「ママーっ!オレのくつしたがないーっ」
「昨日の夜、鞄の所に置いたでしょう?」
「ないのー!」


一階から聞こえる騒がしい声に眠っていた頭が覚醒してくる。窓から入る陽の光を眩しく思い、欠伸を1つ零してベッドから下りた。昔は履きたく無かったスリッパも、今じゃすっかり履き慣れなれて滑ることなく、歩いている途中で脱げることも無くなった。
ドアを開けて部屋を出るとそこには1人目の愛息。こちらに気付いた息子はパッと顔を明るくさせて足に抱き付いてきた。


「おはよう、パパ!」
「おはよう!宙斗(ヒロト)!」


ニコニコと、笑う宙斗の頭を撫でて抱き上げれば嬉しそうにきゃっきゃと笑って今度は首に抱き付いてきた。おー可愛いなおい!とか思いながら階段を下りていく。リビングのドアを開ければそこには2人目の愛息と最愛の妻が……


「くーつーしーたー!」
「もう今日は違う靴下履きなさい!」
「いーやーだーっ!」


靴下の話題でケンカ中だった。
朝から何やってんだ、と笑いながら宙斗を椅子に座らせて2人へと近づく。


「あのくつしたじゃなきゃやだーっ!」「無いんだから仕方ないでしょ」
「おーどうした、流司?」
「パパぁ…」


床に座り込んで靴下片手にこちらを見上げてきたのは宙斗の双子の弟の流司。今にも泣き叫ばんばかりに目いっぱいに涙を溜めているこの子の頭を撫でながらそばにいた妻の夏未を見た。


「昨日用意してた靴下がないそうなの」
「靴下?その手に持ってるのは?」
「これじゃないのーっ!」


叫び声にも似た流司の声に耳がキーンッてなる。デカい、耳元でこの声はダメだって。ちょっと耳痛いぞ…。


「ひろととおそろいなの!」
「そうなのか?」
「えぇ。昨日2人で一階に準備してたわ」
「宙斗ー」
「ぼくのはもうはいてるよ」

さっき椅子に座らせた宙斗を見れば足をこちらに向けて靴下を見せてくれた。白地に黒い線とワンポイントにサッカーボールの入った靴下。そういやこの前じぃちゃんに買ってもらったって言ってたな。
で、流司のその靴下がないと。


「きのうかばんのとこ、ふくといっしょにおいてたの!」
「んー……ん?かばん?」


かばん、鞄……
ぶつぶつと呟く俺を夏未が不思議そうに見てくる。
まさか、と思い先程下りたばかりの階段を一段飛ばしで駆け上がり流司と宙斗の部屋のドアを開ける。男の子らしい、青を基調としたその部屋。左側にある流司のベッドの下を覗き込めばそこにはおもちゃや絵本の入った箱。それを少し動かして……あった。


「そういや、昨日の夜にこいつらの部屋来たんだ。そのときに何か蹴って、流司の鞄だって分かったんだけどまさか上に靴下置いてたなんてなー」
「「「………」」」


あははーと笑う俺にドアに立ったままの3人はジトッとした目を向けてくる。


「あはははは……すんません」
「2人とも、朝ご飯にしましょう。幼稚園遅れちゃうわ」
「ぼく、きょうはぎゅうにゅうがいいな」
「おれもー!」




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