「寒い…」

家から出た瞬間に口から出た時の定番のこれ。どうにも寒がりな私はこの季節、というか秋と冬が大の苦手だ。暖かかったり寒かったりするのを切実にどうにかして欲しい。無理だけれどなんとかしてくれ。頼む。
ついでに言えば冬が終わって直ぐの春も苦手だ。春は暖かいと言うけれど、私はそうでもないと思う。

残念なことに歩かなくては学校には行けないので仕方なく足を進める。もう帰りたくて仕方ない。





校門を潜れば、同じクラスのお菓子魔神こと紫原敦が目に入る。相変わらずの身長と髪色でかなり目立っているが、本人は気にしていないようだ。そして隣を陣取るはフェロモン先輩改め、氷室先輩。帰国子女の超イケメンで、よくモテる。気さくな性格で、男女共に人気のある学校の憧れの的だ。
そんなキラッキラした人達からかなり後ろを歩く登校拒否ギリギリの私を紫原が見つける。

「あ、名字ちん」

や、やめろ…私はまだ死にたくない。見下ろすと見つけやすいものね、人も捜し物も、これはもう諦めるしかないようだ。私の宿命である我慢しよう。
氷室先輩も遅れて振り返り、100点満点、いやもうそれ以上のスマイルと素敵な声で挨拶してくれた。もう思い残すことはないじゃあな紫原…と出かかる言葉を飲み込み、それとなく挨拶を返す。

右には魔神、左には氷室先輩というなんとも言えないこのカオスな状態で下駄箱へ向かった。この時の私は友人いはく、巨人とイケメンに囚われた宇宙人状態だったとのこと。そう思うなら助けてくれたっていいじゃないか!!と泣きついたのも懐かしい。

話していると不意に紫原が「ねぇねぇ名前ちん、今日なんの日だか知ってる?」とおもむろに尋ねきた。新作のデンジャラスまいう棒の発売日か答えれば不満とばかりに頬を膨らませ、フンッとばかりにそっぽを向く。そんなに大事な時日だったか…?と考えるが、結局答えは出ないので、氷室先輩にヒントを求めた。

1年に1度の特別な日だよ、と言われたがそんなのなかなか思い浮かばない。隣で氷室先輩が笑って地味に急かしてくる。
あ、そうか、そういうことか!わかったぞ!!と閃いた私は得意げに「誕生日だ!」と紫原を見た。

「せいかーい。でも室ちんにヒントもらったからポイントは半分でーす」

「ポイント?」

「残念だったね名前ちゃん」

「え?あ、はい」

とりあえずおめでとうと言えば、満足げに紫原がニッと笑った。だが、生憎私はプレゼントなんてものは持ち合わせてはないし、お菓子もない。別にお菓子じゃなくてもいい、と空から槍が降ってきそうなこと言う紫原に動揺して足を止めた。

腕をグッと引っ張られ目の前には紫原。正確には視界いっぱいの紫原の顔。は?本当に勘弁してくれどういう事だ。今の私じゃ処理しきれないぞ
女子の高い声と男子の野太いがこだまする。注目を一点に集めていることはわかってる、わかってるけれど何故こうなったのか理解できない私は目を丸くするしかなかった。
氷室先輩は終始笑顔で逆に怖い。助けてくれたっていいじゃないか…

「はいどーも」

満足そうに笑っている紫原に仕返しをしてやりたいが、うまく声は出ないし身体も動かない。身体が熱くなっていくのがわかり、今さっき私が何をされたのか思い出すと、今度は耳まで熱くなる。

「紫原!!」

そう言い残し、なんとか廊下を走り去った。絶対に許さないからよく覚えておいてほしい。





20141211

20170408 修正

20170718 修正


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