今日は朝から、いつも以上に体調が良かったから中庭に行こうって思った。
いつもなら京介がいるときに一緒に行くのだけれど、たまには1人で散歩するのも悪くないかなと思う。

車椅子に乗って、慣れた道を通って中庭へと出る。平日の昼間とあってかお見舞いの人は少ないけど、暖かな陽が差す中庭には俺と同じように散歩をしている人が数人いた。
中庭をぐるりと一周して、木陰の影へ入ったところでふと1人、しゃがみこんでいる小さな男の子の姿が見えた。

気分が悪いのだろうか?それともどこか怪我でもしてしったのか。どちらにしても、一応病院の敷地内だとしても1人でこんなところは危ない気もする。そして弟がいる身としても、ほっておくこともできずに、ゆっくり近づいて声をかけた。


「僕?大丈夫かい?」


ビクッと身体を揺らした男の子はゆっくりとこちらを振り向いた。目にいっぱいの涙を溜めて。どこか痛いところでもあるの?と聞くと首を振るので怪我などではないらしい。


「お母さんと一緒に来たの?」
「っ…」


聞いてはいけないことだったのか、男の子の目に溜まっていた涙がぽろぽろと溢れだしてしまった。


「ぼ、ぼく…っ、りゅう……と、きょっ…は、…っひく…っ」


うーん…話してくれてありがたいんだけど、つっかえすぎてて言ってることがよく分からない。とりあえず泣き止んでほしくて、男の子の頭を撫でた。サラサラしていて綺麗な髪だなって、泣いているのに申し訳ないけど思ってしまった。



「ぅ…っひっく…」
「うんうん、泣きたいときは泣かなきゃね」


緒を切ったように泣き出して、俺の膝に顔を埋めて泣く男の子の頭をゆっくりと撫で続けた。







それからどれだけ経ったかは分からないけど、男の子はごしごしと目を擦りながら頭を上げたのでそっと顔を覗き込んでみた。


「大丈夫?」
「…うん……、あの、めいわくかけて、ごめんなさい……」
「ううん、大丈夫だよ」


ぺこりと頭を下げて謝る男の子。随分と大人びた子だなぁ。


「なんで泣いたのか聞いても大丈夫かな?」
「…あのね、おとうとのりゅうじが、かいだんからおちて、それで…ぼく、いっしょにあそんでて……りゅうじいっぱいないて、っ」


それは、すごく怖かっただろうに。また泣きそうになる男の子を抱き上げて膝の上に乗せる。


「大丈夫、泣かないで、ね?お医者さんがりゅうじくんの痛いの治してくれるよ」
「…う……りゅうじ、なおる…?」


うん、だから泣かないで、ともう一度男の子の頭を撫でる。
救急で来たわけではなさそうだから、外来のほうに行けばこの子のお母さんとそのりゅうじくんって子もいるだろう。探しているかもしれないけど…連れていっても大丈夫かな…?もし入れ違いになったりしたら……うん、その時は冬花さんに言えば大丈夫、だろう。


「お母さんたちのところ、行こうっか?」
「ママのとこ…?」
「うん、君がいなくて心配してだろうから」
「…うんっ」


あ、笑った。やっぱり子供は笑ってるのがかわいいな。そういえばこの子の名前聞いてないな。


「君、名前はなんて…」
「宙人くん!!」
「あ…ふゆちゃん!」


いつも聞く声が聞こえたと思ったら、男の子が手を振っている。そこにいたのは、息を上げた冬花さんの姿が。


「ひ、宙人くん、勝手に、いなくなっちゃだめ、でしょ……」
「冬花さん、大丈夫ですか?」


そばまで来て地面に膝をつき息を整えながら言う冬花さん問えば一度大きく深呼吸をして頷いた。


「あの、冬花さん、この子と知り合いなんですか?」
「友達の子供なの。…優一くんは?」
「さっき知り合ったんです」
「そうだったの…ごめんなさいね、面倒見てもらって」
「いいえ、久々に弟以外の子と話せてちょっと楽しかったです」


怒られると思っているのか、男の子(さっき冬花さんに宙人くんって呼ばれてた)はぎゅっと俺の服を掴んで心配そうにこちらを見ていた。


「怒ってないよ。私より、流司くんのほうが怒ってるよ。お腹空いたのに宙人くんがいないから」
「!…りゅうじ、なおった?」
「うん、治っておやつ食べたいって待ってるよ」


冬花さんの言葉に男の子はパァッと顔を明るくさせて、そのまま冬花さんに抱っこされた。


「迷惑かけてごめんなさいね、優一くん」
「いいえ」
「ほら宙人くん、お兄ちゃんにありがとう言わなきゃ」
「おにいちゃん、ありがとうございました」
「ううん、りゅうじくん、元気になってよかったね」


抱っこされたまま、ぺこりと頭を下げる男の子。ありがとうは言えても頭まで下げれる子はそんなにいないだろうなぁ…、偉い。


「うんっ!あ、おにいちゃん」
「なにかな?」
「おなまえ、おしえてもらっても、いいですか?」
「そうだったね。優一っていうんだ」
「ゆういちおにいちゃん、…ぼく、ひろと、っていいます」
「ひろとくん、か。よろしくね」
「はいっ!えっと…ゆういちおにいちゃんは、まだここにいるんですか?」
「うん、まだいるよ」
「じゃあ、こんどはりゅうじといっしょにおみまいにきます!」
「本当?嬉しいなあ、楽しみにしてるね」
「うんっ!」


じゃあまたね!と手を振ってくれるひろとくんにこちらも手を振る。建物の中に入るまでずっと、こちらにずっと笑顔で振ってくれるものだから可愛くて仕方がない。


「ふふっ」


京介が来たら、ひろとくんの話をしてやろう。
案外アイツはブラコンだからな…どんな顔するかな。





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