幸せだと、何度も何度も感じてきた。子供の頃から、小さなことから、いいことがあればそれが幸せだって。手を突っ込んだポケットから飴が出てきただけでそれだけで幸せだった。
今だってそうだ。大好きな人と結婚して、大好きなサッカーを続けられて、毎日毎日、笑って過ごせるそんな今が凄く幸せだ。


「円堂、お前、少しは焦ったりしないのか」
「え?あ、うん」
「うん、ってお前…」
「いや、俺ってすごい幸せ者だなって」


病院の、とある分娩室の前。ドアの前を右に左に行ったり来たりを繰り返していた風丸がジッとソファーに座ったままの俺に声を掛けた。俺の返事と言葉にキョトンとした風丸はゆっくりとソファーへと腰掛ける。


「毎日好きな人といて、毎日好きなサッカーできて、毎日笑って過ごせて、それで新しい家族も今出来るんだって、思ったらさ」
「…円堂……」


笑った俺に、風丸は昔となんら変わらない少し呆れたようなそんな笑顔を浮かべた。


「なあ、風丸」
「ん?」
「また会えるって、言ったよな」


誰に、とは聞かれなかった。風丸も俺も、分かりきっているから。まさかここで、今この瞬間にアイツらの話が出るとは思っていなかった風丸は不安気に俺を見てくる。


「別に、暗い話じゃないって」
「…じゃあ何だよ」
「風丸はさ、どうやったらまたアイツらに会えると思う?」
「……、…来世、とかそんなんじゃないのか?」


無言、無言と無言が数秒続いたあと、風丸は顔を背けながら答えた。その行動の意味が昔に確証も無くまた会えると言ってしまった罪悪感からなのか、それともただ単に来世なんていうものを信じていることに対する恥ずかしさからなのかは分からない。
いきなりどうしたんだ、と心配そうに眉を顰めながらチラリとこちらを見てくる風丸の頭をソッと撫でた。


「会えるんだ」
「…?」
「もうすぐ、アイツらに会える。そんな気がするんだ」


遠くで、割り裂けんばかりの泣き声が耳に届いた。2人して立ち上がり、開いた分娩室のドアへと駆け寄って行けば、マスクを外しながら先生が出て来た。中に入って良いと許可を貰い、早足で大好きな人の元へと向かう。


「夏未!」
「円堂くん」


まだ横になったままの夏未に駆け寄れば相当頑張ったのだろう、額には汗が浮かんでいて、疲れきっている。


「円堂くんの、言った通り…」


小さく笑いながら腕に抱いた布を見せようとしてくれる夏未の頭を撫でて、覗き込む。
そこにはたった今うまれた小さな命が2つ。
やっと、やっと会えた。やっと、会いにきてくれた。


「ありがと、ありがと、夏未」
「何言ってるの円堂くん、言わなきゃいけないのは、ありがとうじゃないでしょ」
「…うん、」


小さな命は、2つ一緒に抱えてもすっぽりと俺の腕に収まった。ずっと、待ってた。あの日から、また会えるって、教えてもらったあの日から。絶対、また会えるって信じてた。また一緒にサッカーするんだって、大好きなサッカーを、大好きなお前らとするだって。これで、また出来るんだ、あの頃の…一番幸せで、大好きだったあの頃のサッカーが。


「おかえり、ヒロト、リュウジ」


今度は、きっと俺が幸せにするから




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