※※※Caution! R18※※※


(3/3)



 が、
「――――で、ルフィ。さっきのあれはどういうことだ?」
 キスの寸前で止まり、先程の疑問を蒸し返した。
「―――――は、え、……今!?」
「今。日付変わったら言うっつったのお前だぞ」
「そうだけど……。おれもう勃ってるんですけど……。」
「おれだって。ホレ早く」
 言っているエースとて、もはや限界どころではない。ではないが、自分の手のひらでくるくる振り回されている弟が可愛いのもまた確かなのだ。
 エースが梃子でも動かないのを、そのいっそ爽やかですらある笑顔から悟り、ルフィはため息を吐いた。
 ずるずると這うようにしてベッドから上半身をはみだし、ベッドの下に隠しておいた包みを引っ張り出す。手に持って振り返ると、ゆったりと寝そべったエースは余裕のある顔で笑っている。むしろにやけている、と表現したほうが正しいかもしれない。
 兄の手のひらで転がされている感は否めないが、やっぱり彼の嬉しそうな顔を早く見たい、という気持ちには勝てない。ルフィは、うっすらとした寒さを紛らわすために足元で丸まった掛布団の中から黒いシーツを引っ張り出し、大きく広げてからエースの隣に潜り込んだ。
「誕生日おめでとう、エース。……おれ一人じゃ、よくわかんなくて。ベンとシャンクスに買うの手伝ってもらったんだ。」
 苦笑しながら差し出す包みは、二つ。
「こっちはおれから。で、こっちはシャンクスとベンから」
 嘘のつけない愛すべき弟。先程の遣り取りから予想はついていたものの、やはり彼が自分のために悩み、時間を費やし選んでくれたものだと思うと、感慨はひとしおだった。
「……ありがとうな。ごめん、さっき変なこと言った。疑ったわけじゃねえんだけど」
「心配してくれたんだろ?大丈夫、わかってる。おれもごめんな。」
 皆まで言う必要はなかった。大事な気持ちだけを伝えれば、弟は不器用な自分の言葉でも正確に汲み取ってその胸の内に収めてくれる。
 言葉にできない、尊敬にも似た想いを込めて、エースは弟の額に口づけた。
「開けていいか」
「うん」
「んじゃ、さきにこっち」
 そう言って手をかけたのは、シャンクスとベンからだというシックな包み。
 余計な宣伝の入っていない無地の包装紙やその重みから、そんじょそこらの適当なプレゼントではないことが既に分かって、エースは半ばおそるおそる箱を開いた。
 中には、上品なフォルムのペアタンブラーがワンセット。クリスタルガラスの模様と、火山をひっくり返したかのような重厚なデザインが美しい。
 しばらく言葉もなくそれをみたエースは、枕に崩れ落ちた。
「……バカラ……。本物だ……。」
「きれいだなー」
「そうだな……。お前、おれのいないとこでこれに触るなよ……。」
 よくこの弟が一度も落とさずにここまで持ってきたものだと思った。シャンクスとベンも要らぬ賭けをする。エースは照れと感謝とが入り混じった複雑な気持ちを抱えて、溜息をついた。
「くっそ、すげー嬉しい。あとで礼言わなきゃ」
「しし、よかったなー」
 エースより嬉しそうな顔をして、ルフィが笑った。
 その笑顔には、意地も小さなプライドも全て忘れて、素直にうん、と返事を返すことができる。
「お前のも開けていいか?」
「うん。てかおれの先に開けてもらえばよかった」
「なんで」
「いや、霞んじゃいそうで」
「何言ってんだ」
 この弟が自分だけを想って選んでくれた。その事実だけで嬉しいのだと、いつになったら気付くのだろう。それを口に出して言えない自分も自分だと、エース自身も思わないこともないのだが。
 細身のすらりと高さのある箱。こちらもある程度の重みがある。
 ギフトシールのみの黒い落ち着いた包み紙をゆっくりと剥がし、中から出てきた鮮やかなターコイズブルーの箱を目にした途端、エースは眼を剥いた。
「……―――っげ、ドン・フリオ、……レアル!?おまえ、え!?」
「お?すげえ喜んでる」
「喜ぶなんてもんじゃねーよ!お前これいくらするか知って、」
「知ってるよおれが買ったんだもん」
「なんなのお前!男前すぎかよ……!」
 いっそ震える手で箱からそろそろと取り出した瓶は、まるで香水のような洗練されたデザイン。中の琥珀色の液体がとろりと揺れ、さぞかし芳しい香りを放つだろうと思われた。
 伝説と呼ばれる男が作り上げたとされる、最高クラスのプレミアムテキーラ。一度拝んでみたいと思いつつ、その値段と希少さから長年手を出しかねていた、至高の一瓶がまさにここにあった。
「……エース、前ベンが仕入れてきたこれのアネホ飲んですげー喜んでたから。んで、これの上もいつか飲んでみてえな―って言ってただろ。」
「……お前、覚えてたのか」
「しし」
 うつ伏せに抱いた枕に顔を埋めて、ルフィが笑う。エース、嬉しい?と無邪気に尋ねるその問いに、半ば呆然としたまま口を開く。
「……嬉しいよ。すげえ嬉しい。」
「ししし。誕生日おめでとー」
「………、ありがとう……。」 
 瓶ごと弟を抱きしめて、エースはもう一度ありがとう、と言った。
「でもお前、こんな高えの、」
「値段なんか関係ねえよ。別に高ェもんあげたくて買ったんじゃねえ。おれがエースにあげたいって思ったもんがたまたまその値段だっただけだ」
「………どうしよう、うちの子イケメンすぎる……。」
 更に腕に力を込めれば、瓶割れちゃうぞ、と腕の中でルフィが笑った。確かにせっかくのプレゼントたちが割れてしまっては困るので、エースはそれらを大切に箱に入れ直してサイドテーブルに置き、改めて思いっきり弟を抱きしめた。
 変な所で真面目なその行動にけらけらと笑いながら、ルフィは兄の広い背中に腕を回した。
「しし、よかったー喜んでもらえて。エースの嬉しい顔好きなんだ、おれ」
「……うん」
 そう言っているルフィが一番嬉しそうだった。弟のそういうところが愛しくて愛しくて、想いは色褪せるどころか、熟成された酒のようにますますその深みを増していくようだった。
 感謝の言葉には収まりきらない愛しさを彼に伝える手段について、今のところエースはひとつしか持ち合わせていない。
 横向きに抱き合っていた身体を少し離し、弟の身体を仰向けに転がした後、エースはやわらかな唇を目掛けていささか性急に覆いかぶさった。
 素直に開かれた唇からするりと侵入すると、ん、と鼻にかかった声が漏れる。ルフィの方からも待ちわびていたかのようにしなやかな腕が首に回り、やわらかな舌が差し出され、ゆるりと絡んでエースを迎え入れる。まるでこの後に控える挿入を予感させるような淫猥な動きに、身体の中心ががちりと熱く張り詰めた。
 ディープキスの延長線上のように、ゆっくりと頬へ、顎へ、そして首筋へと、唇を移動させてゆく。
 首筋に舌を使って吸い付いた途端、息を詰まらせてルフィが小さく喘いだ。
「……っ、えーす、」
 刺激に身を震わせて、すこし不安げに自分を呼ぶ弟の声にエースは一度顔を上げた。間を空けたせいなのか、酒の所為か、それとも気持ちの昂ぶりからか、お互いに一つ一つの刺激に敏感になっているようだった。生来感じやすい性質のルフィは尚更だろう。
 安心させるように微笑んでやって、だいじょうぶ、と低く囁く。髪を撫で、唇で瞼をなぞると、ほう、と息をついて肩の力を抜いたのが分かった。
 溺れる予感に恐れを感じるのは一瞬だ。
 あとはこの手を引いて、快楽の波に一緒に呑まれてしまうだけ。
「―――! ぁっ、ん!〜〜〜…ッ!」
 白い肌に血色がやけに生々しい乳首に舌を這わせると、激しく吸ったわけでもないのにルフィはびくりと肩を震わせてエースの肩に爪を立てた。
 顔を背け瞼を閉じ、声を殺して刺激に耐えはしても、元凶であるエースを押しのけはしない。
 押し殺しきれず漏れる声が快感に濡れているのを確かめてから、唾液を絡めて更に激しく舐めまわした。右の乳首が充分に濡れ充血したところで、そちらは右手に任せて舌は左の乳首を責める。
 押し退けたいのか、それとも押し付けたいのか自分でもわからないのだろう。甘い疼きに身悶えしながら、ルフィは胸元のエースの頭を抱き、髪に指を絡めて掻き乱した。
 空いた手のひらで、引き締まった腹を、足の付け根を、尻を太ももを撫でまさぐると、自分の身体の下で、ルフィの白い脚が悶えもがき、シーツの波間を泳ぐように何度ものたうつ。
 激しく息を乱しながら、声を耐えるその表情が辛そうで、一度胸から顔を上げて滲む涙をキスで吸い取った。
「ルフィ、……ルフィ。」
「っん、えー、す、エース…!」
「ん。ルフィ。……大丈夫だから、」
「……や、ばい、なんか、すごい、全部、びりびり、きて」
「気持ちいいんだろ?おれもだよ。……大丈夫だから、我慢しなくていい。」
「エー、ス、……ぁっ!あっ!!」
 言いながら、両手で脇の下を鷲掴み親指の腹で濡れた乳首を捏ねまわすと、途端に果汁を滴らせるかのような濡れた声が上がる。
 立てた膝の間に腰を入れ、熱く張り詰めた勃起同士を擦りつければ、ルフィの最後の枷が外れた。揺すり立てるたびに色めいた喘ぎが熟れた果物のような口から漏れる。両の脚は手を加えずともゆっくりと大きく開かれ、エースを受け入れた。
 エースの赤黒い怒張がルフィのそれを嬲る様はひどく淫猥で、見えはせずとも熱く濡れて擦れるその感触だけで、熱い血がまたそこを目掛けて集まってゆくのがエースにはわかる。先走りがねちゃねちゃと音を立て、摩擦を減らし二人の性感をこれでもかと高めてゆく。
「……ッは、ルフィ、」
「あっ、あっ、ッン、えーす、はあっ、えーす……っ」
「や、べえな、これ、…ッ!お前、一回このままイっとけ、」
「やァ、…ッだ!ァっ!んぅ、」
「は、何で。……、ッ、つれえだろ……?」
 思いがけない拒否に少々驚いて、腰の動きは止めないままに弟の髪を撫で問いかけた。エースの動きを止めようとするかのように、震える脚がエースの胴を挟み、肩にしがみつく指に力が籠った。
「エースの、で、イキたい…っァッァッ、〜〜〜ッ!エース、っが、いいっ!」
 エースがその言葉を理解する前に、ルフィがそろそろと手を二人の身体の間に差し込み、手のひらを上に向けてエースの男根を掬い上げた。優しげなその刺激に思わず息を詰めたエースに、ルフィは切なげな眼をして言った。
「……これ、入れて、おれん中。……っン、今、入れてくれたら、多分すっげえ、きもちいい、とおもう、から」
 な、と汗にまみれた弟が、いっそ無垢とも言える仕草で同意を求めるその様を、エースは半ば呆然としながら見ていた。
 頭のどこか奥で、冷静を保っていた最後の糸が音を立てて焼き切れた、その音を聞いた気がした。
「―――っゃ、アぁん!エース!!」
 がしりと膝を掴み強引に押し開いたその中心に、エースは思い切り音をたててむしゃぶりついた。
 だめ、だめ、と切羽詰まった様子で鳴く弟の声は、もはや悲鳴だった。
「ひぁ、……イっ、く!エース!イっちゃう、からあ…っ!」
「我慢しろ。ちゃんとイかせてやるから」
「〜〜〜〜っ!」
 サイドテーブルの引き出しからローションのボトルを取り出し、右手に惜しげなく垂らす。震える弟の肩を逆の手で撫でて宥めながら、手のひらの中でねとねとと弄び、体温を移した。このまま使おうものなら、その冷たさに弟が身体を強張らせてしまうからだ。
 頭の中がぐらぐらと煮えていても、目の前にうまそうな獲物が横たわっていても、今一歩冷静に踏みとどまれるようになったのはここ最近のことだ。おかげで、いつまでも真っ白なルフィを思う存分弄ぶことができる。年の功とはこのことかと、エースは思う。
 ローションが体温に馴染んだことを確かめて、エースはルフィの脚の間に濡れた手を潜り込ませた。わざとぐちゅりと音が鳴る様に股間を揉み、袋を撫で、肉の狭間を指でなぞってひくひくと震える穴に中指を捻じ込むと、ルフィがまた切羽詰まった声で鳴いた。
「〜〜〜ッ、ゃ、も、ほんとに、ムリ…ッ!えーす、もういいから、…ぁ…ッ!」
「待て待て。もうちょっとだから、いい子にしてろ」
「くぅ、ン、…バカ、やろぉ〜〜〜ッ!ッア!」
「可愛くねェこと言うのはこの口か、コラ」
 言っている内容の割には優しげな仕草で、エースはぽろぽろと涙を零す弟に口づけた。
 髪を撫で、深いキスでルフィを宥めながら、抵抗なく抜き挿しを繰り返す指を一本、また一本と増やしてゆく。戯れに中指でくい、とルフィの性感の塊を捏ねると、魚のようにびくりと跳ねた弟はキスに混ぜてくふ、と喉を鳴らした。
 そうして、ルフィの指が必死さを増してエースの髪に絡みついた頃、エースはゆっくりと身体を起こし、暴発寸前のそれをルフィの肉の狭間に数度擦りつけた。
「……すげぇな。もうこれだけで入りそー…」
「ぁ、…っ、…っ、はい、る、はいる、から、」
「ん。……入れるぞ」
 ルフィの膝裏を腕に引っかけて腰を持ち上げ、エースはゆっくりと固い勃起を濡れた穴へ埋めた。
 言葉にならない悲鳴をあげて、ルフィは身体を内側から侵略される感触に耐えている。焦げ付きそうなほどに焦がれて焦がれた熱い肉の感触に、じわりと先端から先走りが漏れ出したのをエースも悟った。
「……ぁ、ぁ、き、もち、い、…エース、えーす、」
「おれも、…ッ!動くぞ、ルフィ」
「ッン、ん…!……アぁ!!」
 突き上げた瞬間、ぐちゅりとひどく粘着質な音がした。ずるりと引き抜いて内壁を抉るように突き入れる。もはやブレーカーはどこかへ吹っ飛び、抑えに抑え付けられた獣の本能がやわらかな肢体に牙を剥いた。
 ルフィはほとんど声も出せないほどに感じている様で、激しい呼吸にか細い嬌声を混じらせながら、ひっきりなしに喘いでいる。いつかもわからず、二人の腹を精液が既に濡らしているところを見ると、挿入の衝撃ですでに達してしまったようだった。それでも収まらない飢餓感が、エースに揺さぶられるまま感じ入る恍惚の表情に露わだった。
 互いの濡れた肉を擦り合い、身体の奥を抉り、あまりの快感にエースも軽く数度ルフィの体内に射精した。そうして、ふたりほぼ同時にごぼ、と音がしそうなほど大量の精液を吐きだしてやっと、エースの律動はゆるゆると止まった。
 二人の獣のような荒い息だけが、部屋の中に響いて溶けた。
「……っは、はぁっ」
「―――ハっ、…っ、ルフィ、大丈夫か」
「ッン、…ん、」
 甘い甘い余韻が抜けきらないのだろう。断続的に身を震わせながら、ルフィは小さく頷いて見せた。
 ずるりと一度濡れきったそれを後ろから引き抜くと、しばらくルフィの肩に顔を埋め、呼吸を整えた。そうしてようやく肩の上下の揺れが治まったころ、エースはゆっくりと身体を起こし、力強い腕でルフィのくたりと力の抜けた身体を抱き起こした。
 ベッドヘッドに背を預けた自分の胸にルフィを凭れさせ、猫を愛でるように手のひらと唇で愛撫すると、ルフィは甘い涙に溶けた飴玉のような眼で、ぼんやりとその顔を見上げた。
「……エース…?」
「な、ルフィ。せっかくの誕生日プレゼント、早く飲みてえんだけど」
「………いま……?」
「うん。今。」
 飲ませてくれるか、と聞けば、激しいセックスの名残にいまだ呑まれたままの弟はよくわからないながらエースが望むままに頷いてくれる。ルフィがくたくたにとろけているのをいいことに、エースは己の馬鹿げた望みを自ら叶えることにした。
 誕生日ありがとう、などと意味の解らないセリフを頭の中で呟いて、エースはテキーラの瓶に手を伸ばした。
「……ルフィ、ごめんな。ちょっとだけ自分で起きて」
「んん〜〜…」
「ごめんな。ちょっとだけだから」
 骨までとろけてしまっている弟を口先で騙しだまし、膝に抱えて座らせる。真正面から唇をついばんで、細い両腕を自分の首に回させた。きょとん、と潤んでけぶる眼で首を傾げてみせたルフィに、性懲りもなく股間に熱が溜まるのを自覚しながら、エースはボトルの栓を開けた。
 途端、ふわりと空中に舞う、コーヒーやキャラメルにも似た香ばしい様な甘い様な芳香。原材料だけではない。それらをはぐくんだ土や水、熟成された樽の香りが絶妙なバランスを保ってこの一瓶の中に凝縮されている。香りからして極上と言われるその所以を思い知り、エースはその酒が模す名の持ち主に心から敬意を覚え、そして懺悔した。
 例えばこれからエースのすることが製造主が知れたとしたら、不埒だ不届きだと非難されても仕方がない。仕方がないが、そうなったとしてエースは死んでも後悔はしないだろう。
 ロックも、ショットも、ストレートでさえも、これを超える最上の飲み方などありはしない。
 エースはもう一度形ばかりの懺悔を頭の中で呟いて、テキーラの雫をルフィの鎖骨の窪みにゆっくりと注いだ。
「……? エース…?なに」
「あーだめだめ。動くなよ。絶対」
 ただ一つの指輪だけが揺れる象牙の器に、芳しい琥珀の水溜り。奇跡の光景を信じられないような気持ちで眺め、瞼の裏にしっかりと焼きつけたあと、エースはルフィの首筋に顔を埋めた。
「―――ん…っ」
 じゅる、とはしたない音を立てて酒を啜り、窪みに舌を這わせた瞬間、びくりとルフィが肩を震わせた。その瞬間、貴重な一滴がつう、と胸を伝って落ちたのを追いかけて乳首にむしゃぶりつくと、今度こそルフィは悲鳴を上げて身を捩った。
「……ッなに、やって、……ゃ、あ…っ!」
「………うめえ……。何だこれ……。」
 半ば呆然としてその残り香と喉を焼く上質なアルコールの味を堪能していると、ようやっと正気に戻ってきたらしい弟が抵抗し始めた。
 力なく突っ張る両手ごと抱き込んでもう一度渾身のキスで落とし、反対の鎖骨でも同じことをした。
 最大の功労者である弟に口移しで分け与えて、唇を擦りつけたままその味を尋ねれば、いい具合にとろけてしまっている弟は無言のままエースの唇に吸い付いてくる。
 おいしい、ということなのだろうが、いかんせんブレーカーの外れている今のエースには刺激が強すぎた。あっさりと流されてルフィのやわらかい肌に沈み込み、そのまま2ラウンド目が始まった。
 芳醇な香りを纏ったルフィのやわらかい肌を抱きながら、生きてて良かった、とエースは心底そう思った。馬鹿げていると誰に笑われてもいい。それでもどうしようもなく愛おしいのだ。
 生産性はない。どこまでも不毛なはずのこの行為が、こんなにも気持ちよく、満たされているのは何故だろう。
「……えー、す、…ッ、ぁ、エース…!」
「…ん、…っ、なに、ルフィ」
「エース、……だいすき、だぞ」
「……、」
 は、と思わず息を呑んだ。
 どろどろにもつれ抱き合っている最中とは思えないほどに、澄んだ清々しい顔で、ルフィが笑っていた。
「好き。…ンっ、すげえ、すき、えーす」
「……ルフィ…。」
「エース、…すき。大好き、だぞ…。」
 あいしてる。
 エースの首を力の入らない腕で力いっぱい抱きしめて、ルフィが滅多に言わない言葉を囁いた。
 おれには似合わねえよ、エースに言ってもらうのはすげえ嬉しいんだけどさ。そういって苦笑していた、その言葉。
 途端、心臓がぎゅう、と音を立てて熱く焼けた。
「ルフィ。……愛してる。おれも愛してる」
 ありがとう。
 この言葉を心底から言えることにこそ感謝しながら、エースは言葉にできない気持ちを込めて弟に口づけた。ただでさえどろどろに溶けたふたつのからだが、ずぶずぶと甘い沼の底へ沈んでゆく。黒いシーツの波音に混じる艶やかな嬌声が、朝まで絶えることはなかった。
 サイドテーブルに再び取り残されたテキーラの瓶だけが、心なしか辟易として二人の長い夜を見守っている。
 
 さて、その日を境に、兄弟の住む家の棚には洗練されたデザインの瓶がひとつ加わった。
 伝説と謳われたこの銘酒を目にする度、なぜか弟の方が心なしか頬を赤らめて目を逸らすようになり、片割れは何かを想うように甘く甘くため息を吐くようになったというが、その理由を知るのもまた、その瓶だけなのである。





 ――――そして、同じ日。
 遥か遠く離れた西の夜空の下で、ある男がひとりグラスを傾けていた。
 見事な夜景を見下ろすオフィスの窓際に置かれた盃は、3つ。
「……誰のためのグラス?」
 後ろからかけられた女の声には振り向かず、男は答えた。
「兄弟が、今日誕生日でね。」
 彼女が物言いたげにしているのには気づいていたが、それ以上は何も語らず、男は最高級と謳われたテキーラを、惜しげもなく3つのグラスに注いだ。
 誕生日おめでとう、エース。
 小さく小さく、その国の言葉ではない母国の言葉で呟いて、男は一人、グラスを鳴らした。











もはや恵方巻き(意味深)だって言い張った方がいいんじゃないかって

エースさんお誕生日おめでとうございました。
自分がやってみたいありったけの夢かき集め詰め込んだのできっとゆるしてくれるとおもいます。
いい夢見ろよ!

20150202 Joe H.