例えば、某おとぎ話に出てくる魔法のランプがあったとしよう。
しがない一宅配便企業の配達員であるおれが今一番欲しいものはと聞かれれば、「金」でも「一軒家」でも「車」でもなく、即答で「勇気」か「度胸」と答えるだろう。
なぜかって?
おれは今、かれこれ一時間ほどあの子に送るメールの送信ボタンすら押せてないからだ。
話は数時間前に遡る。
8月も半ばを過ぎ、あの胸キュンペットボトル事件(この際ネーミングセンスにはノーコメント)から3週間が経った。
とはいえ、あれから進展は全くない。
あえて特記するならば、晴れて業務用ワゴンの空調が直ってしまったことくらいか。少し、いやかなり残念に思ったのはここだけの話だ。あの子、つまり「ルフィ」が絡むとこの暑ささえ180度認識を転換してしまうから、もうどうしようもない。
いつもの半袖とハーフパンツの制服に身を包み、快適なワゴンでいつもの担当区域を走り回る。時には腰のサブバッグをガチャガチャ言わせながら台車で猛暑のオフィスビル街を駆け回り、週に一度のペースで送られてくるあの子ん家宛ての荷物に歓喜する。まぁ良く言えば安定した、進展のない日々だ。
とはいえ、週に一度の定期的なペースであの子に会えるのが、とんでもなく幸せなことには違いない。あの日以来、行ってあの子がいないようなことはなかったし、行けばいつものあの眩しい笑顔で迎えてくれる。あんまり暑い日はポケットから誰かにもらったらしい飴玉を出して、それを差し出しながらちょっと心配そうな顔で「気をつけてな」って言ってくれた。飴玉は未だ食えずに部屋の窓際に件のペットボトル(ちゃんと飲み終わって洗った)の隣で鎮座しているし、その晩この狭いアパートの畳の上で悶えたのはもう言うまでもない。
ちなみに真下のおっちゃん(独身43歳)に迷惑がかかるようなドタバタ転げ回るパターンはもう卒業した。布団の上でプルプル震えながらギュンギュン(もうキュンキュンじゃ済まない)音がしそうな心臓の痛みに耐えるだけだ。誉めてくれ。
最近はあの上品な男前のお兄さん、「サボ」ともちょいちょい話すようになって、実は同い年だということが判明した。「ルフィ」はその3個下だというから、今年大学に入ったばかりの19歳だ。進展はないとは言ったが、「エース」「ルフィ」の名前呼びはもう定着しているし、あの子のテリトリーに少しずつ自分が入って行っている様な気がして嬉しいのは事実だ。「ちょっと仲良い配達の兄ちゃん」からはレベルアップしている気がする。
そんなこんなで今日も、豪快な字で書かれた伝票の貼られた段ボールを抱えて、スキップでもしそうな勢いであの子の住むマンションのエントランスをくぐったわけだ。
まさかあんな、死刑宣告にも等しい一言を聞こうなどとは想像もせずに。
「あのなエース、おれ、来週から1カ月いないんだ。」
な ん で す と ?
文字通りおれは固まった。脳みそがフリーズしているのが自分でもわかる。ついでに笑顔も引き攣ったまま固まっているはずだ。一度固まったあとは嫌な予感に冷や汗が出てきた。ちょっとシュンとしながらその事実を告げるその姿が可愛いとか思う余裕すらすでにない。
何ですと!!?
「1、ヶ月…?」
「うん。もっとかかるかも。じいちゃんがな、今のうちに車の免許取っとけって。盆も2日帰っただけだし、9月いっぱい夏休みだし、都会の道路こええし、どうせなら実家から学校通って取れって。」
ちなみに彼らの実家が新幹線使って数時間かかる距離にあることは伝票の差出人住所でわかる。
つまりすなわち要するに、ルフィに1カ月まるまる会えないってことだ。
(嘘だあぁあああああああ!!!!!!)
いやこの子が嘘なんかつく子じゃないってことは重々承知しておりますが!!
「まじか……。」
「うん。わざわざ言う必要ないのかも知んないけど、サボはケンキュウシツとかあるからこっちに残るし、荷物は送られてくるかもしんないから、何にも言わないで行ったらエースに心配させるかもなって思って。」
ていうか、エースに会えないのおれが寂しいし。
瞬間、全身全霊をかけて絶叫を飲み込む。
史上最大級の爆弾投下だ。なんだいまのなんだいまの何だ今の!!!!!?
暑さと恋で頭が沸くあまり幻聴が聞こえるようになっちまったんだろうか!
「、? エース、大丈夫か?」
「悪い、ちょっと待ってくれ。おれいま色んなもの耐えてるから。」
「? おう?」
片手で顔を覆ったまま壁にもう片方の手をついて、かろうじて倒れこむのを耐えた。そんなおれに心配そうな声音で声を掛けるルフィに、ていうか君は危ないから離れてなさい、なんて本気で口走りそうになる。だってだって今ものすごく抱きしめたい!!!!
「…1、か月、は…長いな……。」
「……うん。でも、じいちゃんもう勝手に申し込んで金も払っちったみてーだから、いかなきゃなんねえんだ。」
そっか。そうだよな。うん、そりゃそうだ。
爆弾投下でてんやわんやだった頭の中が、心なしかしおれたルフィの様子ですっと冷えるように落ち着いた。
もともとおれは一介の配達人だ。彼の家庭の方針に口出せるような立場じゃない。到底。お客様である彼が、わざわざこうして事前に教えてくれただけで、本当は有り得ないほどありがたいことなのだ。
「…まあでも、確かに免許は早いうちに取っちまった方がいいよな。おれも18になってすぐ取ったし。」
「……ほんとか?難しかった?」
「実技はちょっとな。駐車とか。あと筆記もちゃんと勉強しとけよ。ちょろっとやれば問題集とまんま同じ問題とか出たりするし、ある程度ちゃんとやりゃあ落ちねえよ。」
「うわー、筆記とかおれほんと苦手なんだ。運転すんのはほんと楽しみなんだけど」
いつものような光り輝くようなものではなかったけど、ルフィがちょっとだけふわりと笑った。
すこしだけ元気がないその表情に、ああ、少しだろうがなんだろうが、ほんとに寂しいと思ってくれてんだな、ってのがわかって、切ないような熱いような、今まで感じたことがない切迫した感情が喉元を遡ってきた。おれは、本当にこの子が好きだ。心底惚れている。ルフィが、好きだ。
「…がんばれよ。地元の友達とかにも会えるんだろ?行きゃあすぐだよ、1か月なんて。」
おれもルフィに会えないのは残念だけど、教えてくれて嬉しかった。ありがとな。
色んなものを飲み込んで、かろうじて絞り出した台詞。社会の常識と、心からの本音を混ぜた。おれの目の中を探るように見つめるルフィの真っ直ぐな瞳から、目を逸らさないように。あんまり長くは、持たなかったけれど。
「…じゃあ、そろそろ行くわ。次に会えんのは10月入ってからだな。」
「……うん。」
「がんばれよ。1か月で帰って来れるように。間違っても事故んなよ。」
そんなことになったらおれが死ぬから、とは言えない。
「はは、うん、そだな。エースも身体気を付けてな。」
「…うん、ありがとな。」
なけなしの自制心で、ふとした拍子に伸ばしそうになる両腕を抑える。右手だけを極々自然に伸ばして、艶やかな黒髪を2回だけ撫でた。初めてこの子に触れた時、抱きとめたあのすんなりした身体の感触。3週間前、背を向けたこの子を引き止めるために掴んだ細い手首。そして、このさらさらとした髪の手触りと、気持ち良さそうに目を閉じた表情。うん、大丈夫。これだけで、おれはきっと1か月生きていける。たかが1か月と笑うことなかれ。この子と出会ってない頃の時間の過ごし方なんて、とうに忘れてしまった。
ルフィの髪の感触を閉じ込めるように、拳をギリ、と握り締める。じゃあな、1か月元気でなと告げ、意識して営業用の笑顔を浮かべ毎度ありがとうございました、と頭を下げた。ルフィの顔を見ないままに、今度こそ振り切るように背中を向ける。今あの子の顔を見たら、この胸ん中の色んなもんが溢れだしてしまいそうだった。
なのに。
「……エース!!」
あれ、と怪訝に思う間もなく、おれはルフィの呼ぶ声に不可抗力で振り向いた。おいおい、なんでそんな必死な顔してるんだ?この子は朗らかに笑った顔が一番似合うのに。
「…ルフィ? どうした、」
「ちょっと!ちょっとだけ、待っててくれ!!」
「…!? おい、」
それだけ言い捨てて、今度はルフィが背を向けてダッシュで部屋ん中へ入って行った。ガサゴソ、ドタンバタン、とひとしきり騒音を立ててリビングで何かを探しまわっているようだ。なんだなんだ?また飴玉でもくれるんだろうか。
ほんの30秒ほど、あれ、静かになったな、と思っていたら、またダッシュでルフィが廊下へ出てきた。家ん中で息切らすほど、何を探してきたんだか、
「…これ!」
彼が少し思い詰めたような顔で差し出したのは、薄く大手新聞社の名前が入ったおまけと思しき何の変哲もないメモ用紙。そう、何の変哲もない紙切れ一枚。
そこに、携帯のメールアドレスと電話番号が書いてあることを除けば。
「それ、おれの番号とアドレス!迷惑だったら捨てていいから、気が向いたらでいいから、ホントに暇な時でいいから、連絡、してくれ。」
おいおいそんな、必死な顔で。ちょっと顔が赤いのは、おれの願望なんだよな?
「……向こうでも、エースと話できたら、おれ、すげえ嬉しい、から。」
ああ、ほんとにきれいな眼だな。
現実について行けない余り、そんなことを考えていたおれを誰も責めることはできないはずだ。
そして、今に至る。
おれはあの子にまつわる宝物(さっきもう一つメモ用紙が加わった)が鎮座している、神棚にも等しい窓際の下で胡坐をかきながら、手のひらサイズの端末を握り締めて画面を凝視している。
ちなみにあの後車に戻ってしばし放心した後、電撃が走ったように我を取り戻して神速で携帯にもらった番号とアドレスを登録した。移動が多い仕事の間にこの紙切れ一枚をなくしでもしたら、おれは東京湾から身を投げただろう。
それでもメールが送れない。親指で、ボタンひとつ。それだけで、あの子とおれを繋ぐちょっとした絆ができるのに。
なんだこれ。自分がこんなに女々しい男だとは思ってなかった。だがしかし、ちょっと、いやかなり情けなく感じるその反面、自分の本気度を改めて思い知る。
一度携帯をパタンと閉じて、目を瞑って深呼吸してみる。
よく考えろエース。このボタンのひと押しで、お客さんと配達員という一定のラインは恐らく越える。もしかしたら、実際会って話すのとイメージが違う、なんて言われる可能性だってある。やっぱり仕事上の何やかんやもあるからと、大人の対応をするのが普通に考えたら定石だろう。
だけど。
(……向こうでも、エースと話できたら、おれ、すげえ嬉しい、から。)
あの子のそんな一言がフラッシュバックする。
よく考えろって言ったって、この想いはもう収まりつかなくなっている。例えばここで連絡を取るのを放棄したところで、この想いが消えるわけじゃない。おれはあの子に惚れている。これだけは絶対に変わらない。
だったら、何もしないで後悔するのが一番嫌だ。
おれは覚悟を決めて、もう一度だけ深呼吸をした。
******
やっちまった、と思った。
ついにやってしまった。今思い返すと結構恥ずかしいことをしたんじゃないだろうか。
うわあああ、なんて声にならない叫びを枕に顔をうずめて押し殺す。
大学から帰ってきたサボは、羞恥心で落ち着きのない自分を見て首を傾げていたが、まああまり深刻な問題じゃないと判断したらしく、ちゃっちゃか晩飯を作って今はTVの映画を見ている。ふとした拍子に思い出して絶叫しそうになるおれは、黙ってそれに付き合える自信がなかったから早々に部屋に引き揚げた。
ベッドに仰向けになって、大きなため息を一つ。
だってどうしようもなかったのだ。
ずっと気になっていた「配達の兄ちゃん」。エース。あの日、不注意で転げた自分を身を挺して守ってくれた、力強い腕の感触。律儀にわざわざ礼を言うために、この手首を掴んだ大きな手のひら。それからそれから、裏も表もないようなからっとした笑顔。真っ直ぐにこちらを見て「ありがとう」を告げた、低い優しい声。
ここの所ずっと、それらが頭の中をぐるぐる廻っては離れないのだ。
それら全部が1か月もの間なくなってしまうなんて耐えられない。つまらない。何より、寂しい。
だから、
(……でも、エース困ってんだろうな…。)
優しい彼の事だから、迷惑に思っていても顔には出さないだろう。相手は社会人、自分は世間知らずの大学生。社会の常識とか、好奇の目とか、仕事上の不都合とか、そういうマイナスの負担を被るのはきっと彼の方だ。叶うなら、数時間前に遡って、アドレスを渡した事実を消し去ってしまいたい。けれどもう手遅れだ。
携帯は、未だ沈黙を保ったままだ。枕元からそれを取り上げて、意味もなく眺めてみる。
今まで、告白されて断る理由もなくて、付き合った女の子は実は何人かいた。普通に可愛いな、と思っていたし、一緒にいれば楽しかったし、でもそれ以上でもそれ以下でもなかった。こんな風に、相手や自分の一挙一動がどうしようもなく気になるなんてことはなかった。自分は何もわかっていなかったのだと、今なら分かる。
携帯を胸の上に置き、はあ、と溜息をもう一つ。
嫌われたくない。困らせたくない。でもどうにかして相手を感じたい。全く持って厄介な感情だ。なかったことにしたくても、残念ながらこちらから起こせるアクションは何もない。思考はエンドレスで堂々巡り。溜息ばかりが喉をつく。
はあ。
その瞬間、
「!! うっわ!!!!!」
胸の上でメールの着信音がなった。飛び起きて二つ折りのそれを開く。見たことがない、むき出しのアルファベットが並んだアドレス。件名には、少しおどけた「宅配便です」の文字。
(……エースだ……!!!!)
『エースです。ちゃんとルフィに届いてるといいんだけど。アドレス教えてくれてありがとう。おれの連絡先も登録よろしくな。』
絵文字もないシンプルな文面に、念のためか再びメールアドレスが続き、そして、
「ってうわあああああああ!!」
電話番号を登録しようとして、なんと発信してしまった。
何でメニューの頭に「発信」が出てくんだよ、なんて悪態をついてみても後の祭りだ。今更切ってもエースの携帯には着信が残るし、彼が怪訝に思うのは必然だ。ああせめて彼が気付かないで留守電にでも「ごめん間違えた」と一言残せたら!
『……はい、もしもし。…ルフィか?』
う―――――わ。
もうこうなったら素直に白状して謝ろう。電話越しの少しくぐもった低い声に、胸が一つ高鳴ったのは聞かなかったことにする。
「……エース、ごめん。番号登録しようとして発信しちまった…。今大丈夫か?なんか邪魔しなかったか!?」
『…はは、妙に反応はええなと思ったらそういうことか。全然平気、大丈夫だよ。暇だったし。』
「そっか、ならよかった。…あ――――焦った――――――――!!!」
どんだけテンパってんだよ、なんて優しく笑う低い声がなんていうかもうたまらない。意味もなく膝を抱え込んで丸くなり、心臓の疼きに耐える。
「なーエース、ごめんな、今日。迷惑じゃなかったか…?」
『ん?何が?』
「アドレス渡したこと…。困らせちゃったんじゃねえかなって、思って…。」
『なんだそんなこと気にしてたのか?』
だってエースは優しいから絶対迷惑とか言わねえもん、とはまだ言えない。電話越しの彼の声には、含みとかそういう響きは一切見えなかったから、本当に「そんなこと」と思ってくれているんだと思って、ホッとする。
『…大丈夫だよ。むしろおれは嬉しかった。ありがとうな、ルフィ』
「……んーん、おれこそ。メールくれてありがとー、エース。」
少なくとも迷惑ではなかったみたいだ。「嬉しかった」なんて、大人ゆえの優しさでも嬉しい。よかった。結果オーライだ。よかった!
結果オーライついでに会話を続けてみたかった。時間を気にせずに彼と話ができることなど、実は出会って以来初めてなのだ。
『…ルフィ、実家に帰んのはいつなんだ?』
「あさっての夜行バスで帰る。」
『ん――、そっか。結構すぐだな。夜行ってどんくらいかかんの?』
「えっと、確か夜の10時半くらいに乗って、朝6時半に着く。」
『うわ、結構かかんな。大丈夫か、そんなずっと車乗ってて。』
「エースの方がずーっと車乗ってるくせに」
『……確かに。』
自分の事は棚に上げて心配してくれるその言葉が嬉しくて、照れ隠しも含めた軽口を叩いて笑う。何気ない会話だったけど、それがどうしようもなく、楽しかった。学校の話、仕事の話、サボの話、変な名前のお客さんの話。他愛もないことをつらつらと話しては笑いあう、そんな時間が楽しくて嬉しくてしょうがなかった。だけど、
「ルフィー!風呂冷めるぞ、そろそろ入れよ!」
「あ、サボだ。ごめん、ちょっと待って」
わかった―!とドアの向こうの兄に返事をしてふと時計を見やれば、もうだいぶ遅い時間だった。
「…ごめんエース、サボが風呂入れって」
『そっか、かなり話しこんじまったな。悪い。』
「んーん、おれこそごめんな、エース明日も仕事だろ?」
『それはいいよ。でもサンキュ。』
そろそろ切らなきゃ、それはわかっているけど、なんとなく名残惜しくてタイミングが掴めなくて言い募る。
「……な、エース。」
『…ん…?』
「次、おれが帰ってきたらさ、一緒にうちで飯食わねえ?」
『…え、』
少し驚いたような声に構わず続ける。後から思えば、浮かれてちょっと気が大きくなってたのかも。1か月会えないことで、ちょっとやけになってたのかも。理由はいくらでも思いついた。あくまで後から思えば、だけど。
「サボも言ってたんだ。エースのこと、もう少し話してみたいって。おれも、配達なくてもエースに会えたら嬉しいし、だから、」
『ルフィ、』
は、と浮ついていた頭が冷えた。困らせた。瞬間的にそう悟る。
こういうところが子供なのだ、自分はまだ。
「ごめん、エースおれ、」
『ルフィ、ありがとう。行く。絶対行く。』
ちょっと急いたように告げられる。困らせたわけじゃないのだろうか。その言葉を、信じてもいい?
『おれも、ルフィに会いたい。仕事じゃなくても、…会いたい。』
今日はもう遅いから、また今度相談しよう。お兄さんにもちゃんと聞いておいてくれな。
そういって、電話を切るタイミングへ持っていく配慮は、やっぱり大人のものだった。どこまでが本音だろう。会いたい、なんて。泣きたくなるほど嬉しいこの気持ちを、知ってて言っているんだろうか。
そんな計算ができるひとじゃない、とは本能で嗅ぎ取っているものの、ルフィはそう思わずにはいられなかった。そうやってちょっとバッドエンドも想定しなければ、あまりに自分にばかり都合のいい現実を、受け止められなかったから。
通話の切れた電話を胸に抱きしめながら、しばらくルフィは火照った顔と半端じゃない音を立てる心臓をを持てあましていた。心配した兄が、自室のドアを開けるまで。
一方、ルフィのマンションから数駅離れた距離のアパートで、携帯を握りしめたままのエースが布団の上でキュン死にしていたことはまた別の話である。
ピンポンダイレクト
エースがルフィの前では必死で大人を取り繕ってるのが笑える(お前がいうか)
田舎の道路でしか運転できないのは花村です
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