――…どう償ったって、許されないこともあるんだよ。

そう呟いたこの子の顔は見るに耐えなかった。君が昔みたいに笑わなくなったのはいつからだっけ、とただ一言呟いたきり黙りきったこの子の横で考えてみる。清々しいくらいの青空に、春の心地良い風が頬を撫でた。遠くまで一望出来る足場の小さなこの場所で、落ちたら危ないなんてことも気にせずに、思考を巡らせる。
嗚呼、そうだ。あの時だ、父さんから人間を辞めるように言われたあの日。宇宙人として生きて、サッカーで人を傷付けるようになったあの日からだ。


「緑川」


前は呼んだら、笑顔で振り向いてくれたのに。緑川、君が気に病むことなんて無いんだよ。悪いのは、…悪いのは誰なんだろうね。父さんを信じた僕たちが悪いのか、僕たちに人間を止めて宇宙人として生きるように言った父さんが悪いのか。きっと誰が悪いかなんて誰にも分からないんだよ。だから緑川、君が気に病むことじゃないんだよ。

なんて言葉は幾度と無く、繰り返した。でもそんな言葉で緑川の心が晴れることなんてないのは分かっている。分かっているけど言わずにはいられない。


「…ヒロト、」
「うん。分かってるよ、こんな言葉で緑川が納得しないのは」


分かってる、分かってるから泣かないで。
ポロポロと頬を流れる涙を拭えば余計に涙を溢れさせた。大丈夫だよ、と何が大丈夫かも分からずに呟いて、緑川の頭を頬を撫でて抱き締める。こうやって静かに泣く緑川を抱き締めるのは何回目だっけ。背中を軽く叩いて、さすって、小さな子供をあやすようにすれば泣き止んでくれる。ほら、もう涙は止まった。


「ねぇ、リュウジ」
「…なぁに、ヒロト」
「大好きだよ」


少し赤くなった瞼にキスをして、頬に鼻に顔にいっぱいキスをする。嫌がることをしないリュウジはされるがままに受け止めてくれる。


「リュウジは、俺のこと好き?」
「…好きだよ、」


顔を一度離してそう聞けば、緑川は小さく笑って俺の唇に近付いてキスをしてくれる。そうして、また君は泣く。いつも、こうだ。


「俺は、幸せになっちゃダメ…なんだよ…」
「…そっか」
「だから、ヒロトとも一緒にいちゃいけないんだよ」
「そんなことないよ」


またギュッと抱きしめれば、リュウジは言葉を返すことなくされるがままに俺の腕の中にいる。


「俺はリュウジのそばにいれたら幸せだよ」
「…俺もだよ。俺もヒロトがいてくれたら幸せなんだ。でもね、でも」
「そうだね。幸せになんてなっちゃダメなんだよね」


色んな人を傷付けて悲しませて、大好きなサッカーまでも人を傷付ける道具にした俺たちは幸せになんてなっちゃダメなんだよね。
うん、でもねリュウジ。きっと俺たちが幸せになれないのはこの世界だけなんだよ。


「…ヒロト…?」
「リュウジ、次はいっぱい一緒にサッカーをしよう。また、おひさま園で南雲や涼野、みんなと楽しく過ごして、今度は宇宙人とか無しで円堂くんや風丸くんたちに出会おう。そして、またサッカーをしよう」
「…うん、しよう。みんなと、またサッカーしよう」


約束しよう、だから泣かないで。そう言いながら今度はリュウジが俺の目元を優しく撫でて涙を拭う。


「あはは、何で、泣いてるんだろ」
「なんか、もう分かんないね」


2人して泣きながら笑って、握り合った小指に互いにキスをして、そのままゆっくりと身体を傾けた。


「さよなら、リュウジ」
「さよなら、ヒロト」


ふわりと身体全体を包む春風の中、どこかで俺とリュウジを呼ぶ声が聞こえた気がした。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -