窓を開けるとまだ少し冷たい風が部屋に吹き込む春の季節。色とりどりの花と鳥の鳴き声が見聞きで
きる。動植物には暖かい季節だと言うが、どうにも私にとっては寒い季節で過ごしにく言ったらありゃしない。
ふと白い花に目が止まり、昔彼が私にくれた花を思い出す。




満足げに微笑みながら差し出す桃色の花。多分花言葉なんて解っていない。だって敦はお菓子が好きで、それ以外に興味があるって言ったらバスケぐらいしか思い浮かばないような人だ。

「可愛い花でしょ?名前ちんの好きそうな花だって思ったから買ってきたんだ」

彼から花を受け取って、花瓶に移しながら「敦が花持ってくるなんて珍しいね、何かあった?」と言えば、開けようとしていたお菓子を落とし、これまでにないくらいハキハキした口調で「忘れちゃったの!?覚えてたの俺だけ!?」と私の肩を掴んで前後に揺らす。
なんの日だ!?今日はなんの日だ!?敦がお菓子我慢した日?それともピアスホール開けた記念日?ろくな記念ばっかりだなおい……

「あ!今日は付き合って3年目の記念日だね」

「去年も祝ったのになんで忘れちゃうかなあー?」

「あはは、申し訳ない…」

「もー忘れちゃ駄目だよ?」

「しっかり覚えときマス」

彼が私の頭を撫で、すごく悩んだことを誇らしげに話す。なんだかそれが子供のように無垢で可愛かった。それでね、えっとねと続け、私はそれに相槌を打って愛しい彼の姿を目に焼きつける。こんな姿はそうそうに見られないので大目に見てほしい。

「んでら思ったより沢山種類があって綺麗だしいい匂いだし。その時ね、この花が目に止まったんだ。はじっこにあって目立たなかったけど、すっごく惹かれて、俺この花がいいなあって思ってね気が付いたら買ってた!」

「敦が選んだの?」

「そうだよ?あ、今想像して笑ったでしょ」

「可愛いじゃない。花を選ぶ敦って、みたかったなあ…」

「ええ?そう?」

小首をかしげている今の表情もいい。とっても可愛い。身長2m越えの、トトロより大きい男の子がこんなに可愛いなんて敦が居なきゃ思わなかっただろう。そうはいいつつも敦限定なんだけども。


チャイムの音で我に返り、開けていた窓を閉めて玄関のドアを開ける。少し勢いがよかったので、目の前に広がる白い花。その後ろで肩を上げて驚いている敦が見えた。

「びっくりした!」

「ごめんって。おはよう敦」

「おはよ、名前ちん」

あの思い出から大分経ち、私達は社会人になった。敦は大学に進学して大好きなバスケを続けている。あまり休みが合うことは無いけれど、できるだけどちらかの家に遊びに行くのがデフォルトになりつつある。

「今日は覚えてる?」

「やーね、覚えるって約束したじゃない?今日で7年目でしょ?」

「ピンポンピンポンだいせいかーい!そんな名前ちんにプレゼントがあります」

私は敦から花束を受け取って、なにやらごそごそとポケットをいじっている姿をじっと見つめる。
珍しく緊張した彼の手が少し震え、大きな手で小さな箱を開けて私に差し出す。意味はわかっているがうまく声が出ない。こんなのはい、としか答える他ないのに、嬉しくて嬉しくて声にならない。

「高い指輪は買えなかったんだけど、名前のために選んだ指輪、受け取ってくれる?」

「ええ、喜んで」





20141111

20180718 修正

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