(青祓/性転換/杜山くんと志摩さん)


「杜山くんの家、祓魔屋ってほんまなん?」
「え?」


いきなり、ふと思い出したかのように聞かれた。

いつもの通り、塾が始まる少し前に教室へと来た僕。しかしそこにはいつも一緒にいる燐はおらず、いつも早く来ている神木くんも勝呂さんや三輪さんもいなくていたのはいつも遅刻ギリギリに来ていた志摩さんだけだった。


「祓魔屋」
「え、あ…うん、一応……」
「せやったら薬とか詳しいよね?」
「それは…え、っと…」


席に座った僕の前に立って聞いてくる志摩さんはなんだかいつもより少し…ほんの少し興奮気味な気がする。そして若干瞳というか顔もキラキラしている、ような気もする。


「それなり、だと思うよ」


でも、勝呂さんや神木くんのほうがよく知ってるかも――、なんてえ言葉は志摩さんには届いてないみたいだった。だって、なにやらメモ帳を取り出してかわいらしいペンで何かを書いている。
それなりとは答えたけど、特別薬に詳しいわけじゃない。草や花の名前は多少知っていることもあるけど、だけれどそれも自分にしか分からない名前を草とかにつけてテストのとき雪ちゃんを落胆させてしまったこともあるし。多分、僕とニーちゃんにしか分からない、と思う。


「よしっ」


メモを書き終えた志摩さんが強く頷いてまたこちらを向いた。
志摩さんには分かるところだけ答えよう。分からないところは勝呂さんに聞いてもらうようにしてもらえば、きっと大丈夫なはずだ。


「杜山くん!」
「は、はい!」
「惚れ薬の作り方教えて!!」
「はい!……え?」


惚れ、薬…?惚れ薬とは、もしかしてあの惚れ薬のことだろうか?その薬を人に飲ませて、自分をだったり初めて見た人を好きになってしまう感じの、あの薬のことだろうか…。
……っていうことは、志摩さん、好きな人いる…のかな……?


「アカン、かな…?」
「えっと…なんで、その薬がいるの…?」
「え、えー…と……杜山くんそこ聞くぅ?女の子のデリケートな部分やで?」
「あ…ご、ごめん…!」


女の子のデリケートな部分、なんて言われてはっとする。それはそうだ。女の子の好きな人を簡単に聞くなんて、そもそも惚れ薬なんて好きな人がいなきゃ必要ないもんね。うん、そう、そうだよね……うん?なんで僕はちょっとしんぼりしてるんだろ…?


「杜山くん?」
「えっ?!あ、あっ…の…」


考え事をしていたらいつの間にか志摩さんの顔がこれでもかって近付いていて、びっくりした。
驚いて立ち上がった僕に志摩さんも一瞬驚いて、だけどそのあといつもみたいにへらぁって笑った。


「あははっ、杜山くんおもろいなあ」
「え…ご、ごめん……」
「うん?何で謝るん?ウチ、おもろい人好きやで」
「へ?」


恥ずかしくて逸らしていた目線を、志摩さんの方へと戻したら丁度教室のドアが開く音がしてそちらを向いてしまった。


「お、志摩今日は早いなー!」


元気いっぱいに入ってきた燐は僕たちに手を挙げながら教室へと入ってくる。


「あんな杜山くん。さっきの件、できれば杜山くんに教えてもらいたいから考えといてぇな」


僕だけに聞こえるように、こっそりと、それだけ言った志摩さんはこちらに歩いてくる燐へと駆け寄って勢いよく抱きついた。


「……」


なんで、なんで僕なんだろ……。勝呂さんのほうが、詳しいだろうに、なんで、僕なんだろう…。
それになんで、…なんでこんなに心臓がうるさいんだろ…、なんで、ちょっと嬉しいとか、思っちゃってるんだろ……っ。

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