「――――!! い、…った、うあ、あ、あ…!!」
「……!」
強い締め付けに、エースは堪らず途中で侵入を止めた。いや、弟の悲鳴に、それ以上無理に進むことを躊躇ったのだ。
「…ルフィ、ルフィ、大丈夫。ゆっくりでいいから息しろ。」
「…っは、は、エース、っん、はあ、」
「ん、大丈夫。ゆっくりでいい。」
髪を撫で、背を撫で、キスを落とし、エースは必死で縋りつくルフィを宥めた。慣れていないその様子に、多くに愛される彼を手に入れたのが自分ひとりであることを確信して、優越感すら抱いた。
「――こわがんなくていい。大丈夫だからな…。」
だからエースは気付かなかった。彼にとっては愛情表現そのものだったその行動ひとつひとつが、弟の胸の内に酸いような苦いような感情を沸き上げたことも知らずに。
「――…なんか、ムカつく…!!」
「…は?なんで、」
「なんで、そんな、慣れてんだよ…!ムカつく…!おれで、何人目だよ…!!」
何人に、こんな風にやさしくしたんだよ。
やっとの体でそういうと、ぽろぽろと、明らかに生理的なそれではない涙が、ルフィの眼から零れおちた。首筋にしがみついていた腕を解き、両手で顔を覆って涙を隠す。
唐突なまでのその弾劾に、エースはただ呆然と、それを見ているしかできなかった。
今日一日の間に色んな事があって、感情のセンサーが敏感になっていることには薄々感づいていた。それでも制御できなかった。弟のルフィですら、いや、弟だから今になって初めて知った、兄の「男」の顔。やさしい兄の手が、やわらかい口づけが、気遣う低い声が、痛かった。一体何人が彼のやさしさを知っているのだろう。兄だって、もう子供じゃない。責める権利なんかないことを、ルフィは痛いほどに知っていた。それでも、目の前の一人の男が愛しくて、愛しくて、胸が痛かった。
「――ごめ、こんな、こと、言うつもりじゃ、なかった…!」
「…ル、フィ、」
「ごめん…!! おれ、ほんと、だめだ…!!」
きらいだ、こんなの。ごめん。ごめん。
そういって切なくしゃくりあげるルフィの微かな嗚咽は、やっとその言葉の意味を掴んだエースの、強く強く抱きしめる腕で堰き止められた。
「………エース、」
「…お前は知らねえんだ。」
「お前が思ってるほど、おれ優しくねえよ。最低だぞ。どんな奴より、おれはお前を抱いた数の方が多い。」
「…、エース、なにいって、」
「おれは」
そこで言葉を切って、エースは更に抱きしめる腕に力を込めた。愛しい弟が、この腕の中から逃げて行かぬよう、祈りにすら似た願いを込めて。
「…おれは、ずっとお前を抱くこと考えてた。もうどんくらいかもわかんねえくらい前に、夢で初めてお前を抱いた。そんときに、この家出ようと思った。」
言葉の内容よりも、広い逞しい肩が頼りなく震えている気がして、ルフィは目を見開いた。
「それからずっとだ。頭でわかってても、どうしようもなかった。お前が好きで、お前が欲しくて、何度も何度も頭ん中でお前を抱いた。…誤魔化して、ほかの女、抱いてても。ずっと、お前の名前呼んでた。」
「どんな奴よりお前を抱いた数の方が多い、ってのは、こういうこと。」
最低だろ。寝てるお前にキスしたこともあんだぞ。そう小さく呟いた声は、無理矢理絞り出したかのように掠れ、弱弱しかった。断罪を待つ罪人のように、ルフィの肩に頭をたれて。救いを、許しを求める囚人のように、その細い身体に縋りついて。
「……ごめん、ルフィ。ごめんなんて言えねえけど、でも、これしか言えねえ…。」
ごめん。お前が謝ることは何にもない。ごめん。
それでも、
「………それでも、お前が欲しい……!!」
ごめん。
最後にもう一度、血を吐くようにそう言うと、それきりエースは黙り込んだ。
「エース…エース、なあ、泣くなよ…」
「…泣いてねえよ。お前だろ。」
「じゃあ、顔見せろよ」
「嫌だ。」
「じゃあキス」
「…。」
「キス、して。たのむ。」
そう言われてやっとのろのろとルフィの肩から顔を上げたエースは、上げきらないまま肌を擦り寄せるようにルフィの頬を辿り、押し付けるだけのキスをした。それだけですぐ離れようとしたエースを、首に腕を回して引き寄せなおしたのはルフィだった。
驚いたように薄く開いた唇に、自分から舌を差しこんで兄のそれを捉えた。覚えたてで慣れないディープキスは、口内を緩くくすぐるだけの拙いものだったが、エースの下り坂の思考を止めるには充分だった。
「……ごめん、エース。もう大丈夫だ。…しよう、最後まで。」
「…お前、おれの話聞いてた…?」
「聞いてたよ。だから泣きやんだじゃん。」
エースがそんな風に思ってたの初めて知った。今日ははじめてばっかりだ。そういってルフィは笑った。吐息の触れる距離で、囁いて会話を交わす。きっと、こんな風に少し弱いエースを知っているのは、きっと自分だけなのだと、そう思った。
「エース、すげえやさしくてカッコいかったから、ほかのひとも知ってるんだって思ったら、なんか悲しくなっちまって。」
「でも、もう大丈夫。はやく知りたい、おれだけのエース。これからのエース、全部知りたい。」
「だから…、っァん!!!」
ずん、と根元まで穿たれて、ルフィは言葉を最後まで紡げなかった。思わず悲鳴を上げて兄の首筋に齧りつくと、そのまま強引に足を抱えあげられ、腰を抱え込まれた。図らずも時間をかけた結果か、最初に感じた様な痛みはなかったが、あまりにも唐突な動きにルフィの身体はふるえ、慄いた。
「な…っにす、…や、待ってエース、ぅあ、あ、あ、」
「もう待たねえ。なんなんだよお前、散々煽りやがって…!」
「な、に、…ンっ、んっ、あっ、…!あっ、あっ、あ!!」
一度絶頂手前まで行った身体が、熱を取り戻すのは早かった。指で探り当てた前立腺を、エースは容赦なく突き上げ抉った。もはやルフィにできるのは、訳のわからぬまま揺さぶられ、エースの思うままに啼くことだけだった。
愛してる。
そう囁かれたのを最後に、ルフィの記憶は飛んだ。
「……なぁ、エース…?」
「…ん…?」
もはや目も開かず腕の中でとろりとまどろむルフィの髪を、何度も何度も撫でながら、エースは返事をした。
「…店…戻ってこいよ…?」
「…ん。わかってる。」
「どこにも、いくなよ…。」
「頼まれたって行かねえよ」
「あした、ちゃんとでんわしろよ…。」
「わかってるって。…寝ろ、いいから。」
「…エース……?」
「……はは、なんだよ。」
「……おれも、シェイカー、自分の欲しい…。」
「――ん。わかったから。…寝ろ、ほら。」
そのまま、すう、と眠りにすべりこんだ恋人の顔を最後に一つ眺め、少しだけ抱え直して太陽のにおいがする髪に鼻先を埋めると、エースもゆっくり目を閉じた。
朝が来たら、ルフィのこのしなやかな手に合うシェイカーを探そう。この、男にしては華奢な手にひたりと沿う、少しまろいラインのものがいい。自分のものと並べてもすぐわかるように、フォルムの違うものがいい。
明日の約束を、これからの未来の約束を、愛しい身体ごと胸に抱え込んで、エースは眠った。
スウェル・オブ・ラブ
・ビトウィーン・ザ・シーツ
swell of love between the sheets
ビトウィーン・ザ・シーツ=ブランデー、コアントロー、ホワイトラム、レモンジュースをシェイク。
黒いベッドってえろい
まぁさまのリクエストより、「ジャックダニエル」シリーズの二人の初めてのお話でした。
花村個人としても思い入れのあるシリーズですので、まー長い長い(笑
書きたいとは思いつつ、タイミングを逃し続けてきたところへのまぁさまのリクエスト、本当にありがたかったです。書けて良かった!
まぁさま、素敵なリクをどうもありがとうございました!
2011.10.19. 花村ジョー
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