※caution!!R18です!
「………ぁ、…あ、…んっ! も…、だめ、だ、エース…!」
切羽詰まった声に、胸の飾りを嬲っていた唇と舌を止め、顔を上げた。縋るように髪には細い指が絡められ、肩には爪がささやかに食い込んで甘い痛みを伴う。それでも身体の中心を擦り上げる右手の動きは止めてやらない。同じ男だ。どこをどうされれば気持ちいいかはわかっている。手の中に収まるそれが、おれの意志に合わせてくちゅくちゅと音を立てる。限界が近そうだ。焦らすつもりはなかったが、予想以上に敏感な反応を示す胸への前戯も捨てがたくて、もう一度往生際悪く舌先で転がした。途端、びくりと身体を跳ねさせて、ルフィが訴える。
「…や、も、ほんとむり、だめだ、エース…っ」
「…ん、イキそうか? 大丈夫、いいから」
「……っク、…イ、くぅ、うぅ、」
過度の刺激に歪む表情にひどくそそられる自分を自覚しながら、意識して出した穏やかな低いトーンの声を耳元に吹き込む。そのまま一気にルフィを頂点に向かって追い上げた。
「……いいぞルフィ、大丈夫だから。ほら、」
「…!! あ、ア、ア!エース、えー、す、っ、…ん――…ッ!!」
耐え切れず巻き付けた腕の上からおれの首筋に唇を押し当てて、悲鳴を押し殺してルフィが達した。見えなかったけれど、右手の中で弾けたあたたかいそれが、指の間を伝ってとろとろと流れ落ちるのがわかった。絶頂の余韻に喘ぐ、甘い微かな声が混じった荒い吐息を肌に直接感じながら、おれは宥めるようにその目元や頬に口づけた。右手は硬度を失ったルフィの性器をいまだやわやわと弄び、最後の一滴まで絞り取ろうとしている。
ただでさえ感じやすいことが判明したルフィなのに、アパートの壁の薄さを気にしてか、彼は思いっきり声も出せず、余計に快感が体内にわだかまっているようだった。押し殺される声がもったいない、と思う反面、発散できない快感に打ち震えるその姿に、どうしようもなくそそられる自分がいた。制御できず、細い身体の中で暴れ回る過ぎた刺激は、もはや拷問に近いだろう。頼れるのはおれだけ。救ってくれるのはおれだけ。そんな風にこの身体にしがみついて悶え喘ぎ、押し殺した声で絶え間なく啼く、腕の中の愛しい恋人。
堪らなかった。
「……はあ、はっ、ッ、あ…?」
背筋を辿り、先程吐き出された精液のぬめりを使ってそのまま谷間に指を潜らせる。ルフィの息が整っていないことは重々承知していたが、痛いくらいに張り詰めた自分の欲を自覚せざるを得なかったから、雄の本能そのままに、おれを受け入れてくれるであろうその場所に、ゆっくりと中指を埋め込んだ。
「ごめん、ルフィ、…おれ、ちょっとブレーキ外れかけてる、かも」
ほんとにいやだったら思いっきり殴れよ。
そう言って最後の切り札だけを手渡しておく。過度の刺激に潤んだ目が見開かれたのが見えたが、もう半分ケモノと化しているおれは、欲望のままにやわらかい喉笛に甘く咬み付き、体内に埋め込んだ指を更に深く突き入れた。
******
膝を立てた両足の付け根、自分でも知らなかったからだの奥の奥。いまそこを暴くのは、何もかもを委ねたただひとり。その彼の、手を繋いだ時に力強く指を絡め取ってくれた、やさしくこの頬をなぞってくれた、あの骨ばった長い指が、体内からこの身を翻弄している。そう思うだけで、ルフィは身体の芯がじわりとまた熱を帯びるのを悟った。
存在すら知らなかった内側の弱点を探り当てられた後は、もはや生き地獄のような快感に一方的におぼれさせられるだけだった。閉ざすことも忘れた口からは、脊髄を走る快感に突かれてもはや意味もない喘ぎばかりが唾液と共に零れるばかり。耳を塞ぎたいようなそれを、エースはいっそ厳かですらある仕草で口づけ、舌を絡めてとろりと呑みこんでくれた。
ちゅる、とほんのかすかな水音を立てたのは、キスを解いた唇か、それとも体内から引き抜かれた指か。すると、長い腕を伸ばして鞄を引き寄せ、エースはその中から何かを探り出した。そうして、ルフィが息も整わないほんのわずかな時間、慣れた手つきでその小さな袋を開けた。そして少しの身じろぎの後、とろけたそこにひたりと宛がわれたのは、
(……あ、エース…、の)
「…ルフィ、」
いいか、と耳元で微かに微かに囁かれた声は、許可を求める割にはひどく余裕がない。それがどうしようもなく嬉しかった。求めてくれている、欲しがってくれている。ルフィは遠のきそうな意識を必死で留め、己を抱く男を見つめた。力強い広い肩。厚い、熱い胸。笑うとそばかすが親しみを誘うその顔は、今は雄の瞳でこちらをひたと見据えている。このひとが望んでくれるなら、この薄いからだひとつ、この震える心ひとつ、なんだってくれてやる。
おれ、このひとのものになるんだ。
沸き上がる嬉しさそのままに、ルフィはふわりと微笑んだ。切れ長の目が大きく見開かれた後、なぜか苦しげに歪められたと思ったら、何かの箍が外れた様に、エースはルフィに喰らい付いた。ずん、という衝撃と共に喉を突いた悲鳴は、エースの深い深い口づけが覆ってくれた。
******
(……やべェ、おれ、このまま)
死ぬかも、と思った。
今まで経験したどんなセックスも敵わなかった。押し入った体内ははじめこそ異物を拒んで強く締め付けたが、瞬間的に達しそうになった自分を抑え、ごめん、痛いな、と宥めながらしばらくゆったりとゆすってやると、ルフィが詰めていた呼吸を取り戻すのに合わせてそこはあたたかくとろりとおれを迎え入れた。指で探り当てたルフィのスポットを今度は己の先端で探る。しばらくそのまま健気に体内を探られる感触に耐えていたルフィが、そこを掠めた瞬間、くぅん、と子犬の鳴くような声を上げて身体を強張らせた。
(……ッ、何だ今の…!!)
いっそ幼ささえ感じさせるその抑えた悲鳴に、どうしようもなく興奮した。見つけたそこを、繰り返し繰り返し容赦なく抉る。ルフィの声、反応が、どんどん艶と色を帯びて行く。あとはもう、本能のままにルフィを抱き潰してしまわないように、最後の手綱を握り締めながらルフィのからだに溺れるだけだった。すがりつく腕の強さを感じながら、華奢な身体を抱きしめ、揺さぶった。ずるりと引き抜き、先程捉えたばかりのポイントを狙ってまた突き入れる。その度にルフィは切羽詰まった悲鳴を上げる。熱いような、それともいっそ凍るような快感が、繋がった部分から脊髄を伝って背筋を駆け抜ける。
「…あっ、あっ、あっ、…ッ、ぅ、ぁあん!……ん、く、だめだ、エース、声…!!」
声でる、と必死に訴えるルフィが可愛くて思わず余裕がないなりに笑いを零す。
「……聞きてえのに、なァ…。…、もったいねえ…」
「そ、んなの、…う、あァ、あ、あ…!!」
やだ、きこえる、エース。
生理的な涙を零しながら、切れ切れにそう繰り返し繰り返し訴える。恥ずかしいのもあるだろうが、おれが以後気まずくなるかもしれない、そういう配慮もあるんだろう。それは別にいいんだが、やっぱりお隣さんにルフィのこの色っぽい声を聞かせんのは我慢ならん。
今日何度もしたように、深く口づける。舌は絡めずに、ふかく、深く。声が響くのが抑えられたことに安堵したのか、今までは揺さぶられる度に努めて短く上げられていた声が、高くおれの口腔の中で反響した。後頭部の髪に絡む指の力が、首筋にすがりつく腕の力が強い。しなやかな脚がおれの脚や腰にしっとりと絡みつく。おれも、もう長くは持たない。
(……ッ、ルフィ…!ルフィ…!!)
心臓が張り裂けそうな激情を紛らわすために、何度も何度も角度を変えて口づける。速くなるばかりの律動に合わせて、散らばった黒髪がぱさぱさと揺れ乱れるのが視界の端に入った。頭の中で何度も何度も呼びかける。ルフィ。その名前だけが全てだった。出会ってから今までの色んな場面が、まるで走馬灯のように思い返された。転げた彼を抱き留めた時、驚いてこちらを見上げたルフィ。冷たいペットボトルをこの頬に押し当てて、上目づかいに睨みつけるルフィ。切なく涙を零すルフィ。はじめてキスをした夜、きれいなきれいな泣き顔で笑ったルフィ。段ボールの箱越しに見るしかできないと思っていた、焦がれて焦がれてどうしようもなかった、いとしい子。その子が今、おれの下で、見たこともない艶やかな姿で甘く甘く啼いている。夢じゃない。
ルフィ。ルフィ。 おれのものだ。
臨界点を超えた愛しさのまま、高みに向かって追い上げる。一際強く最奥めがけて突き入れた時、それがとどめだったか、ルフィは長い長い悲鳴を上げて細い身体に溜まった快感を吐き出した。ルフィの高い声をキスで受けとめ呑みこみながら、いとしい身体の痙攣を抑え込むように抱き締めた。内壁に食い締められる感覚に耐えきれず、背筋を走る電流のままに身体を震わせ、おれも熱い迸りを吐き出した。
死にそうなほどの快感でぶっ飛びそうな意識を、やわらかいルフィの唇の感触で何とか手繰り寄せながら、しあわせでしあわせでちょっと泣けそうだった事実は、きっと墓まで持っていくだろう。
******
瞼を開いて真っ先に目に入ったのは、からっぽの白いシーツだった。
(………あれ、)
知らない天井。見慣れない、すこし雑然としたインテリア。一間のこの空間に、共に夜を越したはずのこの部屋の主の気配はない。
(…仕事、行っちゃったかな。)
荷物の仕分け、朝早い時間に指定された配達。彼の朝が早いことは知っている。知っているのに、さみしさと心細さにただでさえ弱くなっている涙腺が弛む。彼の残り香がする布団に顔を埋めて、女々しく滲む涙を押し隠した。
仕事上がりだということも、次の日も仕事だということもわかっていてわがままを言った。それなのに、あろうことか彼はそれを喜んで受け入れて、大事に大事に愛してくれた。それだけじゃない。行為が終わった後も、はっきりと意識を保てないルフィの身体を彼が優しく清めてくれたことも、夢うつつにルフィは知っていた。だいじょうぶ、寝てていいぞ。低くやわらかくささやくその声に、朦朧とする意識の中でかろうじてその手に頬を擦り寄せて応えたルフィは、力強い腕に全てを委ねて眠りに落ちた。そんな風に愛してもらえて、その上、朝起きた時にそばにいなかっただけで彼を責めたら罰が当たる。
だけど、さみしい気持ちはどうしようもないから、今だけちょっと甘えさせてほしい。
そう自分に言い訳したルフィは、エースのぬくもりと香りが残る布団の中で身体を小さく縮ませた。
その時。閉まっていた風呂場のドアが開いた音がして、ふすまの向こうに最近聞きなれた足音が響いた。
「…あ、起きちまったか、…ってなんつー顔してんだルフィ!! どうした!? 身体しんどいか!?」
ふすまを開けて顔を覗かせた途端、エースはぎょっとしてルフィのもとに駆け寄った。グレーのスウェットを黒の下着がのぞく腰骨に引っ掛けて、惜しげもなく見事な筋肉を晒すむき出しの上半身はタオルを首に掛けただけ。黒髪はまだ湿ったままのところを見ると、シャワーを浴びていたようだった。
慌てて顔を覗きこんでくるエースに、安堵感で更に滲む涙と女々しい事をした羞恥心がないまぜになったごちゃごちゃの顔を見せたくなくて、ルフィは広い肩に顔を埋めた。
「……しごと、行っちまったかと思った…!」
ルフィ、と掠れた声で呟いたエースが、抱き締めようと滑らかな素肌に手をかけて固まった理由は、ルフィには窺い知れぬことだった。
「…? エース、」
「……ごめん。朝っぱらから盛るのはさすがにまずい」
そう唸るように言って、無造作に投げ出されていた自分の黒いジップアップパーカーを白い素肌に羽織らせる。そのまま、ぶかぶかのパーカーに包まれたルフィを力一杯抱き締めた。ルフィの肌の感触が心臓に悪いのだ、ということも知らぬまま、よくわからないながらもルフィは求めた温もりに安堵して息をついた。
「……ごめん、さみしかったか?」
「…聞くなよ……。」
もう一度、ごめん、とささやくその声に、隠しきれない嬉しさと愛しさが滲んでいたのは、たぶんルフィの気のせいではないと思う。だけどルフィも、エースの体温や抱き締める腕の力が恋しかったことは繕いようもない事実だったから、恥ずかしさやどうしようもなさはおあいこだ。
「……けどエース、仕事どうしたんだ? もう間に合わないだろ、この時間」
「おれも忘れてたんだけどなルフィ君。うちの会社には有給休暇というものがあったのだよ。」
周辺の担当区域の同僚たちに少々負担を強いることにはなったが、もともと今日の配達分は少ない事が昨日の時点で分かっていたから、およそ非常識な休暇ではないはずだ、という判断のもとにエースは電話で連絡を入れていた。『エリー』と逢っていた、という事実を知っているサッチには後々つつかれそうだが、まあその時はその時だ。おいそれとこんな不埒な理由で給料泥棒みたいな真似をするつもりはないが、ルフィの「初めて」の朝くらい、許されてしかるべきだろう。そんな不遜とも言えるエースの思考を知らぬまま、ルフィは単純に状況を判断して喜んだ。
「じゃあ、今日も一緒にいられるのか?」
「おう、お前の授業次第。今日は?」
「3,4限だから午後から!」
やった、と嬉しくてうれしくて心底から笑うと、ルフィは同じように目を細めるエースの鼻先に自分のそれを擦り合わせた。そのまま、エースがこの唇の端に軽く音を立てて吸い付くから、しし、と照れ隠しに笑ってみた。お互いがお互いのものになった初めての朝。もう二度とない最高の朝だ。空腹感を訴える胃はそろそろ誤魔化しようもなくなってきたけれど、もう少しだけ、この幸せに浸っていてもいいだろう。ゆっくりと近づく唇を待ちながら、そう思っていたのだけれど。
ピンポーン、と鳴り響くのは、自宅とは少し違う音色の呼び鈴。
「…ッだ〜〜〜〜〜〜もう誰だよこんな朝っぱらから!!」
あとちょっとだったのに!なんて悔しがりながらも立ち上がり、そのまま玄関に向かう広い背中をみつめながら、いつでもできるのになあ、なんて思いつつでもちょっと惜しいと思っている自分もいて、おれもだいぶホダされたなあ、なんて、ルフィは思った。
すると。
「……?」
玄関で応対しているエースがなにやら揉めているようだ。羽織らされたぶかぶかのパーカーの前を閉めて、ゆっくり立ち上がると、袖は手が隠れてしまうくらい、裾は太ももの半分くらいまであった。エースもきっとゆるいサイズで着ているのだろう。そのまま、静かに半分だけ開け放されたふすまに向かって歩き出すと、会話の内容が聞こえてきた。
「………――――まあそれはいいとして、何か先に言うこと有るんじゃねえの?」
「……………。………お義兄さん、弟さんをおれにくだs、がは!!!!」
「バカちげえよ言わせねえよ!!!!? メールの一本もなしにテイクアウトしてすみませんだろうがこのオオカミさんが!!」
ルフィは目を見開いた。いいかいエース君、物事には順序ってもんがあるのだよ、と説教をたれるこの声は、
「…サボ!!!!? 、…エース!!!!!!!!?」
ぶかぶかのパーカーを羽織り、「男の夢」そのものの姿で奥から飛び出してきた弟を見留め、朝の光を爽やかに纏ったサボはにっこりと微笑んだ。
その引き締まった右腕で、エースの頸動脈に裸締めをキメながら。
「…おはようルフィ。兄ちゃんちょっと今からお前の彼氏シメるから、向こう行って服着てから出てきなさい。」
気恥ずかしくてまだサボに報告できていなかったルフィは、「彼氏」発言とか、何でバレてるんだ、とか、もうオーバーヒート気味の思考で顔を真っ赤に染めた。わかりやすい弟の状況なんかとっくに悟っていた兄は、お、我が弟ながらかわいいなあ、なんてまじまじとそれを見つめていたが、不可抗力にしろ意図的にしろ、瀕死でその腕をバシバシ叩くエースを二人ともしばらくそのままにしていたのは、兄弟の血が為せる技かもしれなかった。
グッドモーニングピンポン
うん、えろむりだこれ。お粗末さまでした。
オペレーション「テイクアウト」、これにて成功ですおめでとう!
ざまあみやがれこのしあわせもんめ!!
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