「おやすみ、ハニー」のきらさまへ相互お礼です。僭越ながらご本人様のみお持ち帰り可とさせていただきます。ご了承ください。

※拙宅「ジャックダニエルの憂鬱」のエール設定。リクエスト内容「バカップルでエースにべったりなルフィ」。



朝目が覚めて、一番に目に入る黒髪。色ばかり同じでも、その手触りは余程極上だとエースは思う。

自分の左腕を枕にして眠る、愛しい「弟」。その寝顔は美しくもあどけない。

シーツに包まれたその身に一糸も纏っていないこと、そして鎖骨周りや首筋を中心に、朱い所有の印がいくつか散っていることを除けば。



(……ごめんなァ、ルフィ。)



最近は店の方が忙しく、深夜遅くまで働いては倒れ込むように眠る日々が続いていた。バイトの名目で隣に立って働いてくれている弟は、だいぶ授業数も減ったが昼間は大学もある。

いくら恋人の体温に飢えていたからと言っても、そんな弟に無理を強いたのは完全にエースの責任だ。

…責任なのだが。


「…………。」


エースは、弟の剥き出しの肩にシーツをかけ直すと、その右腕で華奢な身体を抱き寄せた。じわじわと滲み出るような愛しさを込めて。


昨夜、いやもう今朝と言った方がいい時間だったろう。とにかく日中の予定に支障をきたす時間帯に身体を求めたにも関わらず、ルフィは一切拒否しなかった。それどころか、エースが求めれば求めるだけ、ルフィは底無し沼か何かのように彼をどこまでも受け入れ、応えた。エース自身が歯止めの利かなくなる程に。


そして、意識を失うように眠りに落ちるその寸前、ルフィは我に帰って罪悪感すら感じていたエースに笑いかけた。まるで満ち足りたような顔で。


「……ルフィ………。」


彼も求めてくれていたと、思って良いのだろうか。だとしたら、なんて愛しい。
エースは腕の中で眠る恋人の髪に唇を落とし、そのまま鼻先を埋めた。できるならこのままこの腕で寝かせてやりたい。

エースは必要最低限の身じろぎで右腕をヘッドボードに伸ばした。手探りで携帯を探しあて、サイドボタンの一押しで時間を確認する。
確か弟は今日の2限が必修だと言っていた。授業開始は11時ジャスト。中心街にある弟の大学まではドアトゥドアで約40分。現在時刻、9時47分。潮時だ。

甘やかしたい気持ちを全精神力で押さえ付け、せめてもの詫びの気持ちを込めて低く優しく呼び掛けた。この腕の中で深い眠りに落ちる恋人を、できるだけ無理なく夢の淵から連れ戻す為に。

「……ルフィ、ルフィ。起きろ。朝だぞ。」

呼び掛けの合間にその滑らかな髪や頬、目元に唇を落とし、抱え込んだ手で背中を軽くたたく。しばらく根気よくそれを続けてようやく、子供がむずかる様な声を出してルフィが身じろいだ。


「……エース……おれきょうむりだ……ねむい………。」

「んな事言ったって2限必修だろ…?点呼あるから代返無理だってお前言ってたじゃねえか。行くだけ行って寝てろよ。」

授業料が勿体ないことに変わりはないが、自分にも落ち度があるし何より代返うんぬんに関しては身に覚えのありすぎる為強く出られない。しかしどうせ彼の事だから、後でノートやら何やらを提供してくれる友人は数多くいるはずなのだ。目下の懸案事項は寝坊などでギリギリになりがちな出席率だけ。ここは心を鬼にして弟を送り出さなければならない。

「……やだ……きょう休む……」

「お前出席ヤバいんじゃねーのかよ」

「…んー………。あといっかい……?…わかんね……。」

ますますもってマズい。
エースは腹を据えて弟を起こすことにした。心の中で甘やかしたい気持ちにトドメを刺す。


「ルフィーがんばれー起きろー」

「………やぁだってば……エースも寝ろー………」

ぺしぺし、と音を立てて頭をはたくも、幼い頃からど突き合い殴り合いの喧嘩をしてきた弟には効かなかった。起きるどころか更に胸元に擦り寄って抱き着いて来るあたり敵も手強い。ちくしょう、めちゃくちゃ可愛い。己のブレーキに自信がなくなったエースは、急遽作戦を変更し強行手段に出ることにした。則ち、


「………!?」

がば、と音がしそうな勢いで弟を引きはがして起き上がり、そのまま手首を掴んで組み敷いた。突然の暴挙に弟も驚いたのか、ただでさえ大きい瞳がこぼれ落ちそうだ。


「……ルフィ。二択だ。選べ。

今すぐ起きて大学行くか。……それともこのままもう一度おれに抱かれるかだ。」


どうする?


意識して表情を消す。そうすると極度に殺伐とした顔になることを自分で知っていた。
弟が、それを苦手としていることも。

弟の身体に溜まった疲労は相当なもののはずだ。これは最終手段だった。もちろん、弟を大学に行かせるための。当然彼もそれを取るはずだと、思っていたのに。


弟はしばしの逡巡の後、泳いでいた目をエースに定めてこう言った。頬を微かに朱く染めながら、





いいよ、と。





(……な……!?)


面食らったのはエースだ。だって、あんなに無理をさせたのに。いつもならふざけんないい加減にしろエロテロリスト、ぐらいの罵倒を浴びせながらベッドを飛び出して行くのに。
エースの戸惑いに追い撃ちをかけるかのように、ルフィは続けた。

「……そしたら、エースも近くにいてくれるんだろ……?」



なんでそんなに切ない顔をする。そう胸のうちで問い掛けながら、実の所エースはその答えを知っていた。

あれぐらいじゃ足りない。もっと触れたい。もっと側にいたい。もっと近くにいたい。もっと、もっと、もっと。

いくら隣に居るとはいえ、客の手前触れ合うことなどできはしない。日中の予定を配慮してルフィは先に帰らせ、自分は明け方近くまで店の片付けに追われ、弟の眠るベッドに潜り込んで意識は途絶える。
朝になったらなったで、弟は泥のように眠る自分にらしくもない気を遣って静かに起き出し、大学に行く。目覚めれば隣の温もりは既にない。そんな生活がもう何日も続いていた。


「……キツいけど、いいよ、しても。エースとくっついてられんなら、それでいい。」



全てをエースに委ねるようにルフィが身体の力を抜いたのが決定打だった。
玉砕。完敗。無条件降伏。
そんな言葉がエースの脳裏に浮かんだ。

なんだこいつ、こんな愛しい生き物がこの世にいていいのか。


「…………負けた……。」


そう呟いてエースはルフィの上に突っ伏した。ぎゃ、なんて色気も何もあったもんじゃない弟の悲鳴が下から聞こえたが、構わず全体重をかけてやる。圧死寸前の弟がバシバシ遠慮ない力で背中を叩いているが知ったことか。

「ダメだ、抱く気も失せた…。何してくれてんだよお前……。」

「い、み、わかんね…!ちょ、まじ重いって、エース…!!!」

「お望み通りくっついてやってんじゃねーか」

「そーゆー意味じゃ…、ちょ、ほんと、死ぬ……!!」


そろそろ本気で命の危機を感じているようなので、のろのろと横にずれてそのままベッドに沈み込む。

そんなエースを少し不安げに見ていたルフィだったが、数秒の後には自ら勝ち取った権利を行使すべく、行動に出た。

俯せに沈んだ兄に擦り寄り、最上級の彫刻のような線を描くその背中に片腕を這わせた。前髪を擦り付けるようにして額をその逞しい肩に寄せれば、何だかんだで優しい兄はルフィの意図を正確に汲み取ってくれる。





「……甘ったれめ」

「………何とでも言え…。」

ルフィの方に向き直ったエースは、溢れんばかりの愛しさそのままに再びルフィをその胸に抱き寄せた。自分のものより背中に回った細い両腕の力が強いのは、本当に珍しいことだった。胸に擦り寄るその仕種は、頼りない子猫のそれを思わせて過剰に男の庇護欲を煽る。可愛い可愛い可愛い、脳内のそんな叫びは兄のプライドで飲み込み、代わりに艶やかな黒髪に唇を落とした。


(勝てるかこんなん、ふざけやがって。)


誰に対するものかわからないそんな胸の内の悪態は、もはや開き直りに近い。
こうなったらもう無駄な抵抗はやめだ。今暫くは心地好い敗北感に身を委ね、滅多にないこの幸せに甘んじることにしよう。

エースは世界で一番愛しい温もりと絹のような肌の感触を思う存分味わうべく、三たび腕の中の恋人を抱え直した。







(…だけど午後からは出ろよ、ルフィ。)
(残念、今日は3限休講だ。一日休み!)

(……………………………ルフィ、やっぱもう1ラウンド、)
(エロテロリスト!!)








キティ=赤ワイン+同量のジンジャーエール。名称の意味は女性の愛称、または「子猫」。


きらさまへ。
勝手に拙宅の設定を使わせて頂きましたすみません…!!
そしてうちのルフィはどうしてもデレてくれませんでした。切腹。

拙いものですが、御意のままに如何様にもなさってくださいまし…!!
返品可です。

これからもよろしくお願いします…!!

花村ジョー