(排球)

「さーくー」

1日の終りのHRの後のざわめく教室。振り返った先、後ろのドアのところ。突然の登場に加えて突然の呼び出し。にっこりと、こちらが照れてしまいそうなほど綺麗に笑う人物にクラスメートたちがより一層、さっきよりもざわめき出した気がした。
1つ上の、同じ部活の先輩は色んな意味で有名だった。元々"鉄壁"と評されてトップクラスの強豪と言われるバレー部ってだけでも有名だけど。それがなくても、先輩たち、特にこの人は。
所謂二枚目だとかイケメンだとかに分類されるであろうこの人は工業高校よろしく数少ない女子からはもちろんのこと、ちょっとそういった趣味を持っている人たちにも大層人気で。確かにカッコいいし、無邪気に笑うときは可愛くもあるけれども。同じ部活だから分かると言うか少々性格に難がありすぎる、気もすると思っているのはきっと、特にバレー部では俺だけではないはずだ。

「さーくーちゃーん」

僕の考えを見抜いたかのように、にっこりと、惚れ惚れするような笑みを携えたままでこいこいと手招かれた。無視してんじゃねぇよと顔に書いてあるのに気付いたのはきっと絶対今この場所じゃ僕だけだろう。ああ、僕、何かやらかしたかな。そんな記憶は特にないんだけど…。
いいなって羨むような眼差しと大丈夫かって心配そうな視線をいっぱい浴びながら、教科書なんかをまとめたリュックを背負って二口さんの元へと駆け寄った。

「作並くんは先輩を待たせるんですかー?」

目の前に立つや否やむぎゅっと摘ままれたほっぺ。ちょっと痛い。あまり力は入れてはいないんだろうけど、やっぱり男の力なわけで、やっぱり痛い。いつもは僕よりも高い位置にある顔が今は口をへの字にして目の前にある。ちょっとどころか、すごく恥ずかしい。

「ぅぐ…ご、ごめんなさい…」

じっと間近で見つめてくるまあるくて綺麗な瞳からそっと目を反らして謝れば摘ままれたほっぺから手が離れて、ぺちり、両のほっぺを押し潰された。

「ぷっ…!さく変な顔!」
「二口さんがやるからじゃないですかー!」

綺麗な顔を可愛らしく綻ばせながら。吹き出して肩を揺らす二口さんに対してむすっとすればぽんぽんと頭を軽く撫でられて、ごめんごめんと軽く謝られた。むすっとしたけど、別に怒っているわけではない。むしろ僕のほうが怒られなきゃいけないんだろうけど、そんなことはもう忘れたのか、二口さんは僕の頭に手を乗せたままゆっくりと撫でた。

「えっと…、二口さん?」
「んー」
「何か僕に用事があったんじゃないんですか?」
「いや。別に」

え?と声をあげる僕の次に、二口さんも同じように声をあげて首を傾げた。何もないのに、わざわざここまで来たんだろうか。2年の教室は3階で、1年の教室、ここは4階。たった1つ上の階でだけど、案外それがめんどくさかったりする。普段の二口さんなら隣の教室へ行くのすらめんどくさいと駄々をこねそうなものなのに、と思っていたらまた、二口さんの顔が目の前にあって驚いた。

「さく。今すんごい失礼なこと考えてないか?」
「すみません!考えてないです!」
「考えてないのに何で謝ってんの?」
「え?あ、えへへ…」

それもそうだなと、笑ってみたけど実際は失礼なことを考えていたのだから何も言えない。
でもまあ、何かやらかして怒られるってわけじゃないからいいかな。

「よしっ部活行くぞ」
「あ、はい!」

ん、と差し出された二口さんの左手に首を傾げながら、何となくそこに自分の右手を乗せてみた。白くて、細くはないけれど爪も綺麗に整えられた暖かい手はぎゅっと僕の右手を包んだ。
ここがまだ自分の教室だってことを忘れてて、明日友達に何かからかわれたりするかなあなんて思いながらもなんだか嬉しいような楽しいような。だから僕も手を握り返した。
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