く思えてしまう。

とは言え、こんな風に季節に浸ることはめったになくて、多分今年はおれの人生の中でもかなり大きな出来事がたくさんあったからなのだと思う。

春に大学入学と同時にこっちに引っ越してきたルフィと出会った。ルフィもおれも、多分この時から無意識にお互いを見ていた。
ルフィは「いつもの配達のにいちゃん」として、おれは「隠れた癒し系お得意さん」として。

夏、あの劇的に重い段ボールハプニングによって、おれは呆気なくあの子にオチた。そこからは速かった。そのまま転げ落ちるようにおれはあの子の笑顔に惚れ込んで、もう見ているだけじゃ耐えられなくなった。

今年の秋は一生の中でも最高の秋だった。初めてルフィを抱きしめた。初めてルフィにキスをした。初めてルフィを抱いた。初めてルフィとケンカして、初めて仲直りをした。
多分一番ルフィを泣かせたのもこの時期だ。思い出すだけで心臓がぎゅっと縮み上がって痛むが、その痛みさえどこか甘い。

そして、冬。
ルフィと出会った今年が終わる。ルフィと過ごした今年が終わる。
おれは名前の付けようがない、焦るような、寂しいような、複雑な感情を抱いたまま、制服の裾に手をかけた。

「………あ、」
と、首のところでシャツがわだかまって留まった。ルフィにもらったネックウォーマーに、制服が引っ掛かっていたのだ。

思わず笑みがこぼれた。黒いニットのそれに一度口元を埋めて首から外し、制服を脱ぐ。長袖シャツとトレーナー、ダウンジャケットを着込んで、もう一度ネックウォーマーを頭から被る。
おれを切ない気持ちにさせるのも、あったかい気持ちにしてくれるのも、いつだってルフィだった。


「―――悪いマルコ、先上がるわ」
「おうお疲れ。気にすんなよいエース、犠牲になったのはサッチの初詣くらいのもんなんだからよい」
「はは、だな。そう考えると気が楽だわ」

日付が変わる数時間前。事務所に残っているのはマルコひとり。遅い時間に指定された配達や集荷で外を回っているやつらも、あと1時間ほどで戻って来るはずだ。

「じゃあ、お疲れ。また来年な」
「おう、お疲れ。―――エース」
「ん?」

何か言いかけたマルコは、そこで思い直したように口を閉じて、少し考えたあとで言い直した。

「……いや、よいお年を」
「…?なんだよ改まって。おう、よいお年を!」

笑ってそう言って事務所をあとにしたおれは、マルコが苦笑しながらひらひら手を振る理由を知らなかった。
いま思えば、マルコはこう言いたかったのだ。

良い誕生日を、と。



******



「―――ただいまー、っと、うーさみ…」

一人暮らしに独り言は付き物だ。自分で電気を点けてひやりとした廊下に足を下ろす。ひとりで何か特別なもんを食うでもなく、さっき牛丼屋に入ってちょっとリッチに特盛と年越しそば食ってきただけ。テレビをつければ大晦日定番のあの番組やこの番組がやってるはずだが、ひとりで見たって大して面白くも何ともない。
ヒーターの電源をいれて、こたつのスイッチを点けて。ここでじっとしてると寒いだけだから、さっさと荷物を置いて部屋着に着替える。あ、その前にシャワー浴びてあったまっちまおうかな。よしそうしよう。

ここまでところどころ口に出して言ってた気もするが、誰も聞いてないんだから構わない。おれは忙しなく下着やらタオルやら手にとって風呂場に向かった。



(…――11時半すぎたか、もうちょっとかな。)

季節が季節なら上半身脱いだままうろうろしてるおれだが、さすがに冬場でそれはただの阿呆だ。Tシャツの上にいつものパーカーを羽織り、タオルを被ったままこたつに入る。
みかんの転がった横に、並べて置いてある包みを引き寄せて眺めてみる。

厚さは2cmないくらい。手の平サイズの長方形。ルフィが選んだにしてはシックでオシャレな黒い包みに、金色の細いリボン。手にとると、重くもないが軽くもない、適度な重量感。

どこで選んでくれたんだろう。どんな顔して選んでくれたんだろう。
この外身で中身がギャググッズだったりしたら笑えるしそれはそれで有りうるけど、それでも嬉しい。早く開けたい。ルフィまだかな。おれから電話しちまおうかな。そう思ったその時だった。

「…!おっとお」

着信のバイブ音が長めに響く。マナーモードにしているけど、音が出たらルフィの好きなアニメの主題歌が鳴るはずだ。ルフィからの着信はもう「いとしのエリー」じゃない。おれの携帯内における自分の着信がそれと知ったルフィが、照れていつの間にか勝手に変えてしまったのだ。かわいいやつめ。

「もしもし、ルフィか?」
『エース!?はあ、よかった間に合った!』
「ん?何お前、なんか息荒、……もしかして外にいんのか!?」
『へへ、うん、外歩いてんだ!じいちゃんから逃げてきちった』
「ええ!?寒いだろうがよ!」
『大丈夫、あったかくして来た!歩いてるからあったかいし』

な、それよりプレゼント、とルフィは少し強引に話題を変えた。早く帰れ、とおれに言われるのが目に見えてるからだ。その手には乗らねえぞ、さっさと開けて全力でお礼言って帰らせてやる。

「開けていいか?ってか開けんぞ」
『えーなんだよ味わって開けろよー』
「ごまかそうったってそうはいか、……あ、」

包装紙の下から現れた浅めの白い箱。その蓋を開けると、

「……手帳……?」
『使うかどうかわかんねえけど』
ルフィが茶化して言った台詞は、数日前におれがルフィに言ったもの。確かにそうだが、おれはそれに突っ込む余裕がなかった。
手触りの良い革のカバー。手の平に収まるちょうどいいサイズ。1月始まりのシンプルな手帳。
なんの変哲もない手帳。ただ一点を除けば。

『……ごめんな、エース。おれが先に書き込んじまった。』

最初の1月のページ。月の頭の日。明日の欄には、「エース誕生日」と、ルフィの奔放な字で書き込まれている。
それだけじゃない。

サッチ、マルコをはじめとする白ひげ宅配便の面々の誕生日。
サボの誕生日。そうか、実はあいつおれよか2ヶ月年下なんだな。
ルフィの友達の誕生日。はは、おいおい会ったことねえよ。サンジとゾロ、うん、こいつらには一度ちゃんと会っとかねえとな。
あ、まじかよオヤジの誕生日まで書いてる。

「……調べて、くれたんだな」
『――ん。白ひげの人達な、みんな今日あした仕事だってわかってたから、おれが誕生日聞いて回ってる時にな、エースの誕生日みんなで祝おうかって言ってくれたんだ。でもおれが一番に言いたいって頼んだから、だから、サッチとマルコとか、ジョズとかビスタとか、みんなでエースのシフトずらしてくれたんだ』

そういうことか。サッチがおれの誕生日知ってたのも、マルコが何か言いかけてたのも全部、―――全部。


「………あ、れ、まだ、何か」
『あ、待った!それは後で』
「もう遅い。」

月間スケジュールの後に連なる週間スケジュール。そこにも何か書かれている。

指先で、ページをめくる。
全ての欄が埋まっている訳ではなかった。月間スケジュールに誕生日が書き込まれていたその日の欄だけに、何か、


―――エース 22歳おめでとう!
エースと会えてよかった。
エースと一緒にいられてよかった。
エースにしあわせにしてもらったぶん、今日からいっぱい返すからな!
今年もよろしくおねがいします!
そんで、これからもずーっとよろしくな。


「………。」
何にも言えないまま、ゆっくりとページをめくっていく。

―――サボの誕生日
ちょっとねちっこいトコあるけど、エースにだけなんだぞ、サボがあんな風にイジワルしたり楽しそうに話すの。
この日はぜったい一緒になんか考えて驚かしてやろうな!

「……はは、ねちっこいってお前。バレたらサボに怒られるぞ……」
『あーもーだからやだって言ったじゃんか!黙ってろよエース!』
「自信ねえ…」
『えー』

―――サッチの誕生日
エースはボロクソに言うけど、でも一番話してくれるのもサッチのことだよな。
ちゃんと仲良しで、なんかあったら絶対サッチはエースのこと助けてくれるって、おれちゃんと知ってるぞ。

―――マルコの誕生日
マルコといる時のエースは、ちょっと素直だ。マルコの言うことはわりとちゃんと聞くもんな。
仕事のことはおれよくわかんねえけど、なんかあっても多分マルコはぜったいなんとかしてくれるんだと思う。だから大丈夫!だよな?


よく見てるな、コイツ、と思った。おれのこと、おれの周りのやつのこと、ちゃんと見てくれてるんだな、と思った。

誰も見ていないのはわかっていたけど、おれは歪む表情を隠したくて、顔を伏せてこたつテーブルに肘をついたまま、額に手を当てた。少しだけそうやって感情を落ち着けて、ゆっくりとページをめくっていく。

ひとりひとりにまつわる、おれへのメッセージ。おれの周りにどれだけの人間がいるか、ルフィが教えてくれているような気がした。
ルフィがどれだけおれを想って一文字一文字書いてくれたか、伝わってくるような気がした。
震える指で、手帳の一年を巡り、一年後の23歳の誕生日までたどり着いた時。
呼吸が、止まった。



――――エース、23歳おめでとう。
今日も大好き。絶対大好き。
今年も、一緒にいような。


言葉にできない感情が、胸を満たして喉を詰まらせた。
何と言えばこの愛しさが伝わるんだろう。
どうすれば、この死にそうなほどの幸福感を思い知らせてやれるだろう。

なんでそばにいないんだ。
今すぐここにこの子がいたなら、壊れるくらいに強く強く抱きしめて、せめてこの愛情のたったひとかけらでもいい、その細いからだに刻み込んでやるのに。
塞がる胸から搾り出した言葉は、そんな理不尽な愛情から生まれた憎まれ口だった。

「…―――バカ、『今年も』って、なんだよ……。『今年は』、だろ。お前いねえんだから」
『………ん、おれも、クリスマス前にケンカしちまった時にそれ書いててな、同じこと思ったんだ。』

『でもな、どうしても、今年は、って書きたくなくて。そうすると、ほんとにエースひとりになっちまう気がして』


ここで初めて、おれは違和感を感じた。
おかしい。雪国の田舎に帰っているはずのルフィが、こんな夜中に延々と外を歩ける訳がない。大体にして、なぜコンクリートの上を歩いているような渇いた音が聞こえる?

―――なぜ、携帯の向こうから聞こえる足音と、このアパートの階段を登る足音が一致している?


『――――だからな、』


ピンポーン、と、呼び鈴が鳴ったのと、おれが携帯を耳に当てたまま玄関に走り出したのは同時だった。


「…………来ちった。」


ほぼ体当たりで開けたドアの向こう。
間に合った。ただいま、エース。鼻の頭を赤くしたルフィが、照れ臭そうにそう言って、笑った。
おれの手から携帯が滑り落ち、かしゃん、と音を立てて転がる。

落ちた携帯の液晶が、1月1日、午前0時をしらせていた。