※ナショナルチームトレーナーのエースさん×A代表ルフィさん
「ヒロイック・ブルー」の続きというか予選の話。



コビーがそれに気付いたのは、本当に何気ない瞬間だった。
だがそれは、自分がどれほど何気なく彼を眼で追っているか、そしてそれがいかに不毛なことか気付いた、まさにその瞬間でもあった。

「……あれ、エースさん珍しいですね。それ」
「ん?……ああ、」
これか、と言ってエースが右足を軽く上げたその時は、特に深く何かを考えたわけではなかった。
ただ、どこかで目にしたことがあるような気がした。普段なら気にも留めないようなそれをわざわざ話題に出したのは、きっとそういうことだったのだと、気付いたのは後のこと。
代表候補者の合宿に同行した時のことだった。風呂を上がり、ハーフパンツ一枚にタオルを首にひっかけただけの無防備な姿で、エースが部屋に戻ってきた。そのたくましく精悍な身体つきに、トレーナーとして驚嘆を覚え、一人の男として一抹の悔しさのようなものを感じたのを覚えている。
「エースさんがミサンガとか着けてるの、少し意外です。願掛けとかですか?」
「んー、まあ、ちょっとな。……願掛け、っつーのとはまたなんかちげーけど」

お守りみてーなもん、かな。
そういって足首に巻き付いたそれを見下ろすその目線が、なぜかひどく優しげだとコビーは思った。始めから、そこまで深く介入しようと思ってその話題を持ち出したわけではなかったが、思った以上にエースがその小さな飾りに思い入れを持っていることが言葉にせずとも伝わって、コビーはますます違和感を覚えたのだった。
だが、エースがそれ以上それについて何かを語るつもりがないこともわかったので、コビーが次の言葉を飲みこんだ、その時。コンコン、と控えめなノック音が、ドアから響いた。

「ハイ!……あ、エースさんいいですよ。僕出ます。」
「悪ィな」
腰を上げかけたままのエースが律儀な反応を返すのに、いえ、と答えてドアに向かいながら、コビーはひとりちらりと笑った。
彼の経歴と今の実績、そして持ち合わせているものを考えればもっと不遜な態度を取っても不思議ではないのに、どこまでも律儀で人のいい男だ。
「―――って、あれ、ルフィさん?」
「よ、コビー。遅くにゴメンな。……エースいるか?」
ドアを開けた向こうで、ルフィが彼にしては控えめな声音で言った。時間も時間だ。ほかの部屋に配慮したのだろう。そういう彼も、パーカーにハーフパンツというラフな姿だ。
「ルフィ?」
「……エース」
コビーが呼ぶ前に、エースは声でノックの主に気付いたようだった。奥から出てきた彼を振り返ったコビーは、エースの表情をみて彼にとっても意外な来客だったことを悟った。
「どうした」
「ごめん。……今、ちょっといいか。」
エースは返事をしなかったが、すぐに部屋の奥に入ってTシャツを頭から被り、上着を片手に取ったその行動は「イエス」だった。
「悪いコビー、すぐ戻る。寝てていいから」
「あ、ハイ。ありがとうございます。……お気をつけて」
「おう」
「ごめんなコビー、おやすみ」
「いえ。おやすみなさい、ルフィさん。」
ゆっくりと閉まるドアの向こうで、ルフィがひらひらと手を振る。その笑顔が無機質なドアに遮られるその瞬間、それは突然コビーの脳裏に瞬いた。
(…――――あ、)
エースの足首に巻き付いていたミサンガ。赤を基調とした様々な色が複雑に絡み合い模様を描き出したそれ。どこかで見たことがあると感じていた。
クールダウンの際にスパイクを脱いだ時。練習後のシャワーを浴びたとき。背中にこわばりがあるとコビーに鍼を頼みに来た時。そして、今。
 同じものが、ルフィの右足にも巻き付いていた。
 
  ◇◇◇

「―――どうした。」
「……んー、ちょっと会いたくなった。」
街中の喧騒を離れた広大なトレーニング施設。宿舎を少し離れて歩き出せば、森の木々のざわめく音のほかは時折小さな生き物の声が響くだけ。
その中で弟が言ったそのセリフは、彼と長く一緒にいる自分でさえも聞き慣れないもので、エースは思わず隣にある頭一つ小さな顔をまじまじと見降ろした。
「なんだよその顔」
「……大丈夫かお前、具合でも悪いんじゃ」
「むっかつく!ほかに言うことねーのかよ!」
「いって、バカ怪我したらどうすんだ」
「エースがこんくらいでどうにかなるかよ」
「ちげーよ、お前が。」
ずんずん一歩先を歩いていたルフィが、ふと足を止めて振り返った。
「……お前が、怪我したらどうすんだっつってんだよ」
弟がじっとこちらを見上げたまま、次の言葉を紡ぐ様子が無い事を確かめると、エースはゆっくりとルフィに近づいた。一歩、二歩。手の届く距離まで近づいても相手が逃げる気配がないのを確認しながら、エースはゆっくりと、弟の小さな頭を自分の胸元まで引き寄せた。
「―――どした、ルフィ。なんかあったか」
エースは知らなかった。
どこまでも優しく、おおらかに受け入れ包み込むようなエースのその声に、腕の中のルフィが泣きそうに顔を歪めたことを。
「―――あーあ。カッコわりい、おれ」
「……?」
「……エースはいっつもそうだ。おれのことばっか心配して。……おれは、エースに心配ばっかりかけて」
「……ルフィ?どうした、」
「エースの昔のプレー、出てた。TVで。」
は、と思わず息が止まった。思い出した。過去の名プレーを集めた特集番組。自分の過去の映像も使われると、どこで言われたかも思い出せないくらい何気なく、だがしかし確かに言われた記憶のあるその番組。
その事実ではない。ふたりですら未だまともに見たことがなかった、もしかしたら無意識に避けていたかもしれないそれ。無防備なタイミングで不意に見せつけられて、どれだけの感情の濁流をルフィがひとりで受け止めたか。それを想像した途端、心臓が冷たく強張った。
ぎゅう、と強くなった背中にしがみつく手の感触に応えるように、エースは腕に力を込めた。
「―――ッ、すげえ、カッコよかった、エース。強いボール、きれーにトラップするし、削られても倒れねえし、躊躇なくて、思いっきりミドルシュート、打って、」
「ルフィ」
「サッチも、マルコもうめえのに、いつの間にかエースのこと、眼で追ってて、」
「ルフィ、もういい」
「……もう、これが、どこ行ったってみられねえんだって、……今更……!」
「ルフィ!……ルフィ、もういい。……もういいから」
 力一杯抱き締めた腕の中に、ゆっくりと低い声で含めるように言う。眠りに落ちる寸前の弟に、おやすみ、とささやく時と同じ声音。
 腕の中のルフィが、自分自身を落ち着かせようと深く長く息を吐いた。その末尾が震えているのに気付きはしても、エースは彼が泣いているとは微塵も思わなかった。弟の強さを誰よりも知っているのは自分だ。
そう、きっと、彼自身よりも。
「―――ごめん、エース。エースの方がずっと、」
「それは言わねえ約束だ。……大丈夫。わかってる。」
それを聞いて、ルフィが意識して肩から力を抜いた。エースに縋って泣いていた、あの頃のルフィはどこにもいない。今の彼は、自分自身のハンドルをしっかりとその手に握った、一流のトップアスリートだ。
変わらないものなどない。弟も、自分も。
「……あーあ、情けねーの。だめだなーおれ、メンタル弱ェのかな」
「冗談言うな。お前がメンタル弱かったらトレーナーなんかいる意味ねえだろ」
どこまで自分へのハードルを高く設定するのだろう、このファンタジスタは。
いつかそのまま、高く跳んだそのまま、どこかへ飛んで行ってしまうのではないか。エースは時折、そんな漠然とした不安を感じることがある。
「―――ほんと、やめてくれ。おれの出番がなくなっちまう」
なかば本気で言って見せれば、吐息に混ぜてルフィが笑う。
胸元に埋めていた顔を上げて、ゆるゆると額でエースの首筋に擦り寄ると、心底から安心したように深く息をつく。余分な力の抜けたその肩に胸を撫で下ろして、エースも抱き締める腕の力をゆるく包み込むように変えた。
強く強くひたすらに抱きしめていたその腕で、今度は体温を取り戻すように背中を、髪を撫でる。
「ごめん。でも、すぐそばにエースがいてくれてよかった。……ちょっとびっくりしたけど、でもエースがいてくれたら、多分、大丈夫だってわかったから、これでよかったのかも。」
「……。」
「この合宿終わったら、エースのプレー、もう一回観たい。ちゃんと。……一緒に、いてくれるか?」
エースを気遣って控えめに問いかけた腕の中の弟。いつもはすがすがしいくらいにわが道を行く彼には似合わない、その気遣いが愛おしくて嬉しくて、エースは笑う。
返事は言葉にせず、その額に落としたキスに込めた。

そうして、代表選考合宿を終え、親善試合や遠征をこなしやっと迎えた次の休日。ふたりはいつもどおりに起き、いつもどおりにふたりで食事をとり、すこし買い物がてら散歩をして、夕食用の食材と少しだけ酒を買い、ふたりの家に帰った。
夕食はふたりで作った。普段は、トレーナー業の傍らスポーツ栄養学もかじっているエースが実験がてらに作ることが多いが、今日はルフィもエースの傍らでキッチンに立った。
立ったとはいえ調理とも言えないような、例えば野菜の袋を開けるだとか、それを洗うだとか、鍋の中身が吹きこぼれないようにゆっくりとかき混ぜながら見張るだとか、そういったことがせいぜいだったが、それでよかった。
傍にいたい。ただそれだけ。

そうしてゆっくり二人で夕食をとって、少しだけ酒を飲んだ。
最後のもう一杯をグラスに注いで、それを置いたローテーブルの前のソファに二人並んで座る。
自然に、ルフィの肩はエースの長い腕の中に抱え込まれる。
逆らわずに、兄の首元にころりと頭を転がせば、ちゅ、と軽いリップ音とともにつむじのあたりに唇が落ちた。
肩にかかる兄の右手に、宙ぶらりんの手をつなぐ。
それだけで、もう何も怖いものはない。

エースの手がリモコンを操作し、録画した映像を再生する。
4年前。ワールドカップ直前。ヨーロッパの強豪国の代表と組まれた強化試合。エースのスタートメンバー入りを決定づけたと言われる、至高の一戦。

青い人の波。煌めく星屑のスタジアム。熱狂のアンセム。地を揺るがす歓声。
それを全身に受けて、まだどこか幼く、屈託のない笑顔で笑うエースが、そこにいた。

◇◇◇

言葉はなかった。
弟は、エースの手を繋ぎとめたまま、食い入るように画面を見つめていた。
強く握られるかと思った手は、予想に反して大した力は込められていない。強張りも、力みもなく、ただただそこにあるのが当たり前だというように、ゆるく、だが確かに繋がれた二人の手。
それは今の二人の姿そのものだ。
今のエースとルフィ、ふたりの在り方そのものだった。

『…―――ッ、よく守りました!左サイドバックのサッチからセンターバックのハルタ、繋ぎます。ここは慎重に繋ぎたい日本代表。この後半の15分、選手は非常に苦しい時間帯を迎えています。息苦しいような無得点のゲームです。』

『おおっと!!キーパージョズ、ナイスセーブです!!これは危ない場面でした!』
『ああ、しかしカバーが非常に速いです。ワントップのポートガス、後半のこの時間帯でも運動量が落ちません!実に軽快な足取りでピッチの広範囲を支配しているように見えます』

ルフィの艶やかな瞳が、画面の明かりを反射している。
場面の切り替えに合わせ、ブラックダイヤの瞳の中を光の欠片が躍る。
瞬きもせず、目を逸らさず、ルフィはあの日のエースを見つめている。

『……ボランチ、マルコからのロングパス!……が、誰もいな―――、!?いや、います、飛び出したのはポートガス!!間に合った!間に合いました!!巧みなトラップでボールをキープ!!もちろんオフサイドはありません!!なんという反応!!なんという瞬発力!!!』
 
ぐ、とルフィが身を乗り出した。
さらりと黒髪が揺れる。なめらかな頬に影を落とす。
唇が、音もなく「エース」と呼ぶ。

『追いすがるディフェンダーは5人!5人です!ポートガス鮮やかなドリブルで駆け抜けていきます!ああ、鋭いカットに誰も追いつけません!1人!3人!!……!? いや、5人!!5人抜きです!!止まらない!!止まらない!!』

『そのまま打った!!……ッゴ―――――――ル!!』

どお、と画面が揺れた。
いや、揺れんばかりの歓声が、画面から爆発した。
興奮を隠しきれない実況の声。それさえもかき消さんばかりに轟く歓喜の声。どよめき。フラッシュの嵐。

画面の中で、20歳のエースが仲間たちにもみくちゃにされて笑っている。
鮮やかな緑色の芝の上に転がって、額から頬から首筋に伝う汗をキラキラときらめかせて、光の海に呑まれて笑っている。

手を引かれて立ち上がったエースが、観客席に向かって手を伸ばした。
背後のアングルから、カメラがその背中をとらえる。すべての観客が彼の虜となったその美しい一瞬。ただ、強く握りしめた拳を突き出したその先。
メインスタンドの、最前列の関係者席には。

「覚えてる。エース、おれを呼んだ。」
「あのとき、おれを呼んでくれたんだ。『ルフィ』って。『ここまで来い、ルフィ』って。」

17歳の、ユース代表に選抜されたばかりのルフィがそこにいた。
スタジアムの柵を飛び越えんばかりに飛び跳ね、全身で喜んでいる無邪気な笑顔。エースに応えて、誇らしげに突き出された拳。

カメラがその姿をとらえる。実況が気づき、視聴者に向け言葉を加える。

世界はまだ、ルフィという選手を知らない。

『ああ、家族席の弟へ向けているようです。モンキー・D・ルフィとポートガス・D・エースは家庭の事情で別の姓を名乗っていますが、幼いころから共に祖父の下で育ってきた兄弟であることを公表しています。』
『モンキー・D・ルフィは今回のU−18の代表に選抜されています。3歳の年の差があるこの兄弟ですが、いつかこの代表戦の舞台で兄弟の共闘がみられる日が来るかもしれません!実に、実に楽しみです!』

そこで初めて、ルフィがぎゅうとエースの手を握った。首筋に、柔らかな黒髪が擦りつけられる。画面から目を離さないまま、エースは両腕でルフィを抱きしめた。弟が同じように画面から目を逸らさずにいることを、彼も解っている。

――――2人が同じフィールドに立つ。その日が来ることは永遠にない。

エースとルフィは、それを知っている。
この数日後。ワールドカップ代表選手発表のその日、エースは事故に遭う。
不運としか言いようのない事故だった。朝の日課のランニングをしていた彼を、接合の甘かった建設資材が崩れ、襲った。

選手生命を、絶たれた。

慟哭の日々。あの身を焼くような後悔と苦悩の記憶は、今も生々しく二人の間に横たわる。
そしてふと振り向いた瞬間に、残酷なほど鮮やかにその姿を現すのだ。

しかし今、エースはトレーナーとして新しい競技人生を歩んでいる。エースのサッカーは今もなお生きている。生きてピッチを駆けている。
エースのサッカーはルフィへ受け継がれ、ルフィはより強い輝きを放つ、より美しいプレーヤーとして世界に君臨している。

ルフィがエースの臨んだA代表への道を歩み始め、エースが正式にトレーナーとしての資格を得たその日。
ふたりは、自分たちの手でお互いの足首へ新たな絆の証を結んだ。
接触競技である以上、手首や目に見える範囲にはつけられないそれを、ソックスの下に隠れる足首に自らの手で結んだ。
常に互いの傍にある。それを、互いに誓った。
だが、形はもはや必要ではない。ふたりはそれを悟った。

エースはルフィの傍にある。ルフィのプレーは、エースの人生そのものだ。選手としての、そしてトレーナーとしての、エースのこれまでのすべての結晶がそこにある。
今こそ、ルフィと共に、戦っているのだ。

「エース、ありがとう。」

「――――ありがとう……。」

腕の中から見上げながら、ルフィが言う。
何に対しての礼だったろう。ルフィ自身にもわからない。だが、兄と共に在れた今はなき日々が、兄と共に在る今この瞬間が、愛しくて愛おしくて仕方がなかった。

音もなく、澄んだ瞳から一筋ひかりが零れて落ちてゆく。
それを見てしまってはもう言葉もなく、エースは、静かにルフィにキスをした。


***

「―――あれ?ルフィさん、ミサンガ切れたんですか?」
「ん?ああ、あれかあ!」

コビーよく気づいたな、と何の含みもなく笑って言われてしまってはかえって後ろめたくて、コビーは苦笑しながら髪を乱した。
そりゃあいつでもあなたを見ていますから、とは、あんまりにも切なくて言えやしない。

ごまかす様に視線をずらして、マッサージ台に仰向けに横たわるルフィの膝に鍼を入れる。慎重に深さを調整して、ルフィに痛みや余計な刺激がないことを確かめた。

「あれな、切ったんだ。」
「え?ミサンガって自分で切るんでしたっけ?」

コビーの知るあの細く小さな飾りは、どちらかというとまじないや願掛けのようなものだったと思う。
いつでも肌身離さず身に着けて、自然に切れたときに願いが叶う。確かそんな様なものではなかったか。
「んにゃ、あれはお守りみてえなもんだったから。でももういらないんだ。」
そう言うと、ルフィはふと手のひらを胸にあてた。少し左寄りの、心臓の真上あたり。
「もう、ここにあるから。もういらないんだ。だからふたりで切った!」
ししし、と笑ったルフィは、それ以上を語ろうとはしなかった。
だが、コビーは気づいた。気づいてしまうのだ。残念なことに。
(ふたりで、か。かなわないなあ。)
そんな風に、ひとりでいるより当たり前の様に言われてしまっては、妬く気持ちも起きないではないか。
憎らしいほど清々しい。
そんな気持ちで、コビーは笑った。

そんなコビーの胸の内を、無垢に笑うルフィは知らない。




『――――さあ、いよいよ始まります。ワールドカップ出場をかけた第一戦。スターティングメンバーをご紹介します。今大会は積極的に新戦力を取り入れ、新しい世代の力を試す大胆な布陣を敷いてきています。』

『………ボランチにヴィンスモーク・サンジ。トップ下にはロロノア・ゾロが入ります。さあ、そしてセンターフォワードを務めるのはモンキー・D・ルフィ。目覚ましい速度で急激に力を伸ばし、A代表の座を確固たるものにしようとしている注目の選手です。』

『彼の姿を覚えているファンの方も多いでしょう。前回大会の代表選考の際、代表入りを確実視されながら、不慮の事故によって選手生命を絶たれた選手がいました。彼の名はポートガス・D・エース。その最後の試合、カメラは観客席で兄の背中を追いかける弟の姿を捉えていました。その弟は今、鮮やかな青色のユニフォームを纏い、この大舞台に立っています。兄は日本代表のベンチで、トレーナーとして弟を見守り、支えています。』

『新しく生まれ変わった代表チーム。一体どんな試合を見せてくれるのか、実に楽しみです。―――国家の斉唱が終わりました。選手がそれぞれのポジションに向かいます。……おっと、モンキー・D・ルフィ、立ち止まりました。どうしたんでしょうか。』


『―――――ああ、』


『……ご覧いただけましたでしょうか。モンキー・D・ルフィ、ベンチに向かって突き出した拳を、胸にあてています。その先には、静かに見守る兄、ポートガス・D・エースの姿があります。』

『奇しくもあの日、あの試合の実況も私が務めておりました。あのとき、兄から弟へ拳が差し出された、その光景を今でもはっきりと思い出すことができます。』

『彼の思いは、確実に弟へ引き継がれている。ふたりの間には、確かな絆がある。それを今日、彼らは、彼らのサッカーで証明します。』



『――――――ワールドカップ、アジア最終予選第一戦。今、キックオフです。』















ワールドカップおめでとうございますありがとうございます!行くぜロシア――――!!!!